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天才画家 ガヴァルネス・ダン・バッティスと画商の絵画事件簿  作者: はぴねこ


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お読みいただきありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけますと嬉しいです。

 皇帝からの最初の指示で、俺たちは公爵邸を訪れた。

 その公爵邸の庭はたいそう美しいということで、庭で夫妻揃っているところを描いて欲しいということだった。


 皇帝と宰相の意図としては公爵一人でと考えていたと思うが、公爵からの希望にただの画商と画家が逆らえるわけもないし、功労者へ贈られる肖像画ならば功労者本人の希望を聞いても問題はないだろう。


 ひとまず、初日は背景となる場所を決め、構図を決めて、ネストに下絵を描いてもらった。

 公爵は堂々とした男性だったが、夫人は始終、暗い表情をしていた。

 

 前妻が病で亡くなって、後妻で嫁いできたということだが、公爵とも歳が離れているようだし、貴族女性が好きな男性と結ばれるのはなかなか難しいことだから、もしかするとこの夫人としては幸せな結婚生活ではないのかもしれない。

 ネストが絵を描く傍らで俺はそんな無粋なことを考えていた。

 

 ちなみに、公爵邸に護衛を連れて入るのも無粋なため、ケイジは馬車で待っている。

 

 ある程度、下絵を描いたところで、公爵は次の予定があると席を外した。

 ネストが夫人の髪の様子やドレスなどをもう少し描き込みたいというので、夫人に時間をもらった。

 夫人は公爵がいた時よりも少し楽な姿勢になり、「お話はしてもいいのかしら?」と聞いてきた。


「お顔の位置をそのままにしていただければ大丈夫ですよ」


「では」と夫人は控えめな声で言う。


「王宮の画家にこのようなお願い、心苦しいのですが、わたくしが持ち歩けるような、小さな絵を描いていただくことはできませんか?」

「どのような絵をご希望ですか?」

「息子の絵です」

「先ほど、庭に入ってこられたお子さんでしょうか?」

 

 公爵夫妻をネストがスケッチしている時に庭に入ってきた十二、三歳の子供がいたが、公爵のひと睨みですぐに戻っていった。

 

「いいえ、あの子は前妻の子で……わたくしの子は、三歳で亡くなってしまったのですが……三歳くらいの姿の神の子の絵で良いのです。その絵を、わたくしの子と思って大切にしますので」

「絵は、彼に描いて欲しいのでしょうか? 私は工房も持っていますから、他の画家もおりますが」

 

 ネストは宮廷画家だから、基本は皇帝の意向によって絵を制作することになる。


 練習として描いた作品として夫人にお譲りすることは可能だろうが、その場合、皇帝の意向を無視することになってしまうかもしれないし、ネストに手間をかけさせるよりは、他の画家に任せてしまいたい。

 こちらとしても、他の画家の宣伝にもなるため、ありがたい。

 

「皇帝陛下がお認めになった画家に描いてもらえるならば名誉なことかと思いましたが、皇帝陛下のお気持ちを煩わせたり、主人に知られてしまうようでしたら、他の画家がいいわ」

「そうですか。それなら、工房に話し相手にもなる若い画家がいますから、今度、彼を連れてきましょう」

 

 俺がトルトを紹介しようと思ってそう言うと、ネストが急に大きな声を出した。

 

「僕が描く!」

「ネスト? でも、お前は宮廷画家なんだから勝手はできないだろう?」

「僕が練習のために描いた作品だということにすればいいでしょう?」


 ネストがやけにやる気を見せている。

 そんなに神の子を描くのが好きだったのだろうか?




 宮廷画家に亡くなった子供の絵を描いて欲しいというのは、親心としてそれほどおかしなことではないと思う。

 しかし、夫人はその行動を夫である公爵には知られたくないという……


 それはどうしてなのか、そんなこと、ただの画家が気にすることではないのだが、夫人の表情がどうにも前世で絵を売った憂鬱そうな女のものと重なり、気になってしまった。


 夫人の様子が気になって、ケイジに調べてくれるように頼むと、ケイジはすぐに調べてきてくれた。

 ケイジが調べたところによると、夫人の実子は確かに三歳という幼さで昨年亡くなっていた。

 死亡原因は噴水に落ちてしまっての事故だという。


「しかし、三歳の子供が一人で庭に出ることはないはずだ」


 ケイジの疑問に俺も頷く。

 三歳の子供が庭に出る時には、きっと夫人なり、侍女なりが付き添っただろう。


「しかし、残念ながら、俺が騎士団の知り合いに聞けたのはそこまでだ。公爵がこれは子供が庭の噴水に落ちた事故のため、それ以上の調査は必要ないと言われたそうだ」

 

 騎士団であれ、高位貴族の公爵に言われたら、それ以上の調査はできないのだそうだ。

 それも、亡くなったのは幼い子供であり、医療がそれほど発達していないこの世界では、幼い子供が亡くなるのは珍しいことではなく、誰も見ていないところで噴水に落ちてしまったのならばそれは仕方のないことだと騎士たちも考え、すでに忘れられた事故だという。


「ただ、子供が一人で屋敷を抜け出したことに気づかなかった使用人に懲罰を与えなかったことにはおかしいと思った騎士もいたようだが……」

 

 それでも、公爵が決めたことだ。

 騎士たちが口を挟める問題ではなかったようだ。

 

 



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