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「そなたは実に面白い!」
後日、またしても宰相と陛下に呼ばれていつもの客間へ行けば、陛下が非常にご機嫌だった。
宰相も笑いを堪えたような表情だ。
「バッティスとは違い、そなたは貴族を殴るということがどういうことかわかっているだろうに」
「不適切な態度をとってしまい、申し訳ございませんでした」
ひとまず俺は謝った。
「まぁ、後見人としては画家の手を心配するのももっともだ」
「貴族たちの目の前でそれをそのまま見せてしまったのは悪手だったが、まぁ煽ったのは伯爵だからな。仕方あるまい」
陛下と宰相の怒りには触れていないことに俺はほっとした。
宰相と陛下がお怒りでないのなら、俺とネストが陛下の御前で貴族に手をあげたことで極刑になることはなさそうだ。
それに、陛下の前で宮廷画家を侮辱したとして伯爵は自宅謹慎、さらには贋作の件を理由に屋敷の強制調査を行うことができるらしい。
怪我の功名ではあるが、その点についても宰相と陛下は満足しているようだ。
「しかし、困った問題も起こっていてな」と宰相が言った。
「あの場にいなかった貴族たちにも、宮廷画家が乱暴者だとすっかり噂が広がっている」
「バッティスに絵を描いてもらうことを恐れている者たちも多い」
「バッティスへの印象を変える必要がある」
俺は少し考えて、「それでしたら……」と陛下と宰相にあるお願いをした。
それからひと月後、俺たちは再び、謁見の間にて陛下と他の貴族たちの前に立つことになった。
贋作を作っていた貴族令息たちと共に。
贋作を作っていた令息たちに関しては、まだ法律制定の前のため、今回、俺に協力してくれ、さらに贋作を作るのをやめてくれるのであれば罪には問わないと伝えてある。
当然、法律ができた後には容赦しない。
そうちょっと脅せば、彼らは協力してくれた。
しかし、贋作を作っていた令息たちと会い、俺は驚いた。
全員で四人いたのだが、そのうちの三人が魔法を使っていた。
そして、一人だけは実際に絵の具を使って、自分の手で描いていたのだ。
さらに、その一人は、俺が知っている人物だった。
「君は貴族だったのか」
帝都に工房が移った後、絵画教室に来ていた子だった。
確か、名前は……
「ペルト?」
「ペルラーキ・マイアット。マイアット子爵家の五男だ」
彼は不満そうな声を出し、俺の顔を見ようとはしなかった。
後ろめたさゆえかとも思ったが、どことなく、何か拗ねているような気もした。
「そうか。子爵令息だったんだな」
そんな彼がどうして、平民向けの絵画教室に来ていたのかは不思議だったが、彼はキオさんの絵が好きだったから、キオさんへの憧れゆえにうちの工房にわざわざ通っていたのかもしれない。
俺に視線を合わせないペルトに俺は手を差し出した。
「今回は協力を頼むよ」
ペルトは俺の手をチラリと見て、それから怪訝そうな顔をした。
「どうして、握手なんて? 俺は、キオさんの絵を……」
「そうだな」
ペルトはキオさんの絵の贋作ばかり作っていた。
それは許されることではないけれど、でも、俺はペルトが描いた贋作にだけは惹きつけられるものを感じたのだ。
贋作を評価するわけにはいかないから、決して言わないけれど。
俺が差し出した手に戸惑っているペルトの姿に、俺は自分の手を引っ込めた。
子供の頃に懸命に絵を学んでいた彼の姿を思い出して、つい情が出てしまったのかもしれない。
今回の彼らの協力は、一度だけ罪に目をつぶる意味もあるのだ。
それなのに、握手はやりすぎだっただろう。
絵を描く技術も持たずに魔法で贋作を作っていた令息たちへの挨拶は簡単に終えて、俺は彼らが用意した絵を持って謁見の間へと向かった。




