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第一章:凪の終わり、予期せぬ漂流

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十七歳の夏。



クラスの「目立たないグループ」の隅っこにいた私は、眼鏡の奥でいつも地面を見ていた。



控えめすぎる胸を隠すように少し前傾姿勢で歩き、他人と視線を合わせるのが苦手だった私は、学校行事の小さなクルージング会でも、デッキの片隅で読書をしていた。



「サキちゃん、そんなとこにいないで、こっち来なよ」

声をかけてきたのは、カイトだった。



彼は私とは正反対に、クラスの中心にいるような明るい男子だった。運動神経が良くて、誰にでも分け隔てなく接する。私のような影の薄い女子にも、彼は時々、眩しすぎる太陽のような笑顔を向けてくれた。



「……いいの。私は、ここで」

「もったいないって。ほら、今日は波も穏やかだしさ」



その時だった。



穏やかだった海面が、急激に色を変えた。

予報になかった突風と、巨大なうねり。小型のクルーザーは、悲鳴のような軋みを上げて大きく傾いた。



「危ない!」



カイトの手が、私の腕を掴んだ。

次の瞬間、世界は上下を失い、冷たい飛沫と深い青に飲み込まれた。

どれくらいの時間が経っただろうか。



耳の奥で鳴り響く強烈な耳鳴りと、砂の感触で目が覚めた。

「……っ、げほっ……」

口の中に溜まった海水を吐き出し、私は顔を上げた。



眼鏡は奇跡的に、細いツルが耳に引っかかって残っていた。けれど、レンズは塩を噛んで白く曇っている。



シャツは肌に張り付き、下着が透けているのがわかって、私は反射的に腕で胸を隠した。



「……サキ、生きてるか?」



少し離れた場所で、カイトが倒れていた。

彼はふらふらと立ち上がり、周囲を見渡した。



そこは、地図にも載っていないような、小さな無人島だった。

見渡す限りの水平線。自分たちが乗っていた船の影はどこにもない。



あるのは、打ち寄せられた木片と、静まり返った白い砂浜だけだった。

「遭難、したんだな。俺たち」

カイトの声は震えていたけれど、彼は私よりもずっと強かった。



「大丈夫だ。これくらいの島なら、すぐに捜索が来る。それまで、なんとか凌ごう」



初日。カイトは八面六臂の活躍を見せた。

彼はサバイバルの知識をどこで仕入れたのか、打ち捨てられたペットボトルを集めて蒸留水を作ろうとし、折れた枝を器用に組み合わせて火を起こした。



私はといえば、ただ彼の後を追うことしかできなかった。



「何か、手伝うことは……」

「いいよ、サキは休んでな。女の子なんだし、無理すんな」



彼の優しさが、今の私には刃のように刺さった。

私は、ここでも何もできない。



ただ守られるだけの、無力で、地味で、空っぽな存在。

その夜、カイトが捕まえた小さな魚を焚き火で焼き、二人で分けた。



「美味しいね」

「ああ。意外といけるな」

火を囲んで座る二人。

けれど、会話は続かない。



カイトの顔が、火に照らされて赤く光っている。彼は気丈に振る舞っているけれど、その肩が微かに震えているのを、私は眼鏡の奥で見逃さなかった。



「……カイト君」

「ん?」

「ありがとう。私、一人だったら、今頃……」

「よせよ。二人だから頑張れるんだ」



彼は笑った。でも、その笑顔はどこか無理をしているように見えた。

私は、自分の小さすぎる胸のあたりをぎゅっと掴んだ。



私に、何かできることはないのだろうか。

彼を支えるための、何か。

夜の闇が島を包み込む。



波の音だけが、世界の終わりのように響いていた。

この時、私たちはまだ知らなかった。

明日、運命がさらに残酷な試練を私たちに与えることを。



そして、私が「女」として、そして「占い師」として目覚めるための、最初の儀式が近づいていることを。




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