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天才画家 ガヴァルネス・ダン・バッティスと画商の絵画事件簿  作者: はぴねこ


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「あの、宰相様にお尋ねしたいことがございます」

 

 数日前に父さんとケイジから贋作を作っている貴族令息についての報告を聞いてからずっと気になっていたことを、俺は宰相に聞いてみることにした。


「私にか?」と、宰相は意外そうに俺に視線を向ける。

 

「国政のことか? 法律のことか? あ、贋作を禁止する法律でも作るか?」

「いえ、そうではなく……その法律は実現可能ですか?」

「今は贋作が悪質だという認識は薄いが、宮廷画家の絵を真似されると困るからな。陛下の財産を守るために法律を作ることは可能だろう」

 

 宰相は罰則案を色々と説明してくれた。

 宮廷画家の絵を模倣して売り出せば極刑でも構わず、他の画家の絵の偽物を作った者は腕を切り落とすか? と俺に聞いてきたので、俺は全力で首を横に振り、罰則についてはもっと慎重に考えるべきだとだけ伝えた。

 

「は、話を戻しますね。魔法を使えれば、絵の偽物など簡単に作れてしまうというのは本当でしょうか?」

「そのようなことならば宰相ではなくとも、私でも答えられるが?」


 陛下がすこし不服そうな表情を見せた。

 しかし、俺から陛下に直接聞くにはまだ結構な勇気が必要だ。


「陛下に、このようなことをお尋ねするのは失礼かと思いまして」

 

 贋作を作っている貴族令息に父さんの商人仲間の人がどうやって描いているのかを聞いたところによると、魔法で簡単に模造品を作れてしまうのだという。

 だから、自分たちは俺の工房よりもずっと安く提供できるとまで言ったそうだ。

 

 ちなみに、この点をケイジに聞いたところ、「私は魔法にはそれほど詳しくない」と言われた。

 魔法警団とは?

 その疑問をそのまま口にすれば、攻撃魔法は得意とのことだった。

 

 魔法に詳しくない俺にはよくわからないが、どうやら、攻撃魔法と模造品を作る魔法は全く違うということで、俺は宰相に聞いてみることにしたのだ。

 

「確かに」と宰相は頷いた。

 

「水魔法と光魔法が得意であり、幻影を作り出すことが得意ならばすでに存在する絵をそのまま形にすることは可能かもしれない」


 宰相の言葉に、俺は内心で首を傾げる。


「ケイジからうちの工房の絵の贋作を作って売っている貴族の令息は生活のためにそのようなことをしていると聞きました。しかし、そうした魔法が使えるのならば、魔法警団のようなところで役に立てたらいいのではないですか?」


 魔法に特化した騎士団があるなら、そちらでもいいだろう。


「彼らは攻撃魔法を得意とはしていないのだ」

「でも、軍を大きく見せたり、巨大な建物を一晩で建てたように見せて圧倒的な力の差があるように見せることは可能ですよね?」

 

 宰相と陛下、それからケイジが俺を凝視する。

 

「……どうされましたか?」

 

 なぜ、そのように驚いたような、そして、値踏みするような目を向けてくるのだろう?

 すぐにケイジの目が、呆れたようなものに変わり、陛下と宰相はニヤリと笑った。

 

「そなた、参謀として騎士団に所属しないか?」

「しませんよ!」

 

 宰相の言葉に俺は慌てて答えた。

 

「そのような魔法の使い方、考えてもみなかった。かなり有益だ」

 

 陛下は心から感心してくれているようだ。

 

「いえ、思いついたことを言ってしまいましたが、相手も同じ手法を使ってくるとなると、それほど有益ではなかったかもしれません」


 浅はかな思いつきを口にしてしまい、俺は反省した。

 もう軍事的な話は一切しないと心の中で誓う。


「それでも、最初は相手の目を惑わすことができるし、相手がこのような手法を使っている可能性を考慮できることは重要なことだ」

 

 陛下と宰相から思わぬ高評価を得てしまった。

 

 客間から退出する際にも、「騎士団の参謀になる気になったらすぐに言ってくれ」とか言われたが、丁重に断った。

 

 俺は今後も絵に携わって生きていく予定だ。

 本当は、政治にも関わりたくないというのに、芸術性とは対極にあるような軍事に身を置くつもりは全くない。

 

 

 

「ケイ・リュエルは陛下に恩情を与えられていながら、貴族令息の作品については排除しようとするのはあまりに排他的ではないか!?」

 

 陛下からネストの絵を賜った伯爵は、それから二週間ほどでそのように言い出した。


 ネストの絵には、当然、伯爵からもらった魔石で絵の具が作られ、透明な上澄みで描かれた神の子が描かれている。

 伯爵の魔力を流せばその姿が見えるわけだが、伯爵はその神の子の視線に何を思ったのだろうか?

 

「これだから平民からの成り上がりは……」

 

 そう俺を一瞥した後、伯爵は多くの貴族たちの前で、陛下に訴えた。

 

「陛下! このような平民の成り上がりではなく、貴族で才能のある者たちをもっとお引き立てください!!」

 

 伯爵が言うとおり、俺を引き立てたのは皇帝陛下だ。

 俺を成り上がらせたこの国の最高権力者に対して、俺の批判を聞かせるということがどういうことなのかわからないほどに、伯爵は頭がおかしくなってしまったのかもしれない。

 これも、ネストが描いた神の子の影響なのだろうか?

 

 俺がそんなことを考えていると、近くにいたケイジが「あ」と声を漏らした。

 ケイジの視線を追うと、いつの間にかネストが伯爵に大股で近づいていた。

 

「あ……」

 

 やばい……と思う前に、ネストが伯爵を殴り飛ばしていた。

 

 俺は慌ててネストに駆け寄り、伯爵を殴った手を見た。

 

「ネスト、何をしているんだ! 手を痛めるだろう!!」

 

 そう叫んでから俺は気づいた。

 陛下の御前で、やらかしてしまったということに。

 

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