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とはいえ、俺が貴族になるのは問題だ。
「非常に名誉なことだというのは理解しておりますが、やはり、どう考えても私が貴族になるというのは無理があると思います」
「今更何を言っている」と笑ったのは宰相だった。
「そなたはこれまで、貴族よりも貴族らしく振る舞ってきたではないか?」
「そのような身の程知らずな行いをしてきたことはないかと……」
絵の注文をしてくれるから貴族とは割とよく会うほうだ。
直接注文に来るのは男爵や子爵といった身分の者が多いが、絵が好きでこだわりが強い伯爵以上の身分の貴族とも会ったことがある。
その中には画商の俺に対して丁寧に接してくれる者もいるし、平民はみんな卑しいと見下してくる者もいる。
俺はこれまで出会ったことのある貴族を思い浮かべて、貴族よりも貴族らしいとはどういうことかと考える。
「皇帝陛下に画家という職業を認めさせ、その画家を抱える工房主である自身にも画商という新しい身分を与えるように進言したではないか」
「い、いえ、あれはご相談であった、決して進言では……」
「ふむ。意図して行ったものではなかったということか?」
皇帝陛下が顎を撫でながら俺を見る。
まさか、皇帝陛下にまで、俺が意図して皇帝陛下からの許可を引き出したと考えられていたとは……とんだ誤解である。
俺はただ、皇帝陛下から認めてもらえたらラッキーくらいの感覚だったのだが。
肖像画を献上したことは確かに意図して行ったことではあったけれど、画商という職業を相談したのは本当に、ただ、相談しただけのことであり……
いや、皇帝陛下に相談している時点で、計略だと思われても仕方がないのだろうか?
「たとえ、意図していない結果であろうと、そなたは皇帝陛下から自分が望む回答を導き出したのだ。これほど貴族らしい行いもあるまい」
だから、貴族よりも貴族らしい行動をする平民だと……
宰相の目にはそのように映っていたらしい。
「ドミキウス侯爵もそうであったが、最近の貴族というのは先祖が作り上げた財に胡座をかき、自身では何の行動も起こさない者たちが多い。そうした中で、そなたのように平民でありながらも、自身の道を切り開く姿に感心していたのだ」
「そ、それは、ありがとうございます」
そんな行動により今困っているのだからお礼を言うべきところではないのかもしれないが、宰相が評価をしてくれていたというならば、お礼を言わないわけにもいかない。
「爵位を与えられることは平民ならば喜ぶことだと思っていたのだが? どうして、そなたはそれほどまでに嫌がるのだ?」
皇帝陛下が不思議そうに尋ねてくる。
俺も、この世界の記憶だけを持った平民ならば単純に喜んだのかもしれない。
しかし、前世の記憶があると、貴族というのは自由がなく、窮屈なように思えるのだ。
責任とか、色々と。
しかし、まさか皇帝陛下に「面倒だから」とは言えない。
「私には分不相応なものであり、あまりにも恐れ多く……」
皇帝陛下がにこりと微笑んだ。すごく嫌な予感がする。
「それならば、これは命令だ。ケイトよ、爵位を受け取れ。そして、私のために働け」
俺はうぐっと言葉に詰まったが、これはもう逃げられない。
これを拒否することはもはや反逆罪に等しい。
「……謹んで、拝命いたします」
こうして、俺は子爵になってしまった。
本当に、眩暈がする。
「では、屋敷を決めねばならんな」
とにかく、これで用事も済んだことだし帰れると思っていると、宰相がそんなことを言った。
「……屋敷、ですか?」
俺には、工房の二階に特に不満もない住居があるのだが?
「そなた、画商としてリュエルという家名を使うようになったが、住まいは平民の頃のまま、工房の上に住んでいるのであろう?」
「ええ、工房にすぐ行けて便利ですから」
「しかし、そこでは貴族としての体裁が保てまい」
確かに、俺自身、キオさんが名誉爵をもらった時にすぐに平民にしては少し大きめの屋敷を買い、キオさんに住んでもらった。
それは、キオさんがうちの工房の広告塔だからなのだが……
これからは俺自身が貴族になってしまったのだから、工房の上でいいというわけにはいかないのだろう。
俺を貴族にした皇帝陛下のメンツ的にも。




