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そして、前世の記憶を持ち、今でも無神論者の俺はこの国の人々ほど神の子を敬ってもいないし、恐れてもいない。
このように、全ては神の子に見られているという暗示のような絵を見せられて怖くなるような感性は持ち合わせていないのだ。
しかし、この絵の中には、ネストの人生への後悔や恨みが詰まっている。
それは、きっと、俺に対しての感情もあるのだろうと思う。
「夫人や令嬢の遺体はもう墓の中ですし、そこには魔力は残っていないでしょうから、このように魔力を発することはできませんが、同じような仕掛けがあるかどうかを確認してもらってもいいですか?」
それはつまり、夫人と令嬢の肖像画を見ることもできるということだろう。
ネストの描く肖像画には風景画の時のような凄まじい才能を感じることはないものの、それでも素晴らしい技術を見ることはできる。
「もちろんです!」
そう答えると、ケイジが笑った。
「なんですか?」
「いや、先程まで深刻そうな顔をしていたのに、絵が見られるとわかった途端にそうも表情が変わるものかと思いまして」
「あ……すみません」
「いいえ。気持ちを持ち直されたようで、何よりです」
ケイジは卓上ベルを鳴らして執事を呼んだわけではなかったけれど、侯爵の部屋から出ると、すぐに執事が姿を現した。
それに驚くこともなくケイジは執事に夫人の部屋に絵を見に行くことを伝えた。
「では、ご案内します」と執事は前を歩き始めた。
他の憲兵たちは自由に屋敷の中を歩いてそれぞれ調査なり、現場保存なりをしているようだったが、ケイジには毎回のようにこうして執事がついて回った。
これは、執事がケイジのことを警戒しているのではなく、逆に敬っているから起きていることなのだろう。
おそらく、この執事はケイジが貴族だと知っているのだ。
もしくは、俺と同じで、ケイジの品のある身のこなしから貴族とあたりをつけているのかもしれない。
執事に夫人の部屋に連れてきてもらうと、やはり肖像画は部屋の一番よく見える場所に飾られていた。
飾る場所からも、豪華な額をつけていることからも、夫人がこの肖像画を気に入っていたことがわかる。
俺は美しく描かれた女性の肖像画をじっくりと見た。
やはり、全体的に暗い色彩で塗られた肖像画は重厚な雰囲気が漂っていた。
そして、侯爵の肖像画同様に、夫人の背後には強い光が差し込んでいるように描かれていた。
俺はその窓から差し込む光がどのように描かれているのかをじっくりと見ていく。
そこに、色を伴わない筆の跡を見つけた。
先程、神の子を見たばかりだからだろう。
侯爵の絵を初めて見た時よりも、はっきりと筆の跡を目で追うことができる
「リュエルさん、この絵にも?」
ケイジの言葉に俺は頷き、俺たちは次に令嬢の部屋に飾られている肖像画を見た。
やはり、令嬢の肖像画にも不自然な筆の跡は残されており、神の子は描かれているようだった。
不自然な筆の跡は侯爵の肖像画に描かれた神の子と同じような線をたどり、同じような大きさで描かれているから神の子だとは思うけれど、その表情など、繊細な部分はわからない。
夫人と令嬢の魔力が失われてしまっているため、この絵を完全な状態で見ることはもうできないということだ。
それが非常に惜しまれた。
「リュエルさん、ご協力ありがとうございました。私はこの調査結果を持って、他の調査員たちと審議したいと思います」
ケイジは令嬢の部屋を出るとすぐに仲間たちのもとへ向かった。
おそらくはこれから仲間たちと一緒に侯爵の肖像画を確認するのだろう。
あの神の子をもう一度見たかったけれど、調査の邪魔をするわけにもいかず、俺は執事の案内で屋敷の玄関へと向かった。
門から外へ出る時に、門の前に馬車が止まった。
馬車の扉が開くと、一人の若い男性が降りてきた。
「おかえりなさいませ。タイナー様」
そう執事が頭を下げたのに合わせて、俺も頭を下げた。
タイナー・ドミキウス。
ドミキウス侯爵の子息だ。城で文官をしていると聞いていた。
タイナーが少し冷たく見える視線を俺に向け、「……この方は?」と執事に尋ねる。
「調査官のケイジ様がお呼びになった画商のリュエル様です」
「画商のケイ・リュエルです」
俺は深く頭を下げる。




