26 番外編 02(ネスト視点)
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僕は彼らの絵を描かなくてもいい間、会いたい人の絵を描いた。
最初は母さんを描いていたのだが、侯爵がそんなつまらない絵は描くなと言ったから、ケイトさんの絵を描くことにした。
侯爵はその絵を目にして、「工房の店主か」と言ったが、それ以上興味を持つことはなかったし、そもそも、僕の部屋に来ることが減っていった。
侯爵が運んできていた食事もだんだんと執事が代わりに運んでくるようになった。
そうしてしばらくすると、侯爵令嬢が自殺したことを聞かされた。
それから、夫人、侯爵が続けて自殺した。
そして、どうやら使用人が僕を気味悪がっていることを知った。
でも、そんなことはどうでも良かった。
憲兵が僕のところに話を聞きたいと来たから、僕は人探しをお願いすることにしたのだ。
そうして僕は、ケイトさんに再会して、一緒にいられる権利を手にした。
ケイトさんは僕の記憶の中にある姿よりも随分と老けていて驚いた。
これまで描いてきたケイトさんの絵も描き直さなければいけないだろう。
久しぶりにケイト工房の人たちに会うと彼らへの嫉妬が心の中に沸々と湧き立つのを感じた。
僕とは違って、ケイトさんに選んでもらい、これまでずっとケイトさんのそばにいることが許された人たちだ。
キオさんは僕の師匠だったけれど、それでもケイトさんが小さな頃からケイトさんとずっと一緒にいるキオさんを妬ましい気持ちには変わりない。
それに、工房には新しい職人もたくさんいたし、僕と同じくらいの歳なのに、ケイトさんに画家として認められている人もいた。
僕なんて、やっと再会できて、やっとそばにいることが許されたのに。
工房の二階にある住居でお茶を飲んでいると、ケイトさんの両親が帰ってきた。
おじさん、おばさんはケイトさんが帝都に行った後もしばらく町にいて、僕と母さんによくしてくれていたから、懐かしく思ったけれど、僕は二人と別れた後に随分と身長が伸びて、肩幅も広くなったりしたから、二人には僕だって気づいてもらえなかった。
しばらく怪訝な表情で見られたけれど、なんとか自分がネストであることを名乗ってケイトさんの後ろに隠れていると、やっとおじさんとおばさんは僕がネストだと認めてくれた。
おばさんに母さんのことを聞かれたけれど、僕はなんと答えていいのかわからなかった。
僕のせいで死んだなんて言ったら、おじさんとおばさんに嫌われてしまうかもしない。
おじさんとおばさんに嫌われたら、ケイトさんもやっぱり僕のことをいらないと思うかもしれない。
僕はそれが怖くてケイトさんの服の裾を強く握った。
どうか、もう、僕を捨てないでほしいと願いながら。
その夜、僕が寝た後でケイトさんは母さんのことをおじさんとおばさんに話したみたいで、翌朝からなんだか二人が僕にとても優しかった。
もう僕は成人しているのに、小さな子供に接するように接してくれた。
ケイトさん以外の誰に嫌われても構わないと思ったけれど、おじさんとおばさんに好かれていたら、ケイトさんも僕のことを好きになってくれるかもしれない。
そう思って、僕は少し笑って、二人にお礼を言ってみた。
すると、二人はどういうわけか目に涙を溜めた。
僕は選択を間違えたのだろうか?
「おじさんとおばさんが泣いてた……ケイトさんが僕の後見人になるの反対なのかもしれない」
「どうしてそういう結論に至ったのかはわからないけれど、父さんも母さんもネストが宮廷画家になることを喜んでいたし、俺がネストの後見人になることも応援してくれていたよ」
「本当?」
「本当本当。ネストはこれからは宮廷画家として好きな絵を描いていけばいいんだ」
それから数日後、城の離宮に移った。
離宮の中にはたくさんの部屋があり、僕の部屋は絵を描く部屋と寝室があてがわれた。
しかし、その部屋はケイトさんの部屋から離れた部屋だったから僕が不満を言うと、憲兵の人に僕の隣の部屋にケイトさんの寝室を置くのは危険だと言われた。
確かに、僕はケイトさんを殺そうとしたことがある。
ケイトさんが僕を捨てて、二度と一緒にはいてくれないと思ったから。
でも、もうケイトさんは僕から離れていけないんだから、僕がケイトさんを殺す理由はない。
だけど、憲兵の人は僕の話を信じてはくれなかった。
「動機がなくなったのはわかりましたが、どうやらあなたは非常に情緒が不安定な人のようですから、そういう意味では信用するのは難しいです」
そう言って僕に厳しい視線を向ける。
僕はケイトさんを見下ろした。憲兵の人が信用してくれなくてもケイトさんが僕のことを哀れに思って、僕の部屋の近くで生活してくれればいいのだ。
しかし、僕はどうしてこんなに大きく成長してしまったのだろうか?
僕は立っているとケイトさんを見下ろすことになる。
これじゃ、哀れに思ってもらうのは無理じゃないだろうか?
僕は膝をついて、ケイトさんの腰にしがみついた。
そう。これくらいがちょうどいい。
「ケイトさん、僕、もうケイトさんを襲ったりしないよ?」
「なんですか? その気持ち悪い格好は」と憲兵の人は眉間に皺を寄せたけれど、ケイトさんは少し眉尻を下げただけだった。
「そうすると、子供の頃のネストを思い出すな」
ケイトさんは僕の頭を撫でて、憲兵の人に自分の部屋を僕の部屋の隣にすると言ってくれた。
憲兵の人はとても呆れた顔をしていたけれど、ケイトさんに僕の要望は聞き入れられたのだから、彼のことはもう関係ない。
僕は帝都に来てからずっと閉じ込められていたけれど、閉じ込められているのだって悪いことばかりじゃない。
一つのことに集中できるのだ。
ケイトさんのことを思い出しながら、ケイトさんのことを描いている時は決して苦痛ばかりではなかった。
今度は僕がケイトさんのことを閉じ込めてあげよう。
そして、ケイトさんのために絵を描くのだ。
今度こそ、ケイトさんに捨てられないような、ケイトさんを縛っておけるような絵を描くのだ。




