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「ということで、絵を持ってきてみたんだけど、何か気づいたことがあったら教えて欲しい」
侯爵のスケッチを終えた後、侯爵が執事に持ってこさせた絵を工房に持ってきてみた。
侯爵の屋敷からそのまま工房に立ち寄ったからネストとケイジも一緒だ。
絵の逸話と事情を説明すると多くの職人たちは微妙な表情をした。
だから、俺は絵を見たくない者は仕事に戻り、見ても平気だと考えている者だけを二階の住居スペースへと呼んだ。
そこで厳重に包まれていた絵から紐と布を取り外すと、そこには美しい庭園の東屋と思われる場所で読書をする少女の姿が描かれていた。
ルノワールの「少女イレーヌ」のような繊細なタッチで描かれた絵は、とても美しく、呪われた絵として長年封印されていたことが信じられなかったし、同時に非常に勿体無いと感じた。
「これは、とても美しい絵ですね」
キオさんがため息を漏らすようにそう言った。
非常に上手いという絵ではなかったが、丁寧に描かれていることは感じられたし、何よりも、絵の具の発色が美しかった。
もう一人、呪われた絵をじっと見つめるのはキオさんの直弟子になったペルトだ。
「どうだ? ペルト、何かわかったか?」
俺の言葉にすぐに反応したのはネストだった。
「ケイトさんはどうして僕には何も聞かないの?」
「ネストはこの絵に興味があるのか?」
ネストは絵を描くことは好きだけれど、誰かの絵を熱心に見ていることはない。
きっと、この絵を描いた人物にも、この絵にも興味などないだろう。
「もちろん、この絵を見て気づいたことがあれば意見をくれ」
ネストは不貞腐れたように絵を一瞥したが、やはり興味を持たなかったようで、俺の肩に寄りかかってその目を閉じた。
「ケイジは何かあるか?」
「絵の良し悪しはわからないし、貴族の屋敷の火事に絵が関係していたなんて聞いたこともない」
侯爵の話からもだいぶ前からこの絵は隠されて封印されていたようだから、ケイジが魔法警団に入る前の話なのかもしれない。
「長年、隠されていた割には劣化のない美しい発色ですね」
キオさんが絵をまじまじと見ながら言った。
確かに、絵は隠されて、手入れもされずに放置されていた割には年数を感じさせない美しさを保っていた。
「おそらくですが」とペルトが口を開いた。
「この絵は貴族女性が描いたものだと思います」
ペルトの声にネストはその目を開けて、不機嫌そうにペルトを見た。
「どうしてそんなことがわかるんだ?」
「この繊細なタッチは貴族女性の絵によく見られるものです」
「こうしたタッチが貴族女性に好まれたということか?」
俺の質問にペルトは「いいえ」と首を横に振った。
「貴族の芸術というのは、その制作過程の美しさも大切であり、女性が太い筆を持ってダイナミックに絵を描くことは許されないのです」
「つまり、貴族女性には、筆を選ぶ自由さえもないのか?」
「はい」
それは何という不幸だろう。
自分が描きたいものを描きたいように描く自由を奪われているなんて。
「しかし、この絵が貴族女性が描いたものならば、我々平民が使っている画材とは違うものを使っている可能性もあるのか……」
家柄によっては、絵の具に使う宝石や魔石に金銭的な制限を設ける必要もないのかもしれない。
もしも素材の影響で不燃性の絵の具ができたとしたら、この絵が燃えなかった説明もできるだろう。




