25 番外編 01(ネスト視点)
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帝都に来てからはずっとドミキウス侯爵の屋敷のあの一室にいたから、僕は侯爵の屋敷の外の景色も帝都の景色も賑わいも知らずにいた。
そんな場所からケイトさんは連れ出してくれた。
一度は僕のことを捨てたケイトさんだけど、皇帝陛下がケイトさんのことを僕の後見人にしたのなら、もうケイトさんは僕を捨てたりできないはずだ。
ケイトさんは僕にとって特別な人だ。
僕の絵を初めて認めてくれた人で、僕の願いをなんでも叶えてくれた人だ。
僕は絵を描くことが好きだったけれど、僕が何かに絵を描こうとするとそんなことは役に立たないから勉強しろと父さんに怒られた。
ケイトさんやキオさんは僕の父さんが僕の絵を認めて紙や木炭を渡してくれていたのだと思っているようだったけれど、それは違う。
ある町で僕が白い壁に木炭で落書きをして、その建物の持ち主に怒られた父さんは、また同じことが起きないように渋々と高価な紙を僕に渡していたに過ぎないのだ。
そして、母さんも、父さんほど厳しくはなかったけれど、僕の絵を理解して認めてくれていたわけではない。
「高価な紙を使って」と嫌な顔をされることもあるし、「どうせ描くなら神の子にしたら?」なんて言われることもあった。
それに、僕が閉じ込められていた部屋に来た母さんは言ったんだ。
「ここから逃げましょう。そして、絵なんて二度と描かないで」
侯爵家に閉じ込められているよりは母さんと逃げたかったけれど、でも、絵を描かないなんて、生きている意味があるのだろうかと思った。
特に、その時はケイトさんがいなかったから、絵も描けず、僕の理解者である人もいない世界で生きる意味などないと思った。
結局、僕と母さんは再び引き離されてしまったし、母さんのことを殺した侯爵のことは憎かったけれど、本当に憎んでいたのは自分自身だったかもしれない。
僕は母さんの望む子供にはなれなかったし、ケイトさんが求めるような絵描きにもなれなかったのだ。
再び部屋に閉じ込められた僕は侯爵の娘に魔力を込めた絵の具を渡された。
彼女はその魔石で作った絵の具の透明な上澄みを使って自分の肖像画に僕のことも描くように言った。
自分の姿に並ぶような構図がいいと言っていたけれど、僕は自由な絵の世界の中でまで彼女に縛られたくはなかったから、彼女の背後に自分を描いた。
ケイトさんがたくさん話してくれていたまだ幼い頃の姿を。
その姿は、令嬢の魔力で浮き上がった。
それを見た令嬢は自分の思い通りでなかった絵に怒り出すかと思ったけれど、「神の子」とつぶやいた。
僕は別に神の子を描いたつもりなどなかった。
ただ、自分が少しでもケイトさんに好かれていたと思う頃の幼い自分の姿を描いただけだ。
けれど、令嬢はその子供の姿を神の子だと思ったようだ。
そして、いたく気に入ったようだった。
それからしばらくすると、婦人も同じように自分の肖像画に神の子を描いてほしいと言ってきた。
さらには、侯爵までが言ってきた。
僕は侯爵と婦人、それから侯爵の息子の肖像画を描いた。
侯爵の息子には一度しか会ったことがなかったけれど、この家の中で僕を見下していない唯一の人だった。
彼の絵が出来上がって執事が絵を届けたその夜、彼は僕の部屋に来てお礼を言った。
「素晴らしい絵をありがとう。生涯大事にする」
そんなことを言われたのは初めてだった。
他の侯爵家の人々も魔力を流し込むと神の子が浮かび上がる絵をとても気に入ったようで、それからしばらくは次の絵を描くように言われることはなかった。
そして、これが、彼らを描いた最後の作品になった。
次々に、死んでいったから。




