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「ケイジ、燃えにくい絵の具を作れるような高価な魔石はあるか?」
俺たちよりは魔石に詳しいだろうと思ってケイジに聞いてみたが、少し考えたケイジはゆっくりと首を横に振った。
「知らないな。そもそも、魔石を砕いて絵の具を作るなんて、あんたの護衛にでもならなければ知ることもなかっただろう」
魔石の一般的な使い方は、魔力を持たない者が魔導具を起動する時に使うことだ。
その使い方では、燃えやすい魔石、燃えにくい魔石などわかるはずもない。
魔石そのものが燃えなかったとしても、絵の具として付着したキャンバスを守るような効果があるかどうかなんて、さらにわからないだろう。
「絵の具に使われた素材の効果によって守られたとしても、それを調べる術がないな……」
前世なら、絵の表面を削って絵の具を採取し、それを科学的に調べる方法がありそうだが、この世界でそうした方法があるとも思えない。
そもそも、絵を傷つけてまで絵の具を採取することに気が引ける。
どうしたものかと少女が描かれた絵を見ていると、同じく、絵をじっと見つめていたネストが指を動かし始めた。
「どうした? ネスト?」
「模様が描かれている」
ネストはそう言ったけれど、絵は少女が庭の東屋で読書をしているところが描かれているだけだ。
少女のドレスにはこれといった模様はないし、レース部分もレースとわかるように描かれてはいるけれど、その模様は明確に描かれているようには見えない。
東屋には装飾があるけれど、それを模様とは言わないとは思うが……
「東屋の屋根の装飾のことか?」
念のために確認してみたが、ネストは首を横に振り、絵の左端上部、柔らかな雲のかかった空の部分を指差した。
俺たちがネストの指先に注目すると、ネストはまるで円を描くように腕をゆっくりと動かした。
指はキャンバスからはみ出すほどの円を描いた。
「そこに、模様があるのか?」
ネストはこくりと頷いた。
俺、キオさん、ペルトは絵に顔を近づけて、ネストが指をさした部分をじっと見つめた。
俺の頭の上からケイジも見つめていたようだが、「俺にはわからないな」とすぐに匙を投げた。
しばらく絵を見つめていると、キオさんもペルトも何かを確認するように指を動かし始めた。
「ケイト、違う色の絵の具で少しずつ描かれているから、この繊細なタッチと相まってわかりにくいけれど、確かに、ぱっと見にはわからない模様のようなものが描かれているようだ」
「ちょっと気になる部分もありますし、紙に描き出してみます」
ペルトの申し出に「いいのか?」と問えば、「まだ修行中の俺が一番暇ですから」と微妙な表情を見せた。
「キオさんからはペルトならすぐに画家になれると聞いている」
キオさんの評価を伝えると、ペルトの頬が少し染まった。
「大切な時期に悪いが、頼めるか?」
ペルトは明るい表情で返事をしてくれた。
ペルトは工房に来て、キオさんから絵を学ぶようになってからどんどんと表情も声も明るくなっている。
絵を描くことが好きなのに、思うように絵を描くことができない貴族社会は彼にとっては非常に居心地の悪い場所だったのかもしれない。
俺がペルトを褒めたのが気に入らなかったのか、ネストがくっついてきた。
「僕も、それ描く」
不機嫌に、呪われた絵を睨んだ。
「お前にはお貴族様たちを描く仕事があるだろう?」
まだまだ描かなければいけない貴族は残っているのだ。
ネストには悠長に他のことをしている時間はない。
俺はネストを連れて城の離宮へと帰った。
数日後、キオさんから連絡を受けて、俺は再び工房へと向かった。




