<#32 K̷i̸r̷a̸i̶ ̷n̶i̴ ̶n̷a̴r̶a̸n̵a̶i̷d̸e̵>
『婚約者のこと────』
(は…?)
『お兄様?』
固まった僕を、シュリアが不思議そうに
袖を掴んで見上げる
『あ…あ……なんでもないよ
ジュース飲む?』
『はいっ、ありがとうございます、お兄様っ』
『可愛いなぁ〜』
僕は撫でながら、もう一度2人の会話に耳を傾けてみた
『……分かりました…あっ、承知致しました
ならばその方針で…?』
『あぁ、楽しみだな…でも……』
『はい、けれど仕方の無いことです
それに関しては私があまり手を出せないと自負しております…
未来を変えることは私にはできません
本人の意志と…未来を変えるほどの行動のみ……』
その言葉を最後に、会話は終わり
2人は分かれた
アルラルガは一礼してからこちらに向かって歩いてきた
『シアル様、お待たせ…しました、あっ…』
アルラルガはシュリアを見つけて
片膝を床につけた
『お初にお目にかかります、シュリア姫…
私、此の国騎士団所属
ガリーラーファ・リアバーナの息子、
アルラルガ・リアバーナと申します…
本日よりシアル第一王子様の「未来の親友」となりました
きっと…城内ですれ違うことが、この先あるかもしれません…その時はどうか、仲良くしてくださいね』
『は、はいっ、よろしく…お願いします…
アルラルガ様っ』
シュリアはアルラルガの差し伸べられた手の上に、そっと自分の手を添えた
『ふふっ、安心です
シアル様が甘くなってしまう理由も分かります』
『だっ、だって初めての妹なんですもんっ
そりゃぁ…甘くなってしまうでしょう…っ』
『あはは〜、そうやって認めちゃうシアル様も、とても可愛いですよー』
『なっ、面白いとか言わないでくださいよぉっ』
ポカンと見つめていたシュリアが「ふふっ」と声に出して微笑んだ
『ふふふっ…お二人は仲良しさんなのですね
以前からのお知り合いで…?』
『いえ、今日が…初対面なのですよ』
『そうなのですかっ?
それなのにこれだけの仲良しさんなのはすごいですっ』
『ありがとうございます、シュリア様』
アルラルガは自分の胸に手を当てて微笑む
『あ、シュリア様…シアル様をお借りしてもよろしいですか?』
『…?はいっ、ちゃんと…返してくださいね?』
『えぇ、もちろんです』
そう言って僕の方を振り返る
『お外…行きましょうか
禁断の抜け出しです…あっ、冗談ですよ?』
そう言ってベランダ…僕にはそうとしか説明のできない場所に出る
後からそこはバルコニーだと知った
ガチャ……
小さなストッパーの外れる音がして、
扉が開いた
『お先にどうぞ…』
アルラルガは僕の次に外に出て扉を閉めた
大きな窓からは楽しそうな会場内が見える
『シアル様、こんな…初対面で言うようなことでは無いと、分かっておりますが
お許しください…』
小さく息を吸った
『私…俺、ずっと貴方様の噂やお話を聞いて育ってきました…俺の憧れの人です
歴代の方々とは違うそんな、貴方様が俺は…
っ…………俺は…大好きです…
使用人にも…ジェーン様やニアラス様などの家族…そしてこんな俺にも優しくしてくださるシアル様が大好きです…っ』
僕は目を見開いた
いや…その前に僕の視界は滲んでいて…
熱くて冷たいものが頬を伝っていた
鼻の奥がジーンとして…少し痛い
『っ……うっ…ぁ…うぅ…っ…グズッ…うぅっ…』
『え"!?シアル様!?俺っ…私なにかっ……
どうしましょう…っ、泣かせるつもりは…
ハァァァッ、「大好き」だなんて不敬なことを言ってしまったから!!!!!!?』
『ちがっ…うぁっ……んぐっ…うぅっ…グズッ…』
僕は目を開いたまま、涙を流していた
白い石の床に涙が落ちて、グレーの斑点をつくっていくのが目に映る
息が苦しい
苦しい
苦しいな
苦しいよ
苦しい気がする
でも上手く息ができない
苦しくて、ギュッと自分の服を千切らんばかりに握る
少し手も痛い
『シアル様……っ』
そんな焦るようなアルラルガの声が聞こえる
けれどその声は遠く感じた
どれだけ泣いたのかな
それも分からなくなった時…
やっと落ち着いてきて、涙も止まり始めていた
『っ…うっ……グズッ……グスッ……………』
僕は最後に袖で涙を拭ったあと、小さく息を吐く
『ごめんなさい…っ…泣いちゃって…ごめんなさい…っ……でも…でも…っ』
『大丈夫ですよ…シアル様…
怒ったりしませんので…どうか…謝らないで…』
『ありがとう……っ
でも…急に泣いちゃって…驚かせちゃって…』
『あははっ…たしかに…驚いちゃいましたよ
けれど…やっぱり俺の憧れの人もちゃんと…俺と同じ10歳なんだなって…改めて思いましたよ
ふふっ…俺も泣いてしまうことはありますし…シアル様が泣いていても俺、ちゃんとお側におります…』
『っ……うん…っ……グスッ…』
『強くなくても良いのです
泣いたって良いのです
貴方様は貴方様で良いのです
俺はそう思います…
俺はその時その時の貴方様が良いのです
無理に変わろうとしないでください
無理に自分を責めないでください
貴方様が変わりたいのなら俺も手伝います』
僕はその言葉を聞いた瞬間
また涙が込み上げた
(あ……僕…本当に弱いなぁ…すぐ泣いちゃう…)
『シアル様……俺…必ず貴方様をお守りいたします…どんな敵でも…悲しさや苦しさからだって…
俺に全てを委ねて欲しい…っ
駄目でしょうか…?』
アルラルガの声は少し低くなった
そして肩から背に手が周り、僕を抱きしめた
フッと耳に息がかかる
何かを言ったのか…ただ息をしただけなのか
僕には分からない
『なんてね…』
『えっ……』
『ふふっ…聞こえてなかったですか?
なら…良かったです
未来が分かっていてもどうにもできない事ので…
こんな俺だけど…お許しくださいね
俺の主様────』
#32を読んでくださりありがとうございますっ
なんかっ…最近暑くなってきましたねぇ…体調管理が下手っぴな作者はもう限界近いです…っ
皆さんもお気をつけてぇ…そしてまたまた現れましたよぉっ…真夜中組!!皆さん寝てください!?心配性すぎるのもあれですがッ
いなくなってしまうのもなんだか悲しいですが…()




