14
お読みいただきありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけますと幸いです。
「リュエルさん、何かわかりましたか?」
どれくらい絵を見ていたのかはわからないけれど、おそらく、この部屋に入ってから数十分は経っているのだろう。
ケイジが待ちくたびれたような様子で声をかけてきた。
「そうですね。侯爵がネストの才能に対して、どれほど非道なことをしたのかはわかりました。あれほど才能に溢れていた彼の絵をここまで変えてしまうとは……もはや、神への冒涜とも言えるでしょう」
どういうわけか、ケイジに呆れたような視線を向けられた。
「どうして、専門家という人は、事件には関係のないことを平然と語るのでしょう」
「あ……」
「バッティス氏の才能については後でご本人なり、他の方にお話いただくとして、絵画で人を殺すことが可能なのかどうかということをお聞きしたいのですが?」
「そうですよね……そうですね……」
俺は改めて、この絵画が侯爵を死に至らしめることになったのか、という視点で絵画を見る。
絵の具から異臭が漂ってくることはないし、それはキャンバスも額縁も同じだ。
だから、毒殺とは考えにくいだろう。
一応、針のような突起物がないことも確認する。
流石にそんなものがあれば、侯爵自身なり、執事なり、他の使用人が気づくとは思うが。
キャンバスの裏側を確認しても、当然、そんなものはない。
絵画をさまざまな角度から見たり、光に当てたり、逆に部屋を暗くしてみたりしても、脅迫文のようなメッセージが書かれているということもなかった。
まぁ、自分が閉じ込めている画家から脅迫文を送られたところで、侯爵が自殺するとは思えないけれど。
俺は何か他に気を付けるべき点はないかと、肖像画をじっくりと見る。
そして、違和感に気づいた。
色は当然、筆跡とともに残るものだが、色ののっていない筆跡があったのだ。
まるで、なんの色もつけずに、ただ筆を動かしていったような跡だ。
「どうですか? ないなら、ないと言ってくださればいいのですが?」
痺れを切らしてそんな適当なことを言うケイジに、俺は「事件に関係あるかはわかりませんが」と前置きして、色のない筆の跡があることを説明した。
「このような跡なのですが」
俺は筆跡を指差してケイジにも見てもらう。
「……確かに、色がないですね」
ケイジは顎を撫でながら、不思議そうに絵を見ていた。
「ネストにどうしてこのようにしたのか、その意図を確認してもいいですか?」
俺の言葉にケイジは首を横に振った。
「今は彼を不当に監禁しておくことはできませんから、この筆跡にリュエルさんが気づいたことを知られて、バッティス氏にこの跡を消されても困ります」
「ネストはすでに自分が殺したから自分を処刑してほしいと言っているではないですか? もしこれが証拠だったとして、消すとは思えません」
「あなたはあれがバッティス氏の本音だと思うのですか? あれが、決して証拠など出てこないとわかっていての虚言ならばどうするのですか?」
俺にはネストを疑う理由はないのだが、ケイジはそれが仕事だ。
「では、この不自然な跡については……」
ケイジはじっと、俺を見る。
俺がケイジにどうするのか問いかけたつもりだったのだが、ケイジは俺に答えを求めている。
「し、調べてみます……」
「よろしくお願いします」
この跡に何か意味があるのか、特にないのかはわからないけれど……侯爵の自害には関係しないことを願った。
それからしばらくの間、俺は色を塗った上に筆だけを走らせた理由を考えることになる。
力強いテクスチャを演出しようとしたということではないだろう。
それならばもっと絵の具を重ねるはずだ。
それが見えないのでは意味がない。
逆に、筆跡をなめらかにしたかったということもない。
それなら、それまでの筆跡をなぞるはずだが、そうではないのだ。
あの筆跡があの肖像画に何か効果的な作用をもたらしているとは思えなかったから、わざと、筆跡だけを残したということもないだろう。
可能性があるとすれば、実際に、何かを塗ったのだ……




