第六十九話 夏休み
感謝祭からかなりの月日が流れ、現在は夏休みを迎えていました。
「リーズさん、此方が私の住所です。宜しければ遊びに来てくださいね。」
カモミールさんは、ガッシリと私に手を握り、その握っている手の中に、さり気なく紙を入れてくる。見なくても、その紙にはカモミールさんの、家の事が事細かく書かれているのでしょう。
「……。」
そして、私の背後には、恐ろしい闘気と殺気を纏ったクリスの気配を感じました。
「ねえ、何をしてるの?」
背後からは激しい感情が渦巻いているのに、声はとても無機質という、アンバランスな状態が、今の私にはとても怖いです。
「そう言えば、クリスは夏休みは如何しますか?」
「如何って?」
私が話しかけると、クリスは普通に戻りました。
「家に帰るのか、帰らないのかです。」
「帰るよ。」
「私も一旦、家に帰る予定なので一緒に帰りますか?」
「うん、そうするね。」
クリスは嬉しそうに笑いました。
そして後ろを振り返ると、家出をしているという状態のままの三名は、とても顔色が悪いです。
「マリエルとイグナーツとブルーノはお家に帰らないのですか?」
そう言うと、三人の肩が震えました。
「忘れかけてたけど、僕たち家出したままだったんだよね。」
「私の家なんて孤児院よ。ああ、シスターが怖い。」
「俺んち農家だから、しかも俺、長男だしな。絶対無事じゃすまない。」
帰る家はそれぞれ違いますけど、帰宅するのが嫌なのは、三人とも共通してますね。
「でも、心配してると思いますよ。」
「大丈夫だよ。私も家を出る時に、力づくで出ていったから、いざとなったら、拳で決着を付ければいいと思うよ。」
そんなことをするのは、クリスの家だけですよ。いや、もしかしたら何処かの家はやるかもしれませんが、普通はやらないです。
「そうか……その手があったのか。」
ブルーノはそう呟くと、じゃあな!と言い残し、足早に教室を出ていきました。
「良いんですか?あれじゃ本当に戦いますよ。彼の家は農民だというのに、大丈夫なんですかね。」
「きっと、大丈夫だよ。」
クリスはあっけらかんと言っているけど、正直ブルーノに関しては、危険要素が多いので、少しだけ心配になった。保護者の方の中に、死人が出なければいいですけどね。
「私は今日には出発しますから、クリスも準備をしておいてくださいね。」
「準備も何も、持ち物は基本魔法空間に入れてあるから、何時でも出発できるよ。」
「ならもう行きましょうか。」
項垂れているマリエルと、不安そうな顔のイグナーツに手を振ると、その場でテレポートを使い、私の自宅へと戻ったのでした。




