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この世界には魔石があって、魔力があって、貴族は魔法で治療してもらうことがあるらしいということは知っていた。
俺には前世日本での漫画やアニメの記憶もあるものの、そうしたものよりも絵画の方が好きだったし、俺自身には魔力はなかったから、この世界でも魔法にそれほど興味はなかった。
親父からこの話を聞くまでは。
「絵が盗まれている?」
しばらく創作に集中していたネストを連れて、俺は工房の二階に住む両親のもとを訪れた。
根を詰めすぎているネストの気晴らしになればと思っての外出だった。
「ああ。知り合いの商会のもんが言ってたんだよ。最近、貴族の令息が絵を売りに来るようになったが、どうにもここの工房の作品によく似ているんだと」
「うちの工房の作品の贋作が出回っているということか? しかし、なんで貴族の令息が?」
絵を描くことが好きな貴族だってそりゃいると思うが、賃金を得て絵を描くのは平民の仕事だろう。
数少ない画家の中でも、皇帝陛下がお認めになった画家に対しては名誉爵が与えられているが、生粋の貴族からすれば、それだって平民に毛が生えた程度のものだとケイジから聞いている。
「生活費を稼ぐためだろう」
ケイジが当然のように言った。
「貴族ならそんな必要ないだろう?」
「俺もそうだが、貴族の令息とは言っても、家を継げるのは長男だけだ。長男と仲が良い優秀な兄弟ならば執務の手伝いをさせてもらうなんてこともあるかもしれないが、大抵は成人になれば文官になったり、騎士になったり、俺のように平民たちと肩を並べて働くことになる」
確かに、そんな話を前にケイジに聞いた気がする。
「それにしても、どうして贋作なんて」
貴族とは自身や家の名誉を酷く気にするものだと思うが、他者の作品を真似て偽物を作るなんて、本人にとっても家にとっても恥にしかならないだろう。
そう思ったのだが、ケイジが言うには違うらしい。
「結局のところ、貴族は貴族が好きなんだ」と、貴族であるはずのケイジが呆れたように言った。
「だから、本来は絵画などの芸術作品は貴族が作ったものを手元に置きたい。しかし、実際には、絵画や音楽などの芸術は才能によるところが大きいため、貴族は貴族たちで保持しておきたい名誉を才能のある平民に譲るかたちになっている」
それが、贋作であれ、貴族が描いた素晴らしい作品があるのならば、貴族が描いた作品に金を払いたいのだという。
「全く理解できない……」
そういう貴族の愚かなプライドのことは理解できないものの、俺はひとまず一切の絵を売ることをやめた。
商人が見てうちの作品の贋作だろうとすぐにわかるということは、その貴族に絵の才能はないのだ。
真似するものがなければ描けないのならば、大人しくしておいてもらいたい。
それでも、その貴族の描いたものを買いたいという貴族は貴族の画家に金を払えばいい。
才能の欠片もないしょうもない絵に金貨を払えばいいのだ。
「父さん、贋作を作っている令息の情報をもっと集めてくれる?」
俺の頼みに父さんは快く頷いてくれた。
「ケイジ」
「わかっている」
ケイジも頷いてくれた。
父さんは平民の商人たちから、ケイジは貴族から情報を集めてくれるはずだ。
情報を集めると同時に、うちの工房が贋作の被害を受けて、しばらくは絵を売りに出さないという情報と、それでも贋作を買う者にはこの先も絵は売らないらしいと噂を流してもらう。
「宮廷お抱えの画家とはいえ、平民であろう? 才能ある貴族の画家もいるというのに、陛下も困ったものだ」
そんなことを言ったのは、宮廷画家となったネストが描く三人目の貴族だ。
宰相曰く、この国に利益をもたらした功労者でもあるが、それと同時に他国に国の情報を売っているという疑惑もある貴族だという。




