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「伯爵様は他の方の絵をお求めですか?」
俺は失礼に当たらないように笑顔でそう尋ねた。
「それでしたら、私の方から皇帝陛下に進言させていただきますね」
「何?」
「皇帝陛下は帝都にいる全ての貴族当主に肖像画を贈るとお考えですが、伯爵のように自身が気に入っている者に絵を描いてもらいたいというのならば、それをお許しになるでしょう」
「では、失礼します」と深々と頭を下げたのだが、伯爵に止められた。
「いや! 陛下の気配りを無にすることはできぬ! 私としては貴族の画家に描いてもらいたかったが、仕方あるまい」
冷や汗でも流しそうな様子の伯爵に俺は笑顔のまま言う。
「画家と名乗れるのは、皇帝陛下がお認めになった者か、もしくは、皇帝陛下から委任されている私が認めた者だけのはずですが、伯爵が知っている者は自らを画家と名乗っているのでしょうか? その場合、皇帝陛下にお伝えする必要がありますので、その者をお教え願えますでしょうか?」
伯爵は「いや、その者が画家と名乗っていたわけでは……」としどろもどろになっていた。
これ以上突っつくと、相手が激昂してこちらが損をするかもしれないので、俺はこの辺で引くことにした。
「では、スケッチから描かせていただきますね」
俺は公爵の時のように色々と希望を聞いたりすることもなく、最初に通された部屋の中で適当に椅子を借りてネストを座らせ、その前に伯爵に立ってもらい、ポージングも適当に自身の好きな格好になってもらった。
背景はネストの好きな風景を描かせよう。
ネストは人物スケッチを何日もかけて行うことはなく、一度だけ貴族に会って、数時間のスケッチで終わらせてくれるため非常に楽だった。
相手にスケッチのための時間をとってもらうのも一度だけでいいし、今回のような嫌味な貴族に会うのも一度だけでいいのだ。
ちなみに、今回は後ろ暗い疑惑を持つ貴族であったため、ケイジは俺の助手という名目で一緒に屋敷の中までついてきてもらっていた。
公爵の時も、そうすればよかった。
伯爵家を去る時に、若い貴族令息とすれ違った。
彼はキャンバスを抱えていた。
紙に丁寧に包まれていたが、絵に携わっている者なら誰でもわかるだろう。
あれはキャンバスだ。
普通、貴族令息はそんなものは持ち歩かない。
彼がこの屋敷の令息で、趣味で絵を描いていたとしても、キャンバスを移動させる時には使用人に頼むだろう。
それに、彼は俺たちの姿に緊張したようだった。
やけに貴族の絵描きを評価している伯爵家を訪れたキャンバスを抱えた貴族令息……
これだけでかなり怪しいが、まだ絵を見ていないので、贋作を描いている令息だと断定はできないが……状況的に疑ってしまうのは仕方ないだろう。
普通は宮廷画家とすれ違うようなことは避けるべきだが、あの伯爵はもしかすると貴族令息の絵の方が本当に優れていると思っているのかもしれない。
たかが贋作画家が優れていると?
笑わせないでもらいたい。
まぁ、俺としては、その顔を確認できただけでも有益だった。
しかも、今日は、ケイジが側にいるのだ。
「……」
俺がケイジに視線を向ければ、彼は深く頷いてくれた。
ケイジも貴族令息が噂の貴族の画家の一人であることに気付いたのだろう。
父さんとケイジが調べてくれたところによると、贋作を描いている者は複数人いるらしいから、一人を見つけたところで問題はすぐには解決しないが、まずは一人見つけ出して晒し者にでもすればいいだろうか?
前世でも贋作画家はおり、美術館などがそうした作品を買ってしまうこともあった。
つまり、彼らはそれなりに優れた技術を持っているということだ。
しかし、所詮贋作は贋作だ。
嘘をついて、画家の名前を借りている限り、彼らの技量は嘘で汚れたものだ。
前世では、天才贋作師なんて呼ばれる人物もいたが、贋作は贋作でしかないのだ。
自分の才能だけで勝負できないのであれば、絵など描くべきではないだろう。
あ、もちろん、技術を磨くための練習のために他の画家を真似ることは成長過程で必要なことだとは思うが、それを習作としてではなく、他者の名前を借りて世に出すのはマナー違反だ。
「やぁ、ケイト。君の工房の絵の偽物が出回っていると聞いたぞ」
貴族たちへ贈る絵画の定期報告の際に、皇帝陛下はそう言った。
どうやら、贋作の噂は陛下の耳にも入ったようだ。




