<#27 オカエリ>
サァァァー………
風の音
山に囲われた町は今日も色鮮やかに
春の始まりを告げていた
木々はカラッとしたものは減り、
色の濃い桃色や白色の服を身にまとっていた
動物も森の中でよく見るようになり
鳥も春を歌い、
少し温度のある空に一度鳴いた
まだ3月の上旬だというのに
今年はせっかちさんなのか、
半分以上が桃色に染まっていた
『あのみぃお母ちゃん!写真撮ってぇな!』
『お父ちゃんはよはよ!うちの横きぃや!』
そんな声が飛び交う
「入学式」と書かれた看板が置かれた校門
学校の入学式も、例年より早く行われていた
『みんなお母さんらぁと来るんじゃな……』
僕は校門から離れた校舎側の桜の木の下に
しゃがんでみんなを眺めていた
4つの頃に母親が買ってくれた、
黒くて綺麗なランドセル
今じゃもう既に薄汚れてしまっている
そんなランドセルを背負っている自分の姿は
みんなに比べて一回りくらい小さかった
『もう少し大きゅうなれたら…
ううん、違うじゃろ…
悪いんはこの髪じゃ……
なんで僕なんかが…っ』
人と違うということは、
誰にも認められず、意味もなく嫌われる証
みんなは黒か茶の髪をなびかせて
僕は紺みがかった髪を軽く引っ張った
『お前1人?親はいねぇの?』
急に耳に入った、聞きなれない言葉遣いの声に驚く
ビクッと体が飛び跳ねる
返事をする暇もなく次の言葉が降りかかる
『ひとりなら俺と来い、1人なんて…
サビシイだろ?』
その声に顔を上げる
黒くて短い髪をフードに隠した少年がいた
『ぇ……』
『いいから!んー……なら約束だ!
6年生になっても、
チューガクセーになっても、
コーコーセーになっても…
ずっと一緒にいてやる!だから…なっ?』
そう言って手を差し伸べる
どうしたらいいのか分からなかった
初めてのことだった
誰かが自分にこうして手を差し伸べるなんて…
『名前』
『…?』
『お前の名前だよ、何?教えてくれ』
そう言って微笑む少年は
口調からは想像もできないほどに優しい笑みだった
『名前……僕の……
っ……灯向……田邊、灯向、いうんじゃ……』
『へぇ…いい名前だな、可愛らしいじゃんっ』
V字にした指を2度折って笑う
『可愛っ……可愛うない……』
『そうか?俺は可愛いと思う
なんか…丸っこいじゃん?』
『……丸っ……こい…』
『あ"…俺も自己紹介しなくちゃな!
俺は────』
桃色の花びらが宙を舞う
白い花びらは地面に落ち、緑の葉は僕の手に当たる…
春を思い出させる光景
僕は目でソフィの姿を探した
……見渡す限りは、近くにいない
歩き始めると花びらが風に流されていった
痛いも辛いも苦しいも
幸せも楽しいも喜びも
何も感じなかった…
無心な気もしたし
色々感情が入り交じっているような気もした
僕の周りはいつも矛盾ばかりだった
みんなと同じに、と言われて
方言も少しは覚えたし
みんなと同じに、と言われて
怖くても学校にだって通った
自分なりの「一緒」で生きてきたつもりだ
なのにいつも「違う」と言われた
(なんじゃろなぁ……)
僕は立ち止まる
何処へ向かうも変わらない場所で
歩き続けるのは無意味な気がしてならなかったから
(ほんま……もう何も分からん……
あいつも……何が言いたいんか分からんし)
『あ……』
ふっと笑う
方言を使ったのは久しぶりだった
この一瞬はあの女の人のことやルズリオ…ソフィのことすらも忘れてしまっていた
所詮…
別に知らない人
知らない世界
知らない人生だ
どうでもよかった
カサッ……
足音が背後から聞こえる
僕は気にせずに目を瞑る
『やぁ…愛しの我が息子よ』
男の低い声
男は僕の肩に手を置いた
『私はもう何にも怒ってなどいない…
だから帰っておいで、ベイルよ』
〝べオル自身の魂〟が反応しているのか
体が震える
べオルは父が怖かったのだろうか
分からない
けれど僕はなんとも思わなかった
怖くもなんとも…
『ソフィは?』
男は応えなかった
『ねぇ、ソフィ、ソフィは?ルズリオ』
肩を掴む力がグッと強まる
少し痛かった
『実の父を…呼び捨てにするか、べオル』
『あんたもでしょ…で、ソフィ、何処なの』
冷静を演じるのは得意だ
どんな時もこうしてきたから
でも最近は上手くいかない
今も後どのくらい保つか……
『この2ヶ月で言うようになったな
あのメイドに吹き込まれたか』
『話を逸らさないで、ソフィの居場所教えて』
『ソフィ?』
『ソフィーナだ
お前の……娘だろう』
ルズリオがどんな顔をしているのか
知るのが怖かった
『……ソフィーナ…
そんな奴…私は知らぬ』
『は……?』
『でもあのメイドならば…そこにいるだろう』
そう言ってもう片方の手で向こうの方を指さした
目を細めて見てみる
横たわっている人の姿が見えた
『…ソフィ!』
僕はルズリオの手を退けて走った
『ソフィ……ソフィ!』
ボロボロになった服を身にまとったソフィの姿
キズだらけで血の滲んだ手
そして不揃いに切られた髪
息はあった
『ソフィ…っ
良かった……よかったぁ…』
『…………ベオ…ル……?』
ソフィの声
僕は安心してソフィの手を握った
『べオル…無事……だったのね
はっ…ルズリオは…!?』
ガバッと起き上がる
そしてルズリオの姿を見つけると
僕の前に立って、折れた短剣をルズリオに向けた
『絶対にべオルは私が守る……守ってみせる
この命が在る限り……!!』
そう言ってふらつく足でルズリオの元へと走り出した
『私からもう…何も奪うなぁぁ!!!!』
叫びながら短剣を振るう
避けられては振るい
避けられては振るいを繰り返す
ドス…ドスドスッ
『あか"っ……痛…ちっ……』
ソフィは腹を殴られても蹴られても
すぐに立ち上がり、体勢を整える
もうティーラが無いのか
杖…魔道具がないのか
魔術を使うことはなかった
けれど、何度も何度もルズリオへ攻撃をしに走った
『ソフィ後ろ!!避けっ……』
グイッと後ろに引っ張られた
ドサッ…
地面に倒れた
起き上がろうとした
『か……っ』
腹を踏まれて起き上がれなかった
足から頭へと流れるように見上げた
……ルズリオだ
(は……?さっきまでソフィのところに…)
『べオル……逃げて…!!』
ソフィの方を見ると地面に這うような体制でこちらに向かってくるソフィが見えた
こちらに手を伸ばして叫んでいる
何故立たないのだろう
体力の限界────
違う
違った
すぐに違うと分かった
ソフィの後ろの方だった
そこにはソフィの履いていたブーツが2つ落ちていた
ブーツだけじゃない
その中には足もあった
赤いものが流れ出ている
『ソフィ……っ!!』
フワッ
叫んだ瞬間だった
体がまた宙に浮く感覚
次は景色も何も変わらなかった
が、すぐに落ちていると分かった
視界の左右には黒い壁…
『え…………』
あの女の人が見えた
手を左右に開いている
フッと体の前に持ってくる
『べオル逃げっ……』
パンッ────
目の前が真っ暗になった
何が起きたか分からなかった
ドタッと音と共に体が硬い床に当たった
目を開く
明るい
〖◣オカエリナサイマセ…灯向サン…◢〗
『ONEマイライフ!#27』を読んでくださりありがとうございますっ
いつもいつも更新直後に読んでくださっている方々…そうじゃなくとも読んでくださっている方々…本当にありがとうございます!
活動報告でも書かせていただいてある通り…もうすぐで投稿があまりできなくなったりしてしまいますが、また投稿が再びできるようになったら、沢山読んでくださると嬉しいですっ!!




