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【祝祭の色彩:まち】

今日も元気なまるやのむすめ

あたまの上にはおだんごふたつ

ぴかぴかひかる串さした

かんばんむすめのまちちゃんさ

祭!!

祭だ!!

日の上る前からせっせと仕込んだ団子が山盛り、店の前もきれいに掃き清め、準備は万端。

今日は、父も母も番頭さんも、お手伝いさんが三人も来てくれるから万全体制。

さあ、稼ぐぞ稼ぐぞ!!


日が昇ったら、町会の幟を立てるお手伝い。

既に通りではあちこちで出店の準備が始まりにぎわい出している。

宮の大門の通りの広間に特設舞台が出来ており、そちらが中心となるようだ。

残念ながらまるやはその通りからは外れてしまうが、混雑の中心に巻き込まれなかっただけ良かったのかもしれない。

(のぼり)を立てに集まった町会の面々と、宿屋ときやの若旦那こうさんの指示のもと、屋根まである大幟を立てていく。

腕まくりして出て来たはいいものの、男の人たちでわっせわっせと立ててくれたので、後ろで応援していることしかできなかった。

決められていた四か所で幟を立て終えたら、いよいよ、お商売開始!!と意気込んで店に帰ろうとしたところで、ふいに、こうさんに呼び止められた。

「まちちゃん……も、もし時間があったら、昼すぎにちょっと……その、露店の見回りに付き合ってくれないかな?」

そんな敵情視察のお誘い。

確かに、祭とあっては普段では見ないお店がたくさん立ち並ぶ。

「お昼すぎ……!」

えっと……あれと、これと……うん。ちょっとの時間なら大丈夫!

「競合も見ておかなきゃだし!!行きましょう!」

と、腕まくりした腕をぐっと見せ付けながら返事をした。


店に戻るとのれんを掲げる前にもう待ってるお客さんが。

こうしちゃいられない。

ニコニコ笑顔で脇を通りぬけてお店に飛び込み開店準備。

「おかーさん!もう外で待ってる人がいるよ!!」

「あれ、じゃあ早いけど開けちまおうかね」

のれんを抱えて表に出ると、待ちかねたように最初のお客さんが入ってきた。

「えれぇ早くにすんません!!宮に来たらまるやには行けってうるさく言われててね!」

などと威勢よく来たお客さんは、どうやら南の方から来たらしい。

宿を出るなり、まるやに直行、してきたらしい。

書付とにらめっこしながらああでもないこうでもない。

「お団子お持ちしましたぁ!宮参りは初めてですか?」

と聞くと、照れくさそうに頷いた。

きっとこれからあちこち回るのだろう。

今日の最初の訪問に選ばれたことが少し誇らしくなった。

などとしていたら、後から後からお客さんが入ってくる。

こちらの方はこれから舞台の方へ、朝飯代わりに団子をくわえて見物とのこと。

あちらはお茶だけ頼んで、お団子を選ぶのにご苦労な様子。

普段も、お宮講の方々で見慣れているが、普段よりいっそう見慣れぬ着物が多い気がする。

お祭に合わせておめかししてる、そんな事実が嬉しくなって、一人ニコニコしてしまう。


昼までは、次から次へとお客が来られて、団子を焼くのも追い付かない。

お皿を片せばすぐ次の客が気づけば座っている。

てんやわんやのまるやの店内。

「おうい!」「こっちも!」「お代はいくら?」

店内飛び交う声、声、声。

まちも必死にあっちへこっちへ、目が回るとはこのことか。

ようやく一波越えたと思えば、次なる波はさらに大波。

「あー!!腕と顔が四つずつほしいー!」

などとぼやきながらも、あれよあれよと昼の鐘。


昼の鐘を境に、途切れることのなかった客足が、少し落ち着き出してきた。

いろんな声を聞いてみたところ、そろそろ宮様方の舞が始まるらしい。

ようやく一息ついたところで、かわるがわるに休憩を取る。

休憩に入ったお手伝いさんが、目をしぱしぱさせながら、厨房の隅でお茶を飲んでいた。

まちも様子を見ながら冷めきったお茶をすする。

そうこうしているうちに、こうさんがのれんをくぐって様子を覗いてきた。

「おかーさん!ちょっと出てくる!!てきじょーしさつ!!」

そう言い残してこうさんに合流した。


「こうさんのお店は、甘酒でしたっけ?」

「そう、祭の時はいっつもそう。たまには変わったことをしてもいいと思うんだけどな」

「ときやの甘酒はおいしいからなぁ」

「上塩使ってるんだぜ?親父は儲けなんて考えてねぇや」

なんて話をしながら、人ごみのなかを並んで歩く。

並び立つ、とってつけの屋台を冷やかしながら、扱っている商品を確認する。

瓜のあさ漬け。串を差してそのまま食べちゃうのね。

干し肉のぐるぐる焼き。薄切りの干し肉を串にぐるぐる巻きに。

小魚の干物、は頭からバリバリ食べるのかな。

粉焼き。これは昔からある!薄焼きのパリパリが美味しいの。

路地を抜けて隣の通りへ。

途端に甘い香りが鼻をくすぐった。

しかし、特設舞台に繋がる通りだけあって、人の出が先ほどまでの比ではない。

押されてつまずきそうになりながらも前へ進む。

「まちちゃん、こっちへ!」

こうさんに手を取られて、ようやく屋台の影に避難ができた。

「通りが違うとこんなに違うんですねぇ!」

前を行き交う人々を眺めながら素直な驚きの言葉が出た。

「どうもあの店の行列も関係ありそうだな……」

こうさんが顎で指した先を見ると、ひときわ大きな看板に黒々とした文字で大きく「墨屋」と。

「あれは……東北の名産みたいだね、それにしてもえらい大きく構えてるな……」

「すごい行列!名物、焼桃団子……!?こうさん!近くまで行くよ!!」

今度はまちがこうさんの手を取って、ぐいぐい人を押しやって屋台の前までたどり着く。

途端に広がる甘い香りと、じゅうじゅう上がるその音に釘付けになる。

「鉄板で、その場で焼いて……」

目を丸くして、目の前で出来上がっていく焼桃団子を見届けた。

「こうしちゃいられない!!こうさん!店に戻ります!!ありがとうございました!!」

言うが早いか、ずいずいと人波をかき分けてまるやへ帰っていった。


「おとーさん!おとーさん!鉄板!鉄板だよ!」

「なんだい藪から棒に!敵情視察はもういいのか??」

帰ってくるなり、延々と団子を焼いている父の元に飛び込んだ。

「肉まんのお肉!鉄板で表で焼こう!」

「へぇ?そりゃぁ、鉄板なら、奮発してそろえたのがしまってあったろうけど……」

「お肉……を小さくすればいいか……あとは果実のたれで香りを出して……」

うつむいたままぶつぶつと口の中でつぶやくと、意を決したようにがばっと顔を上げた。

「明日からは表でも売るよ!!」

「なんだぁ?」

父は何のことだか分からぬ様子で、首をかしげながらも団扇を仰いでいた。


翌日。

朝から店前にかまどを組み、番頭さんが火を起こしている。

店内では、長い紙を前に真剣な面持ちのまち。

一気呵成に筆を走らせる。

……カンペキ。

「まるや特製!お手持ち肉まん」と書かれた紙を前に、少し得意げになる。

字は上手くないけど、読めれば良いでしょ!

母はいぶかしむようにその様子を見ている。

「いつものもちもち肉まんを、一口大にちっちゃくして串にさすの!」

説明してやるも、母の表情は変わらない。

「はぁ、そう上手くいくかね?昨日は店内もわやくちゃだったってのに」

「昨日はお店でゆっくりしたい人と、お祭でお団子食べながら歩きたい人が一緒になっちゃったから大変だったんだよ!」

そう、昨日の反省点だ。

「外歩きは『お手持ち肉まん』に絞れば、お店の中は席でゆっくりしたい人だけになるから!それに、お団子はどんどん売れるからじゃんじゃん焼いて表でそのまま売っちゃおう!」

数年に一度の大祭、こんな機会はまたとない。

「それ、忙しくなるぞぉ!!」


「お父さんとお母さんはお店のお客様の対応に集中していいから!あとはお手伝いさんとの四人でお願い!」

そう言いながらそれぞれ役割分担をしていく。

外は、焼き係の番頭さんと、お客の対応をまちとお手伝いさんの二人でこなしていく段取りだ。

物入れに大事に大事にしまわれていた虎の子の鉄板を持ち出して、いざ勝負。

「さあさあ!まるや特製のお団子に、お手持ち肉まん!いかがでしょうか!!」


さて、いざ始めてみれば、あれよあれよのうちに大騒ぎ。

香ばしいお肉の焼ける音に、果実のたれの甘い香りがどんどんと客を呼び寄せる。

目の前のお客さんの注文に応えるだけで大忙しで、呼び込みなんてしてもいられない。

「まちちゃん!まちちゃん!困ったな、すごい行列になってるよ……!」

こうさんだ、様子を見に来てくれたのか。

「こ、こうさん……あっちの通りまで列が出来ちゃってて……」

嬉しい悲鳴だが、とてもじゃないが列の混雑まで対応しきれない。

こうさんは、そんなまちを見て、力強く胸を叩いた。

「よし、ウチの若いのも出して列を整理させよう、ちょっと待ってて!」

そういうが早いか人ごみをかき分けて姿を消した。

「こうさん!ありがとう!!」

後姿に向かってそう叫ぶと、再びお客さんに向き直る。


こうさんの助けもあり、大きな混乱もなく、無事に夕暮れを迎えた。

店の喧騒で聞こえなかった、舞台の笛と太鼓の音が響いてくる。

燃えカスとなった炭火を見ながら、放心状態である。

再びこうさんが、ふらりという様子でやって来てくれた。

「こうさん……助かりました!あんな行列になるとまでは……」

「なに、こっちの甘酒売りも人が余ってたから。お安いご用さ」

頼もしい限り。持つべきものは町会の仲間だ。

「それより……お客さんも落ち着いたなら……舞台で今日の終いの出し物がまだあるらしくて……」

「舞台!行きましょう!」

そういえば昨日も今日もお店のことで手一杯、特設の大舞台、この目に収めておかなくては。

「おかーさん!おかーさん!舞台見てくる!!かまどは明日も使うから!!」

店に向かってそう叫ぶ。

「さあ!急がないと!!舞台も終わっちゃいます!!」

こうさんの手を取って、夕暮れの町へ駆けだした。

~二殿の報告書~

祭事の門前町。

様々な出店が立ち並ぶ。

軒先に連なる木組みの屋台の光景は壮観でもある。

町会ごとに取りまとめて出店されているらしい。

二日目以降は回る機会もあるだろうか。

期待はしないでおく。

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