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幕間十二【孫娘と黒い石】

今日も元気なまるやのむすめ

あたまの上にはおだんごふたつ

ぴかぴかひかる串さした

かんばんむすめのまちちゃんさ

この日、まるやの看板娘、まちも、さすがに緊張を隠せずにいた。

いちばん日当たりのいい席を、上等な赤布できれいに飾り、小さい白い花を生けた花器を控えめに配し、準備を整えてある。

店前もきれいに掃き清めてあり、粗相はないはずだ。

五家(ごか)のお一人、黒曜(こくよう)さま。その隠居した先代「おおじい様」が宮まで久方ぶりに出てくるそうで、まるやの一席をお借りしたい、という要望を受けていた。

五家に関わる方がお忍びでやって来られることはたまにはあるが、改まって、一席を、と依頼されることはほとんどない。

まちは落ち着かない様子で店内の卓上をさらに拭き上げながら、来客を待った。


はじめにのれんをくぐり、どっしりとした面持ちで現れたのは、黒曜ご当主の宗厳(そうげん)様。そしてその後から静かに続く、切れ長な目つきがステキな二宮の巫女、黒曜らん様。

「いらっしゃいませ!お待ちしておりました!!」

まちは張り切って二人を用意した席まで案内しようとしたが、お二人は「まだよい」と入り口に立たれている。

これにはまちもどうしてよいやら、その場にも居た堪れず、冷や汗を垂らしながら、厨房へ逃げてしまった。


やがて、店の外が騒がしくなったかと思ったら、慌てて出て行くご当主様とらん様。

まちも、かげからそっとのれんの向こうを覗いた。

立派な赤毛牛に引かれた豪奢な車。その周りに何やら沢山のお付きの人達が集まっている。

らん様が手をとって、車から降りてきたのが、五家の中でも一番お金持ちと言われる黒曜家の「おおじい様」かしらん。

慌てて店に出て行き、笑顔で三人を改めて迎え入れた。

用意していた席へお通しし、お茶をお出ししたら、スッとその場は身を引いた。

軽やかに厨房に戻ったら、お団子を焼く番頭さんを尻目に、かげに隠れてしゃがみ込み聞き耳を立てる。

黒曜様が勢揃い、こんな機会はこうもない……!


「おお、らん、しばらくみないうちにまた美しくなったものだ。巫女の姿が板についておるの」

陽気な声はおおじい様。それに応える、らん様の透き通った声。

「おおじい様、ありがとうございます。宮の衣はまだ着慣れません」

「らんにはいずれは巫女様がたを率いてもらわねばならんからな、今のうちから着慣れてもらわねば困る」

重々しい喋りはご当主様。

「かかか、これは楽しみじゃわい。しかし宗厳よ、もはや黒曜の黒石もあてに出来んことは分かっておろう?この祭への寄付もバカにはできん」

「しかし、我らだけ寄付を渋る訳にもいきますまい。祭事に掛かる物資は墨屋(すみや)を噛ませておりますのでご安心を。あとは沓掛(くつかけ)翁のいう市況の活性がなされれば我らにも還元されましょう」

「そううまく運べばよいがの。あのジジイの言う求心力とやらも、な」

「は……じつは、そのことですが大お館様……この世の裂け目の異常はご存じですかな」

「おうおう、近頃(マガ)イモノが増えておると聞くのう」

「その裂け目の持つ気と巫女の持つ神器(じんぎ)の力を、なんとか引き出せないかと考えております」

「古の、巫女の力、か」

「はい……あの不死の九宮(くぐう)、アレがカギになるかと……」

「お父様ったら、また怖いお話ばかり。せっかくおおじい様が来てくれてるんだから、美味しいお団子を楽しんだらいいのに」


そうしたところで、お団子がきれいに焼き上がったので、その出来立てほかほかつやつやのお団子を運んでいく。

いつもはどん!と行くところ、今日はすすすっとおしとやかに。

硬いお顔のおおじい様も、団子を食べるとほろりと笑顔。

「かかか、これを食べにここまで来たというものじゃ」

らん様もにこにこな笑顔で答えます。

「お家の方でも話題でございましたか」

「この店も、宮の方に来てそう経ってないと聞くがな」

久方ぶりの家族のだんらん。まるやのお団子が会話の花を咲かせる。


「おおじい様、お祭までこちらにいられるのでしょう?」

「おうおう、もちろんそのつもりじゃ、それまで近くを見物に回ろうと思っておる。久方ぶりに宮まで出てきたからのう」

「らんの舞も最前で見てもらわねばならんな。練習に励んでおるのだろう?」

「もう、お父様……!もちろん、らんは黒曜に恥じない舞をお見せするつもりです!」

普段の、キリリとして他を寄せ付けない出で立ちのらん様とはまた違う、家族にしか見せないお姿。

新しいお茶を淹れながら、まちは密かにほっこりとしてしまう。


そうしてお茶を済ませると、おおじいさまはまたしても大きく立派な車に乗って、ふたたびどこかへ向かって出て行った。

ご当主様とらん様は、お店の前でお見送り。

そのお姿が見えなくなってから、お二人もようやくお屋敷へ帰って行った。


そこまでの始終を、笑顔でにこにこ見届けたまちは、ようやくひと段落。

深いため息と共に、そばの客席に座り込んでしまった。

その手には、あの快活な黒曜のおおじい様が、帰り際に「取っておくが良い」と、まるやに収めていった小さな盃がある。

輝く黒い石でできた、その盃。

表面には黒曜家の紋が彫られている。

これは、このまるやも、黒曜様のお墨付きをもらえたと言うことなのかな…?

夢の三階建てのお店にも、一歩近づいたかもしれない…!!丁重に飾っておかなくては。

お偉い様を迎え入れた気疲れも残っているが、その口元にはふつふつと笑みが溢れた。

さて、昼も近づき、いつものお客もぼちぼちと入ってくる。

まちは勢いをつけて立ち上がると、厨房に向かって軽やかに掛けて行った。


「まちちゃん、聞いたよ!黒曜のご隠居の盃をもらったんだってね!」

「こうさん!さすが、耳が早いですね!ふふふ、そうなのです、これでまるやも黒曜様御用達として名を馳せて行くんです!」

「いやー、アレはご隠居が自分のお気に入りの店に配ってるって噂の品だから、多分、そこまでのものでは……」

「あ、あれ……?黒曜様の後ろ盾が、ってわけじゃ、ないんですか……?」

「で、でもまあ、認められたってことだからね!おめでとう!」

「あ、ありがとう、ございます……」

〜二殿の報告書〜

見習い巫女や殿の位の巫女達と合同での舞の練習。

二宮はり様の指導が入る。

この度の祭事では、それぞれの宮の舞が奉納されることから、それ以下の者たちの個々の舞は省かれる。

その分、こうした合わせの稽古に時間を取られるが。

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