侯爵家の屋敷
「すごい...」
次の日、私はルーエさんと一緒に、王都にあるアイルベル侯爵家のお家に来ていた。
家っていうか、お屋敷というか、とにかく大きくて豪華な見た目をしていた。やはり貴族の中でも上の方そうだ。
「どうぞ」
ルーエさんの手を借りて、馬車から降りる。さすがに馬車は揺れた。自動車と舗装された道って偉大だったんだな...と実感した。
豪華絢爛な屋敷の前に立つ、ジャージの私。ちぐはぐだ。せめてワンピースでも着ていれば...と思うけれど、そもそもコンビニに行くだけだったのだから仕方ない。
「おかえりなさいませ」
お付きの者が立派な扉を開けると、数人の使用人が並んでいて、一斉に頭を下げた。揃いすぎて逆に怖い。
「ただいま戻った。執事長、準備は出来ているか?」
「はい、できております」
ルーエさんが敬語を外したの初めて見た。私に対してずっと丁寧だったから、ちょっと新鮮。
「レネ様、紹介します。これからレネ様のお世話をする専属侍女です」
「ミアと申します。よろしくお願いいたします」
ルーエさんに紹介され、ミアと名乗った女性は、赤茶色の髪に深い緑色の目をしていて、柔和な顔立ちをしていた。
歳が近そう。それに名前が長くない。いいね...!
「レネ様が気兼ねなく接することができるように、平民の商家出身で歳が近い方を選出しています」
「えっと、お幾つですか?」
「今年22になります」
「ひとつ上なんですね。これからよろしくお願いします」
正直、専属侍女なんて恐れ多いけれど、私の体の状態では自分であれこれできないだろうから、そのまま受け入れておこう。それに侍女選びで色々気遣ってもらっているみたいだし、厚意は無駄にしたくない。厚意はありがたく受け取れ、と昔友人に言われた。その友人とは大学進学とともに連絡が取れなくなったけれど。
私が挨拶すると、周りの人はホッとしたような顔をした。昔なにかあったのかな。
「ミア、レネ様をお部屋にご案内しなさい」
「かしこまりました」
執事長の指示により、その場は一旦解散になった。
「こちらがレネ様の私室になります」
ミアさんに案内され部屋の中に入る。スペースこそ広いものの、白とベージュを基調に整えられたシンプルで洗練された部屋だった。
天蓋付きの大きなベッド、ふかふかそうな3人がけソファー、木の温かみがあるローテーブルに書き物ができる机と椅子、そして細かい部分まで繊細なデザインの入ったドレッサー。どれも好みで、しかもどこか前の世界の面影があって心が落ち着く。天蓋だって、魔力欠乏症の時に光がきつかったのを知っていて付けてくれたはずだ。
「お気に召しましたか?」
「はい。用意してくださってありがとうございます」
「ではお着替えをしましょう。お召し物はご自分で選ばれますか?」
「せっかくなら見てみたいです」
屋敷に行く途中の馬車から外を見たところ、昔ながらの西欧風な世界のようだった。きっと服装もお嬢様風で可愛いはず。
「こちらがレネ様の衣装部屋になります」
ミアさんに案内され、部屋の中にあったもうひとつの扉をくぐると、そこには十数着の衣装が並んでいた。
「かわいい...!」
位が高そうな家みたいだし、派手なのかもしれないという懸念が吹き飛ぶくらいには、シンプルで上品なワンピースやロングスカートが並んでいた。今の季節は春のようで、ピンクやオレンジのような暖かくて柔らかい色の7分袖が多い。
「お気に召していただけましたか?」
「はい、とても。あの、今日はこれを着てもいいですか?」
私が指さしたのは、衣装部屋に入ってすぐ目に止まった淡いレモン色のロングスカートに、控えめなフリルが付いたブラウスのセット。
こういう色は着たことがなかったので、わくわくする。ちなみに友人曰く、私は淡い色が似合うらしい。
「かしこまりました。すぐに準備いたします」
ミアさんにされるがまま、服を着替え、ヘアメイクをしてもらう。髪型はミアさんが得意な編み込みハーフアップになった。
鏡を見て、思わず感嘆する。これが私か。いや、私なんだけど、自分結構いけているのでは...と自惚れてしまいそうな出来だった。自分で適当に化粧して、適当にひとつ結びにするのとは全然違う。
「ありがとうございます。ミアさんは凄いですね」
「恐れ入ります。それと、私は専属侍女ですので、さん付けも敬語も取ってください」
それはそうだ。ただ、家族友人以外は基本的に敬語が常識な国で育ったので、少し抵抗がある。とはいえ、それがこの世界の常識なら、従うしかない。私のモットーは、郷に入っては郷に従え、だ。自分から入ったわけではないけれど。
「わかったわ。えっと、改めてよろしくね、ミア」
「こちらこそ誠心誠意お仕えいたします」
ミアさんは、たどたどしい私に、優しく微笑んでくれた。
「書斎に参りましょう。当主様がお待ちのはずです」
当主様...?ルーエさんではなくて?
書斎に入ると、1番奥の椅子に座っていたルーエさんが立ち上がった。
「当主様、レネ様をお連れいたしました」
「ありがとう」
ルーエさんが目配せをすると、中に控えていた執事長とミアさんが静かに部屋を出ていった。
ルーエさんって侯爵家の当主だったんだ。
「どうぞおかけになってください」
「あ、はい」
机と扉の間に並べられているソファーに腰掛ける。おぉ、これもふかふかだ。
「軽くこの世界とこの国について説明していきます」
「よろしくお願いします」
頷くと、ルーエさんは静かに説明を始めた。




