表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/32

<#22 親子の器>

『あ…あ……』


そんな声しか出なかった

声と言ってもいいのかすら分からない声だった


 グイッ


『わっ……』


後ろから腕を引っ張られた


『静かに……』


 カ…チャン……


あっという間に視界を覆った大きな扉がそっと閉められた

意外にも静かな音だった


意識はすぐに掴まれた腕に戻った

自分よりも大きくて、少し皮の剥けた若干硬い手……


自分の手を握ってみるけれど…

この人の手よりは柔らかかった


後ろに振り向く

そこには1人のメイドがいた

キリッとした目、覚悟をした目…

本当に何かを覚悟したのかは、分からないけど、そう思った


黒くて長い髪を微かに揺らしながら

大きな目を瞬かせた


『べオル様……申し訳ありません

こんなことに巻き込んでしまって…


私の不注意でディーナも…他の子達も…


べオル様のお心までも』


そう言って深々と頭を下げて謝ってきた

僕にはなんの事だか…


『え、えと……ごめんなさい…

僕…今ちょっと記憶が…その……』


そう言うと一瞬目を見開いたが、すぐに顔を顰めた

そして俯き


『逃げましょう』


そう、言葉を1つ落とした


『逃げましょう、べオル様…

貴方様を酷く傷付けたあの男から…


この国から……っ』


『えっ……』


僕は何も言えずに手を引かれて長い廊下をただひたすらに走った

けれど、僕は冷静だった


幸せで始まることが無いと……

分かって此処に来たのだから


『……ごめんなさい…僕、自分の名前も…あなたの名前も……ここが何処なのか……


なんにも…分からなくって……』


『…今この状況下での冗談はお辞めになってくださいな!


こっちです!下に降ります、そこに船着き場がありますので、そちらの船で……


その前に急いで軽く持ち物だけ…

最低限は揃えたいですね…』


そう言って階段を駆け下りる

そのまま迷わずに水辺に出た


『少々お待ちください……

もしも…もしもあの男が来てしまったら──


…迷わずに船をお出しください

私のことは忘れて……』


『…っ……分かりました

お、お気をつけて……』


僕は先に少しだけ船を出した

動かし方も扱い方も分からない

その「もしも」が起きた時、動ける気がしない


水の音が心地よく耳に届く

こんな状況でも水の音は構わずに響く


あのメイドの足音は消えていく

不意に静寂に包まれる

何も出来ない

何もしない

ただぼーっと待っているだけ


そんな自分がなんだかウザったるしくて

嫌いだった

どうして、

どうして僕はいつも何も出来ないんだろう

もう少し協力的な人間になれたらいいのに


またそんなことばかりを考えてしまう


『……消えてしまえばいいのに…』


僕は俯いてそう呟いた


『ほら!そんな暗いこと言わずに!!』


顔をあげる

メイドがもう目の前にいた

いつからいた?

…そんなことはどうでもいい

早くしなくちゃ


僕はゆっくりと揺れるボートに乗った

初めて乗る

存在は知っていたけれど

本物を見たことがなかった

海……ましてや湖だとか、そんなものも

見たことはない

強いても…山を流れる小さな川くらいだった


『一応…外套、食糧、水、地図……

あっ、あとはランプ…持って来ましたよ


夜の海は暗いですし…

あ…でも見つかってしまいますかね……』


どうしよう、と少ない荷物を漁る

何かが出てくるはずもないのに


『……海…暗いんですか…


でも…ランプがあれば何か別のことに使えるかもしれないので…


持ってきて正解だと思いますよ』


僕はメイドの持っているランプを指さして言う


指さしてから気付いた


…あれ…何でだろう、僕…

いつもみたいに…話せない…?

どうして…どうして口調が少し違うの?

……なんでそんなにも…冷たいの…?


自分自身に問うた

答えは出ない

けれど気になった

どうしてだろう


『…?

どうされました?…あっ、私が反応返さなかったから…ですかね…


あっ、でも、でも…そう言ってもらえて嬉しかったですよ?

ありがとうございます…』


なんで…なんでなんで…

いつもみたいに明るく振る舞えよ

このメイドさんも怖いはずだろう

なんでなんで

自分の世界にいるんじゃ何もできやしないだろう

誰かのためになりたいのだろう?


『……ま、まずは何処に逃げるか…決めましょうか


あっ、先にボートを出さなくてはいけませんね…

申し訳ありません』


体が揺れる

水の上に浮かんだまま進む感覚が伝わる


灯向…お前はなんだ

何になりたい


…違う…そんな話じゃなくて

どうして口調がって話で…


お前はなんだ

お前はなんだ

お前は………どうして何もかも忘れて

のうのうと今も生きている?


何言ってるんだろう

何思ってるんだろう

違うよ

違うの

話がズレて……


『あっ、に、西の方とかどうですか…?

自然が綺麗な大陸がありましてね…

お花畑が……』


『えっ、あっ…ごめっ…違っ……えっ……』


急に現実に引き戻されたような気がして

上手く返事が出来なかった


『え、えと…だから西はいかがでしょう…?』


『う、うん…西か……


いいと思うよ、西にしよう

花畑…だっけ?

逃げ切れたら…そこにでも行こっか』


さっきのことがあったからか…

感覚が遠い

自分が話しているとは思えなかった


『羅針盤、一応常備していますので

方向の程はご心配なく


それで……先程の悪い冗談はなんだったのです?

記憶喪失…だとかそう言いたいのですか?


……いや…あの事があったから…頭がおかしくなって……』


『それは言い過ぎじゃないかな

泣きたくなるよ』


あっ、まだ……少しだけ〝自分〟がいるな

良かった……

まだ…安心か…


『はっ……もっ、申し訳ありません…っ

私つい…っ』


『大丈夫だよ…あ、ですよ

大丈夫です


僕も変なこと言ってしまって…』


メイドに合わせるように頭を下げる


『べ、べオル様っ…頭をお上げになってくださいっ


貴方様が私のような愚かなる者に頭など下げてしまっては……っ』


は……愚かなる…?

何…っ

自分のことは…ダメだよそんな…

自分を悪く言わないで…


『あ、あなたが頭を下げることもありませんよ


あなたにも立場があるのかもしれません

今僕を目上として扱ってくれていますが…


結局は…一人ひとりの人間…なんですから…

分けちゃ…ダメです…』


自分は自分にしか守れないんだから…

どんな人でも…始まりは同じで…

行き着く場所も同じ…

だから……


(ん?なんか思想強めな人になってない…?)


でも…っ

でもダメ!!!


なんて…人の事言えないな──────


『べオル様…その……あと少ししたら…

ひとつ隠し事、聞いてもらってもよろしいでしょうか


あっ、んー…いや、はい…

聞いて…もらいたいのです』


『…?

良いですよ

なんでも話してください…味方、なりますよ


なら今…僕のも聞いてもらっても良いですか?』


僕の…この世界の情報収集がしたかった

何も分からないままじゃ何も進まない


そう思ったからだ


『えぇ…もちろんです』


『その……僕の名前、歳……なんだか言いづらいですが…その…僕の立ち位置?とか…

それとこの場所が何処なのか…とか…』


『まぁーた悪いご冗談を〜……


…………え本当(マジ)ですか…?』


『……はぃ…』


『えぇ…!?ちょ、ま……記憶喪失だったんですか!?』


『さ、さっきからそれを……』


そのメイドはワナワナと目をグルグルにしていた

頭にはてなマークを浮かべて

叫ぶような顔をしながら

手だけが自我を持ったかのように暴れていた


『えぇぇぇぇ…!!!?』


『時差すごーー…』


『えっ、えっ…えぇ!?うん、は?えっ!?』


この人は…情緒どうなっているのだろうか…


『えっと…だからその……落ち着いてください…』


『はいっ!

……では一から説明させていただきます…』


スン、と何事も無かったかのように話し始めた

ボートが転倒してもおかしくないほどに

暴れていたのに…

どうしたらその落ち着きが…?


いや、落ち着けって言ったのは僕か……


『ありがとう…ございます』


『べオル様……貴方のお名前です

べオル・ウィスター…ウィスター家次男…


お歳は今年で10になられますよ

10歳だとは思えない程に優秀なので、次期国王候補者ですよっ


立場…身分と言えばいいのでしょうかね

貴方様はルーズヴァーナ王国の現国王陛下…

ルズリオ陛下のご子息…次男にして第二王子にあたる方ですよ


少し…説明が下手なのはお許しくださぃ…』


そう言って自分の胸に手を当てた


『第二王子……ルズリオ陛下の…

え、とゆーことはだよ?


僕……あのなんかヤバそうな人の…息子…?』


『はいっ!あのヤバい方の息子です!』


え、すっごくヤダ──────


いやいやいやいや、それもそうだけど…

いやいやいやいやいやいやいや


僕10歳!!?

僕今10歳!?

10歳で今この状況!?

精神年齢めちゃくちゃ低い12歳の僕よりも歳下!?

そしてその中の人僕!?


詰みじゃん!!

え、待って…


ほんとーーに詰みじゃーないですかぁ…

『ONEマイライフ!#22』を読んでくださってありがとうございますっ


親子喧嘩って怖いですよね…

みなさんもお気をつけて……

仲良く…過ごしましょう…!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ