【不死のいたずらと、小鬼の純情】
九宮コトワは、居間に置いた畳の上で退屈そうに端切れを選んでいる。
この別荘を出て行く巫女のせなに、餞別でもくれてやろうか、と考えてはいるが、どうにも気が乗らない。
数日前に開かれた、宮の位の巫女の会議以降、コトワはつまらなそうな態度で日々を過ごしていた。
「コトワ様ー!お客様です!!」
りふぁが無遠慮に叫ぶ声が玄関から響いてくる。
軽く返事をすると、端切れを箱にしまい込み、畳の上で片膝を立てて客人を待つ。
やがて、神妙な顔つきで入ってきた武官の高官たち。
その中心のもの、名は、何とかいう将職だったか。
居間の板敷きの上にあぐらをかき、両手を床に付くと、もったいぶって話始めた。
「九宮様。単刀直入に申し上げます。かの小鬼、りふぁを、我ら武官の下にお迎えしたい」
将は、やや威圧的に、そう切り出した。
コトワは、肘置きにおいた手を口元にやりながら、抑揚のない声で答える。
「ほう。ずいぶんと、急いでおるのう」
「あの小鬼の力は、野放しにしておくには、あまりに危険。神織の秩序のため、ご理解いただきたい」
「秩序、か」
コトワは、くすり、と笑う。
「して、おぬしたち。五家の屋敷を守っておる、あの大層な私兵の数々は、神織の秩序のうちに、入るのかのう?」
「っ……!」
将は言葉に詰まる。
少し愉快な気分になる。
神織の歪み、この者たちも分かっているのだ。
コトワは口元にやった手を放しながら、答えてやる
「まあ、よい。わたくしに言っても、詮ないこと。そんなことは、りふぁ本人に直接言うがよい」
「しかし、九宮様のご意向も……」
「ふむ……」
あえて焦らしてやる。
「……まあ、考えておいてやらんでも、ない」
もったいぶった言い回しをして、すっと立ち上がった。
長い時間相手にしたくはない者どもである。
武官達は、交渉が切り上げられたのを察し、すごすごと引き下がっていった。
しばし考え込んでいたが、愉快なことを思いついたので、声を上げりふぁを呼んだ。
◇
一筋縄では行かぬとは思っていたが、案の定である。
九宮コトワの元にいる、りふぁの武官への組み込みの交渉。
高級武官の執務室に帰り着いた一行は、それぞれに深いため息をついた。
五家の私兵、という聖域にずばずばと踏み込んだうえに、「考えておいてやらんでもない」という、どちら付かずの返事。
前向きな返事、と捉えて良いのやら、このまま返事をうやむやにするつもりなのやら。
将は同行した武官達に、重い口を開く。
「……どうしたものか。あの九宮様、『考えておく』とはおっしゃったが……」
「あの小鬼を、うまく、こちらに引き込む、か……」
「まずは、褒美で釣るか? いや、あの師匠に似て金品には興味を示さんかもしれん……」
具体的な策を立てねばならん。
ほとんど無策で九宮邸へ行ったことを後悔した。
「動かせる金は、どれだけある?」
と、確認したまさにその時。
「ごめんください! 九宮様のおつかいで、まいりました!」
扉の外から聞こえてきたのは、元気で、どこか、あどけない声。
その声に、面々と顔を見合わせる。
九宮様が手を打ってきたということか、早すぎる。
思惑が見えないが、ひとまず部屋へ通させる。
今まさに、議論の中心であった小鬼のりふぁ本人が、おどおどと部屋に入ってきた。
「何か、御用かな?九宮様のおつかい、と」
りふぁは、その問いに、きょとん、とした顔で答える。
「え? コトワ様に、『武官様がお前に話があるらしいから、すぐに行ってこい』って、言われて……」
「う、んん……!」
将は大きく咳ばらいをし、同席した武官の顔を見る。が、誰も目を合わせようとしない。
観念したように、話始める、が想定外の客人に対しては、説得の準備ができていない。
「じ、実は君が大いに力をつけているとお聞きしていて、な。……ええと、神織では武官以外の大きな力は認められておらんのだ。……うむ、そこで、君のその力を、神織のために、役立ててはくれまいか。武官となれば、身分も、食事も、保証するが……」
じっと話を聞いていたりふぁは、こてん、と小首をかしげる。
そして、一点の曇りもない、まっすぐな目で、こう言った。
「ぶかん? に、なる? ……うーん、でも、ウチは、コトワ様の付き人なので、それはできませんけど……?」
その実直な回答に、思わず口ごもる。
「そ、そうか……。いや、しかし、だな……」
助け舟を求めるように、仲間に目をやるが、彼らはもはや口元に笑みさえ浮かべている。
まったく頼りにならん。
「……よい……また、改めよう……今日は帰りたまえ……」
不思議そうな顔をしたまま、再びおどおどと出ていくその小さな背中を、ため息とともに見送る。
「……お前ら!もっとなんとか言えただろう!」
「いや、そうは言われましても、勝手な約束はできませんし……」
◇
そう時を経ずに帰ってきた、りふぁを居間へ呼びつける。
「どうであった?」
りふぁは不思議そうな顔で前に座り込んだ。
「おつかい、は分かりませんでしたけど、ぶかん?になれって言われました!」
「ほうほう、それで?」
「コトワ様の付き人なので、できませんけど、って言いました」
「ふははははは!これは良い、傑作じゃな」
りふぁは突然笑い出したコトワにも不思議そうな目をする。
「こちらのくれてやった機会に、りふぁを引き込めんかったのは、あちらの落ち度じゃな。しばらくは大人しくしているじゃろう」
心なしか、気分が晴れた気がする。
どれ、せなへの餞別には、卓掛けでも作ってやろう。
りふぁを下がらせると、再び箱の中から端切れを選び出した。
特に明るい暖かい色の布地を手に取った。
~二殿の報告書~
祭事がいよいよと迫る中、せな殿の三殿への昇格が公表された。
この時期に異例なものである。
先日の宮様の会議はこの件であったか。
北部の警備強化の情報も入っている。
祭事に向けた準備も大詰めか。




