第八十話 試合
「ハア、ハア。」
「如何した、もう終わりか?」
優々不敵に笑みを浮かべる目の前の人物に対して、湧き上がる闘争心と、自分が負けるかもしれないという危機感を私は味わっていました。
大会が開催され、私は記念すべき第一試合でこの目の前の男、名前はパトリシオ、180cmはありそうな高身長に加え、乱雑に切られた短い紫色の髪、そしてこちらをつまらなそうに眺めている紅い目、どこをどう見ても苛つきます。
恐らく目の前の人物が、カモミールさんの言っていた強敵でしょう。カモミールさんが一撃で吹っ飛ばされたという攻撃、その正体は、この男が今も私に向かって発動している風の魔法。拳に魔法を纏いそれを衝撃波の様に放つ魔法技。
身体的、魔法においても私より強い。
相手を睨みながら私はそう悟りました。でも、魔法カメラでクリスは私の姿を見ているはず、それなのに、こんな一方的に負けるなんて私のプライドが許せません。
「終わりじゃないです。寧ろ始まりです。」
身体的能力や魔法に差があるなら他で埋めるしかない!
「敵を弱らせろ、攻撃力低下、防御力低下、速度低下。」
そしてさらに追加の魔法を唱える。
「攻撃力上昇、防御力上昇、速度上昇」
そして手甲を装備する。
「ほう、そう来たか。」
私の魔法を避けるそぶりも見せずに、寧ろ楽しげに呟いた。まるで、もっと自分を楽しませろ。そう言われたような気分で、此奴にだけは何があっても絶対に負けたくない。ギュッと拳に力を込めた。
私は一気に距離を縮めて、拳に雷の魔法を練りこみ、パトリシオの腹部に打ち込んだ。筋肉の固まりの感触と骨がミシミシと軋む音が拳に伝わってきた。
「ぐっ!」
流石に弱体化の魔法をかけられ、さらにこっちは強化魔法をかけてある。それに加え麻痺効果の高い魔法を纏った拳を打ち込んだのだから、ダメージを受けてくれないと困ります。相手の体制が崩れるのと同時に追い打ちをかけるように連続で攻撃を仕掛ける。
「敵を捕らえろ闇檻」
動けないように闇の魔法で拘束する。そして、巨大魔法を発動させる。
「風よ、雷よ、敵を切り刻め!雷風」
雷と風の融合魔法、本来なら一人で複数の魔法を使える人物はあまりいない。流石に光と闇の魔法を1人で発動させることはできない。でも、相性の良い組み合わせなら発動できる。
「そう来なくては、つまらん!」
ニヤリと笑みを浮かべると、素手で魔法の拘束を引きちぎった。そして私の魔法を、風の魔法を纏った拳で吹き飛ばした。
「嘘…。」
その光景に唖然とした。拘束魔法を素手で引きちぎるなんて普通は出来ない。
「お前は強い!俺も全力で迎え撃つ!」
一瞬でパトリシオの姿が消えると私の意識はそこで途切れた。
次に目を覚ますと、目の前には心配そうな表情で私を覗きこんでいるクリスがいた。
「リーズ、大丈夫?」
起き上がって自分の体を確認するとさっきまで負っていた傷が無くなっていた。
「クリスが手当てしてくれたんですか?」
「うん。でも吃驚しちゃった。リーズが負ける姿なんて、リーズのお母さんと修行しているときくらいしか見たことなかったから。」
微笑みを浮かべるクリスに対して、私は複雑な心境だった。自分より強い相手と戦える。それは私にとってもすごく幸福ともいえることだった。でも負けるのは嫌。私は次は絶対に負けません!と密に誓った。
そんな私を、クリスが悲しそうで、どこか暗い表情で見つめているとは気付いていなかった。




