↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
61/86

【不死のいたずらと、小鬼の純情】

九宮(くぐう)コトワは、居間に置いた畳の上で退屈そうに端切れを選んでいる。

この別荘を出て行く巫女のせなに、餞別でもくれてやろうか、と考えてはいるが、どうにも気が乗らない。

数日前に開かれた、宮の位の巫女の会議以降、コトワはつまらなそうな態度で日々を過ごしていた。

「コトワ様ー!お客様です!!」

りふぁが無遠慮に叫ぶ声が玄関から響いてくる。

軽く返事をすると、端切れを箱にしまい込み、畳の上で片膝を立てて客人を待つ。

やがて、神妙な顔つきで入ってきた武官の高官たち。

その中心のもの、名は、何とかいう将職だったか。

居間の板敷きの上にあぐらをかき、両手を床に付くと、もったいぶって話始めた。

「九宮様。単刀直入に申し上げます。かの小鬼、りふぁを、我ら武官の下にお迎えしたい」

将は、やや威圧的に、そう切り出した。

コトワは、肘置きにおいた手を口元にやりながら、抑揚のない声で答える。

「ほう。ずいぶんと、急いでおるのう」

「あの小鬼の力は、野放しにしておくには、あまりに危険。神織(かみおり)の秩序のため、ご理解いただきたい」

「秩序、か」

コトワは、くすり、と笑う。

「して、おぬしたち。五家(ごか)の屋敷を守っておる、あの大層な私兵の数々は、神織の秩序のうちに、入るのかのう?」

「っ……!」

将は言葉に詰まる。

少し愉快な気分になる。

神織の歪み、この者たちも分かっているのだ。

コトワは口元にやった手を放しながら、答えてやる

「まあ、よい。わたくしに言っても、詮ないこと。そんなことは、りふぁ本人に直接言うがよい」

「しかし、九宮様のご意向も……」

「ふむ……」

あえて焦らしてやる。

「……まあ、考えておいてやらんでも、ない」

もったいぶった言い回しをして、すっと立ち上がった。

長い時間相手にしたくはない者どもである。

武官達は、交渉が切り上げられたのを察し、すごすごと引き下がっていった。

しばし考え込んでいたが、愉快なことを思いついたので、声を上げりふぁを呼んだ。


◇


一筋縄では行かぬとは思っていたが、案の定である。

九宮コトワの元にいる、りふぁの武官への組み込みの交渉。

高級武官の執務室に帰り着いた一行は、それぞれに深いため息をついた。

五家の私兵、という聖域にずばずばと踏み込んだうえに、「考えておいてやらんでもない」という、どちら付かずの返事。

前向きな返事、と捉えて良いのやら、このまま返事をうやむやにするつもりなのやら。

将は同行した武官達に、重い口を開く。

「……どうしたものか。あの九宮様、『考えておく』とはおっしゃったが……」

「あの小鬼を、うまく、こちらに引き込む、か……」

「まずは、褒美で釣るか? いや、あの師匠に似て金品には興味を示さんかもしれん……」

具体的な策を立てねばならん。

ほとんど無策で九宮邸へ行ったことを後悔した。

「動かせる金は、どれだけある?」

と、確認したまさにその時。

「ごめんください! 九宮様のおつかいで、まいりました!」

扉の外から聞こえてきたのは、元気で、どこか、あどけない声。

その声に、面々と顔を見合わせる。

九宮様が手を打ってきたということか、早すぎる。

思惑が見えないが、ひとまず部屋へ通させる。

今まさに、議論の中心であった小鬼のりふぁ本人が、おどおどと部屋に入ってきた。

「何か、御用かな?九宮様のおつかい、と」

りふぁは、その問いに、きょとん、とした顔で答える。

「え? コトワ様に、『武官様がお前に話があるらしいから、すぐに行ってこい』って、言われて……」

「う、んん……!」

将は大きく咳ばらいをし、同席した武官の顔を見る。が、誰も目を合わせようとしない。

観念したように、話始める、が想定外の客人に対しては、説得の準備ができていない。

「じ、実は君が大いに力をつけているとお聞きしていて、な。……ええと、神織では武官以外の大きな力は認められておらんのだ。……うむ、そこで、君のその力を、神織のために、役立ててはくれまいか。武官となれば、身分も、食事も、保証するが……」

じっと話を聞いていたりふぁは、こてん、と小首をかしげる。

そして、一点の曇りもない、まっすぐな目で、こう言った。

「ぶかん? に、なる? ……うーん、でも、ウチは、コトワ様の付き人なので、それはできませんけど……?」

その実直な回答に、思わず口ごもる。

「そ、そうか……。いや、しかし、だな……」

助け舟を求めるように、仲間に目をやるが、彼らはもはや口元に笑みさえ浮かべている。

まったく頼りにならん。

「……よい……また、改めよう……今日は帰りたまえ……」

不思議そうな顔をしたまま、再びおどおどと出ていくその小さな背中を、ため息とともに見送る。

「……お前ら!もっとなんとか言えただろう!」

「いや、そうは言われましても、勝手な約束はできませんし……」


◇


そう時を経ずに帰ってきた、りふぁを居間へ呼びつける。

「どうであった?」

りふぁは不思議そうな顔で前に座り込んだ。

「おつかい、は分かりませんでしたけど、ぶかん?になれって言われました!」

「ほうほう、それで?」

「コトワ様の付き人なので、できませんけど、って言いました」

「ふははははは!これは良い、傑作じゃな」

りふぁは突然笑い出したコトワにも不思議そうな目をする。

「こちらのくれてやった機会に、りふぁを引き込めんかったのは、あちらの落ち度じゃな。しばらくは大人しくしているじゃろう」

心なしか、気分が晴れた気がする。

どれ、せなへの餞別には、卓掛けでも作ってやろう。

りふぁを下がらせると、再び箱の中から端切れを選び出した。

特に明るい暖かい色の布地を手に取った。

~二殿の報告書~

祭事がいよいよと迫る中、せな殿の三殿への昇格が公表された。

この時期に異例なものである。

先日の宮様の会議はこの件であったか。


北部の警備強化の情報も入っている。

祭事に向けた準備も大詰めか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。