18
お読みいただきありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけますと幸いです。
「ああ、あなたが噂の……」
噂? この屋敷の中で噂になっているのだろうか?
「今日は父上の肖像画を見にこられたのですか?」
タイナーの言葉に俺は頷く。
「はい。ケイジさんに呼ばれて、一緒に拝見させていただきました」
「それで……お気付きに?」
「えっと……」
捜査のことはどこまで話していいのかわからない。
そして、肖像画に描かれた神の子のことは、きっと彼も知っているのだろうが、執事は知っているのだろうか? 知らせても問題ないのだろうか?
「もしよろしければ、私の肖像画も見ていかれますか?」
彼の言葉に俺は思わず表情を明るくしてから、しまったと思う。
父親を亡くしたばかりの彼はきっと捜査協力として申し出てくれたのだろうから、失礼だったかもしれない。
「申し訳ございません」
俺は不謹慎であったことをすぐに謝った。
タイナーは怒ることなく穏やかな声で許してくれた。
「いいえ。本当に絵がお好きなのですね」
「はい。しかし、今のは不謹慎な態度であったと反省しております」
タイナーは俺を自身の部屋へと案内し、他の部屋同様に豪奢な額に入れられた肖像画を見せてくれた。
やはり、構図は他の肖像画とほぼ同じだ。
立ち姿に背後には窓から差し込む光、そして、その光の中には……
「魔力を流しますね」
タイナーが魔力を流すと、光の中に、キラキラと魔力で輝く神の子が映し出された。
侯爵の血に残るわずかな魔力で映し出された神の子とは違い、しっかりと、美しい姿が映し出される。これは感動だ。
魔力で光り輝く神の子の目は、やはり、絵の中のタイナーを見つめているようだ。
そして、そのタイナーの先にいる我々、絵を見る者の心を見透かしているようだった。
こんな絵を、侯爵家の人々は自由に何時間でも見ることができたのだろう。
最初は、自身の肖像画に満足していたのかもしれない。
しかし、徐々に、神の子が描かれた絵として、自身の肖像画を見ていたのではないだろうか?
毎日、何時間も、じっと、神の子の眼差しを受け止める……
幼い頃から神がいて、その神の子供が自分たちを守り、導くのだと教えられ、心の底に常に神の子がいることを刷り込まれる……
それが一神教だろう。
そして、悪いことをした時にも戒めになる存在……
そんな、神の子が、自身の魔力に応じて姿を現し、じっと、自分を見てくる……もしも、後ろめたいことがある人間なら、耐えられないのではないだろうか?
神の子は、自身の正しさを見てくるのだ。
「あ、あの……」
貴族に対して、平民の俺がこんなことを聞いてはいけない。
そう思いながらも、俺は画商としての好奇心を抑えられなかった。
この絵は、持ち主の心に、何を思わせるのだろう。
「ドミキウス様は……」
「タイナーで構いません」
「タイナー様は、この絵を見て、どのようにお感じになっているのですか?」
どうしようもないほどの罪悪感に襲われたりはしないのだろうか?
もしも、そうした感情に襲われているのだとしたら、彼がその罪悪感に押し潰されてしまう前に、この絵は別の場所で保管した方がいいだろう。
「私にとって、この絵は、救いです」
全く想定していなかった言葉が返ってきた。
「私は父にも母にも嫌われて育ちました。おそらく、生意気なところが気に入らなかったのでしょう。そのため、親から優しい眼差しで見守られ、功績を認められたということがありません。そんな私にとって、この絵は、私を見守り、頑張りを認めてくれているように感じる絵なのです」
「そうなのですね……」
なるほど、頑張ってもそれが認められなかった人にとっては、唯一自分を認めてくれる視線と受け取ることもあるのか……
「しかし」と、タイナーが少しヒヤリとするような声音を出した。
「父や母、そして、妹にとっては、断罪の眼差しになったでしょう」
タイナーの言葉は、俺が肖像画に描かれた神の子から想像した通りの言葉だった。
「ど、どうしてそのようにお考えになるのですか?」
「彼らには、断罪されるべき罪があるからです」
タイナーの眼差しは、まるで家族を断罪せんとする冷たいものだった。




