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天才画家 ガヴァルネス・ダン・バッティスと画商の絵画事件簿  作者: はぴねこ


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「つまり、宰相はこの方の作品を他にも見たことがあるということでしょうか?」

 

 俺は思わず興奮して訊いてしまった。

 宰相は少し驚いたようにその目を瞬き、頷いた。

 

「あ、ああ……カトリーヌ様は病弱で結婚をする前に亡くなってしまったから、我が家に絵が残されている」

「このように素晴らしい作品がお屋敷に沢山あるとは実に羨ましいです!」

 

 見に行きたい! しかし、宰相の屋敷に行きたいなどと、俺から言うことはできない!

 誘ってくれないだろうかと思いながらカトリーヌ様の繊細なタッチを絶賛していると、宰相が苦笑した。

 

「そなたは本当に絵が好きなのだな」

「はい!」

 

 だから誘ってくださいと心の中で念じたのだが、宰相の苦笑に憐憫が混じる。

 

「カトリーヌ様がどのような方だったのかは、私は父から聞いた話でしか知らないけれど、残された絵の数を見れば、カトリーヌ様が絵を描くことがお好きだったこと、そして、貴族女性では描く題材を自由に選ぶことはできず、さらに作品を多くの者に披露することもできなかったことは推測できる。カトリーヌ様にも、そなたのような理解者がいてくれればよかっただろうに」

 

 なんだかしんみりしてしまった宰相にそれ以上、カトリーヌ様の絵が見たいとアピールすることはできなかった。

 

「それで、この魔法陣にはどのような効果があるのですか?」

 

 ずっと黙っていたケイジがしびれを切らしたように魔導師に聞いた。

 

「そうでしたね。その話をするのを忘れていました」

 

 魔法陣の美しさに気を取られて、俺からの質問を忘れていたようだ。

 

「簡単に言えば、防御魔法です」

「防御魔法……それで、火災の火からも守られたということですね?」

「この魔法陣が完璧なものならそうですね。火災だけでなく、陽の光や湿気など、絵を傷める自然現象や、刃物などによる傷、あらゆる危険から守られたはずです」

 

「魔法陣が完璧であれば」と彼は再度言った。

 

「そういえば、リュエルはこの魔法陣を完成させることができると言っていたな?」

「はい。完成させるためには侯爵の家を訪ねる必要がありますので、これから手紙を出して、訪問日時を尋ねるつもりです」

 

 そして、この美しい絵は決して呪われた絵などではないと伝えよう。

 

「それならば、私から明日の午後に訪ねると連絡を入れておく」

「まさか、宰相様も行かれるのでしょうか?」

「カトリーヌ様の絵をそのまま侯爵家に置いておくわけにはいかぬからな」

 

 そして、宰相はニィッと口角を上げた。

 

「呪われた絵などと吹聴することになったきっかけも、侯爵の口から聞かねばなるまい」

 

 宰相がお怒りだが、これで侯爵が何かしらの処罰を受けたとしても、それは俺のせいではないと思う。

 

 


「ど、どうして宰相様と宮廷魔導師様がこちらに……」

 

 訪問した俺たちを出迎えた侯爵は縮こまっていた。

 それはそうだろう。

 宮廷魔導師が貴族たちの中でどれくらいの地位なのかは知らないけれど、宰相は間違いなく高位にある存在だ。

 侯爵がチラチラとこちらを見てくるけれど、俺に助けを求められても困る。

 

 ちなみに、ネストは俺にピッタリくっついているし、助手の顔したケイジもちゃんと護衛として控えている。

 なんなら今日は宰相の護衛として騎士達も数人いる。

 

「侯爵、呪われた絵をリュエルに預けたであろう?」

「は、はい」

「あの絵のことで話があるのだ」

「あ! もしも、宰相様のお気を悪くされたのでしたら、あの絵は即刻処分いたします!」

 

 どうやら、侯爵は運のない男のようだ。

 どうして、そんな宰相の望みと真逆のことを言ってしまうのか。


 宰相は眉をぴくりと動かしたものの、微笑みを崩すことはなかった。

 それがすごく怖い。

 

「なぜ、あの絵は呪われた絵などと言われるようになったのだ?」

 

 宰相の問いに侯爵はおずおずと説明を始めた。

 彼の数代前の当主が絵を購入し、それからしばらくして火事が起き、当時屋敷にいたほとんどの者が亡くなるほどの火災だったにもかかわらず、絵が焼き残ったこと。

 そして、その後も絵をそばにおいた当主達は体調を崩すなど不調をきたしたこと。

 

「火災の中でも焼き残ったことは説明がつくが、当主達が体調を崩してきたというのはどういうことだと思う?」

 

 宰相が俺に聞いてきたので、俺は説明をした。

 これに関しては、絵に関わっている者ならば容易に説明できる。

 

「絵の具は独特の匂いがしますから、匂いに敏感な方の中には気分が悪くなる方もおります。人によっては魔石を使った絵の具の匂いのみに反応する方がおられると聞いたことがあります。それと、これは職人達の中での噂ですが、魔力を持つ方の中には、魔石に残っている魔力に敏感に反応して体調を崩す方もいるのかもしれないと……」

「侯爵家の者にそのような体質の者が多かったのなら、繰り返されるそれを呪いと思ったということか……」

「おそらく、そういうことでしょう」


「つまり」と、宰相が侯爵を一瞥し、ついでになぜかケイジも侯爵を睨んだ。

 

「侯爵、そなた、リュエルやバッティスに呪いをかけようとしたであろう?」


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