<#24 どうでもいい>
城を逃げ出した日から、約2ヶ月が過ぎていた
頑張って節約してきた食料も残り僅か
たまにすれ違いの船から貰う食料もあったが
もう袋の底の布が見え始めていた
けれど、良い知らせもあった
もうすぐ、目指していた西の大陸が近付いてきた
何事も無ければ…あと半日で着く予定らしい
やっと希望の光がほんの少しだけ見えた
と、僕はそう思う
ソフィは黙々とボートを漕ぎ続けたり、
休憩時には僕に漕ぎ方を教えてくれて
交代制で先に進めるようにしてくれた
『うぅ…む、難しい……』
そう言ったのは僕……ではなく、ソフィだった
顔を顰めている
『行動を教えるのって…こんなにも難しいのですね…仕事内容ならばサッと簡単に教えられたのに…っ
なんだか悔しいのは何ででしょうかッ』
天を仰いで叫んだ
途中でソフィのスイッチが切れたり、ついたりで
なんとも愉快な時間を過ごせた
こんなにも笑ったのはいつぶりだろうか
研究所…だとしてももう随分と過去のことのように思えてしまう
時の流れと人間の時間感覚はおかしなものだ
そう思ってまた一人でクスリと笑う
『まぁまぁ…ゆっくり教えてくれれば良いよ
今でももう漕ぐことはできるしね
直進しかできないから絶対いつか事故起こすけど』
『起こさないでくださいね!!?
嫌ですよ!?こんなに海のど真ん中で沈没して溺れて溺死してミイラになって腐って誰にも見つけられないの!』
『そ、壮絶だなぁ…想像力豊かで頼もしいけど…
……いや、頼もしいのか…?』
『はい!私は頼もしいのです!』
『ソフィが言うなら…そうか…ウン…ソダネ…』
『ぼ、棒読みじゃないですかぁっ』
そう言って泣くふりをして
また僕を笑わせてくれる
きっと意図的に僕を元気づけてくれているのだろう
それがとても嬉しかった
ソフィは優しい人だと…知れたのだから───
『べオル…貴方様に伝えると言って…
まだ伝えていないことがあるのですが…
聞き…ますか…?』
不意にソフィがボートを漕ぐ手を止めて言った
確かに…そんなこと、言っていたな…
そう思って頷く
ソフィが唾を飲み込む
喉が僅かに動く
『分かりました…どうか、驚かないでくださいね?』
『……うん』
『その……私の名前…ソフィーナ…』
『知ってるよ…?』
『っ…そ、そうでは…なくて……
私……
ソフィーナ・ウィスターと…申します…』
『ウィス…ター……?
あれ…僕の名字も……ウィスター…』
ソフィが目を細める
『えぇ…私たち…姉弟…だったのです
ずっと黙っていてごめんなさい…べオル…
ルズリオのことも私…父のような、なんて言ってしまいましたが…実の父親なのです…
同じ父と…
同じ母から…産まれました』
少しツリ目のソフィの目がまた細められて
更に鋭くなる
鋭い目付き…なのに優しい瞳…
そっと僕の手を握る
暖かい手
僕の冷たい手を溶かすような心地良さ
安心に似たような感覚
『同じ……家族…姉弟…姉…………』
僕は思い浮かんだ言葉をズラリと並べた
少し驚いた
けれど、すぐに冷静に戻る
ちゃんと考えれば…本当に他人で
たった2ヶ月前に出会ったばかりで
特別なこともなく、ごく普通の仲間だった
他人……そう思えばそう思うほどに
姉弟だとか、姉だとか…そんなの
どうでもよくなっていった
そんな、僕らしくないと
自分で思うようなことに気付いた時には…
もう遅かった
『どうでもいい…そんなこと…
どうでもいいよ』
僕の口から零れた言葉
自分でも、どんな意味の「どうでもいい」なのか、分からなかった
でも……ソフィの顔は…明るかった
目には涙が溜まっていたが…
微笑むような…優しい笑みを見せていた
『ありがとう…べオル…
どうでもいい…あなたがどんな意味で言ったかは…私には分からない…
でもね…嬉しかったの…私には…
「お前はお前だ」なんて…
綺麗な言葉に聞こえてしまったもの…っ』
涙声でそう言った
ソフィは自分の胸に手を当てて誇らしげに笑う
『私はあなたを守るために今は在る…
きっと…守らせてね…何かあったら
私の幸せはあなたが生きること…
────だからこそ…後悔してるの
ごめんなさい…あの日…私が城に戻って来た日にルズリオに…お父様に抱かれるあなたを見て、嫉妬してしまったの…
どうか…どうか許してね……』
僕の手を握っているソフィの手に力が籠る
僕はその手を…離したくないと思った
そして僕は思った
…今はべオル・ウィスター…
田邊灯向はもういない…戻ることもない…
ならば全てを今に尽くして…
全てを今に託そう…
僕は今の僕だ
過去の僕は存在しない────
『ONEマイライフ!#24』を読んでくださってありがとうございますっ
最近暑くなってきましたねっ!夏ですね!夏!夏らしいですよ!夏は苦手です!はい!
1番好きな季節は秋ですっ、大好きな焼き芋食べれるんですもん…っ
皆さん、こんな暑い日がこれから続いていくはずなので、熱中症には気を付けてくださいねっ
今回も呼んでくださった皆さんに感謝っ




