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皇帝陛下のメンツを保つためなのだろうか、屋敷が城の敷地内だった。
というか、離宮だった。
前世ではかの有名なフランスのルイ十四世はヴェルサイユ宮殿を建てて、反乱を防ぐために貴族たちを住まわせたというが、俺は反乱などする予定は全くないので、城に屋敷を用意してもらう必要はないのだが……とりあえず、皇帝陛下から毎日工房に通う許可はもらった。
ちなみに、工房の二階に一緒に住んでいた両親も離宮に呼ぼうと思ったら、両親に断られた。
とてもじゃないが、そんな窮屈なところにはいられないという。同感である。
俺はこんな常に監視されているようなところには住みたくない。
城に離宮を用意されて困惑している俺を見かねたケイジが言うには、離宮が与えられたのは一時的なもので、ネストの肖像画制作が終われば城の外に自由に屋敷を持つことができるだろうとのことだ。
「肖像画は、どれくらいの人を対象に考えているのでしょう?」
数名なら、すぐにでも城から出ることができるだろう。
「ひとまず、帝都にいる貴族全員でしょうか」
俺に城から出る希望を持たせようとしたケイジを俺はじとりと恨めしく見てしまった。
「全く、城を出られる気がしないのですが?」
離宮の中や庭を見て回った後、俺はケイジと一緒にドミキウス侯爵の屋敷を訪れた。
ネストに宮廷画家になることと、一緒に暮らすことを説明するためだ。
「バッティスさん、ケイトさんを連れてきましたよ」
ネストはチラリとこちらを見て、すぐにその視線を描きかけの肖像画に戻した。
そういえば、ネストは俺が初めてドミキウス侯爵邸に連れて来られた時も、この前会った時も、ずっと同じ肖像画を描き続けているけれど、こんな人物は侯爵家にはいない。
まだ会っていない使用人の姿なのだろうか?
「……僕が犯人だということはもうわかったのですから、ケイトさんを連れてくる必要はなかったのではないですか?」
ネストはそんなふうに言った。
彼は本当にもうこの世には未練がないのだろう。
「バッティスさんは宮廷画家として、これからは皇帝陛下の要望に応えて絵を描いていただくことになりました」
ケイジの言葉にネストは怪訝な表情をケイジに向けた。
それはそうだろう。自分は侯爵家の者を殺した犯罪者として刑罰を受けるつもりでいるのに、宮廷画家という名誉を与えられればそれは驚く。
「僕はケイトさんのことも殺そうとしたんですよ?」
「ケイトさんは我々憲兵にその事実を伝えることもなければ、皇帝陛下にお伝えすることもありませんでした」
ケイジは俺の護衛に決まってから、俺のことをケイトと愛称で呼ぶようになった。
ネストは信じられないものでも見るような表情で、俺を凝視する。
「ケイトさんは、バカなんですか?」
「ずっと思っていたけど、ネストは口が悪くなったな」
「ケイトさんのせいです」
ケイジが俺たちの間に入るように説明を続けた。
「ケイトさんはこれからバッティスさんの後見人になり、あなたはケイトさんと一緒に暮らすことになります。同居人になるのですから、お互いを尊重してください」
ケイジも俺の護衛としてほぼ一緒にいることになる。
一番年上ということもあるし、落ち着いた性格のケイジは俺たちのまとめ役をやってくれそうだ。
「ケイトさんと一緒に……?」
希望もなく暗かったネストの目が、何かを期待するように少し光を宿して俺を見る。
「僕のこと、いらなくない?」
「俺は一度もネストのことをいらないなんて思ったことはない」
「でも、置いていったじゃないか?」
「置いていったというか……俺以外に、ネストの才能を理解してくれるパトロンがついた方がいいと思ったんだ」
「そんな人いなかった」
「……そうだな」
俺はネストの前に膝をつき、絵の具で汚れたネストの手を握った。
「金持ちの貴族の中に、そういう人がいればと思っていたけれど……俺の考えが浅はかだったようだ。悪かった」
「また途中で捨てたりしない?」
「そんなことはしない」と俺が答える前に、ケイジが言った。
「ケイトさんは皇帝陛下より、バッティスさんの後見人となることを命じられていますので、バッティスさんを見捨てるような行為は命令に背くことになります」
ケイジの言葉にネストの瞳はさらに輝いたような気がする。
「皇帝陛下の命令……それなら、絶対に僕のことを捨てることはできない……」
いや、そもそも捨てたつもりもないし、今後捨てるつもりもないのだが……
ネストは、皇帝陛下の命令ならばまた俺に捨てられることはないと少し安心できたようだ。
それほどまでに俺は信用されていないのだろう。




