魔道具
腕に冷たい感触がして目を開ける。
どのくらい眠っていたのだろうか。外は暗くなっていた。
「起こしてしまいましたね」
横を向くと、ルーエさんが私の手を持っていた。自分の腕を見ると、2cmくらいの銀の腕輪がはまっていた。
「あの、これは...?」
「昼前に話した魔道具です。勝手に触って申し訳ございません」
そう言ってルーエさんはサッと手を離す。寝ている間に付けてくれたんだ。
というか、びっくりした。手錠かと思った。これが魔道具らしい。ただの手錠風腕輪にしか見えない。
「いえ、大丈夫です。あれ、でも体調はまだ...」
眠る前と同じか、さらに酷くなった体調に、絶望する。魔道具でも効かなかったんだ...今からずっとこの体調なの...?
「失礼します。大丈夫ですよ、まだ魔力を補充していないので、効力はないです」
私の表情が曇ったのを察したのか、ルーエさんが優しく手を握ってくれた。手が温かい。私は体温まで下がっていたらしい。
「魔力を補充してもいいですか?」
「お願いします...」
とにかく早くこの状態を何とかしてほしい。もう体も心も限界だった。
「では補充します」
腕輪の上にルーエさんが手をかざした。手のひらから発せられた淡い光が、腕輪に吸収されていく。非現実で幻想的な光景だった。
「綺麗...」
思わず感想が漏れた。
腕輪は光を吸収すると同時に、青色のつる草の模様が出てきた。少しずつ模様がはっきりしてくると同時に、体調も次第に良くなっていった。
体感1分くらい経った。淡い光は消えて、体調も転移する前と変わらないくらい戻った気がする。
「体調はどうでしょうか」
「とてもいい感じです。さっきまでの状態が嘘みたいに体が軽い...」
「成功ですね」
上体を起こして肩を回したり、首を動かしてみたりしたが、違和感を全く感じなかった。
いったいどういう原理なんだろう。魔力欠乏症と言っていたし、ルーエさんの魔力を腕輪に溜めたのかな。
「簡単に説明しますと、私の魔力を腕輪にこめて、腕輪からレネ様の体の中に常時魔力が流れるようになっています」
当たりだった。魔道具すごい。そして魔力欠乏症怖い。
「この世界では、生命を維持するだけでも魔力を必要とします。さらに日常生活の動作にさえ魔力が要ります。この魔道具はそれらを担ってくれるようになっていますが、定期的な補充が必要です」
ふむふむ、なるほど。外付けの筋肉みたいな感じか。
「この模様の濃さが腕輪に残っている魔力量を表している...で合ってますか?」
「そうですね。その認識で間違いありません。急いで作ったものなので2日分しか持ちませんが、今魔導士団長に改良をさせています」
「魔力の補充はどなたが?」
「私がします。魔力は人それぞれ型が違うので、混ざると反発したりして危険ですから」
そこは血液と似ている。魔力は筋肉であり血液なんだ。それがなかった私、もしかしたらかなり危険だったのでは...。
そして、私には元から魔力が存在しなかったから、ルーエさんの魔力を流しても問題なかったけれど、今はルーエさんの魔力が体を巡っているから、ほかの人の魔力は危険になったということか。
あれ、そしたら私、今後ずっとルーエさんの魔力を貰うことになるのでは...?
恐る恐るルーエさんを見ると、相変わらず美しい顔をしていた。優しそうな笑みを浮かべている。多分、あまたの女性を落としてきたんだろうなぁ。
「あの、私の今後は...?」
「レネ様は、私たちアイルベル侯爵家で庇護することになりました。魔道具はルーキャスタが作っていますし、魔力は私以外が補充することはできないので。それに元はと言えばルーキャスタがミスをしてしまったのが原因ですので、責任はきちんとアイルベル侯爵家が取らせていただきます」
ルキタさん、魔導士団長だった。他の世界から人間を召喚できるくらいなんだから、身分も実力もあるのは不思議ではない。
そして、侯爵家ってことは、おそらくこの国の貴族だよね。貴族でこの顔立ち、あれ、私疎まれる側なのでは?
「この世界のことや、アイルベル侯爵家のことは、明日以降詳しく説明させていただきます。今日はおやすみください」
ルーエさんはそう言って、椅子から立った。優雅な所作で部屋の扉近くまで歩き、こちらを振り返った。
「ひとつ注意点ですが、動けば動くほど魔力の消費も大きくなりますので、魔道具が改良されるまでは安静にしていただけると幸いです」
これ、もしかして強制まったり生活なのでは。




