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【嵐と一閃】

青白い光球、「魔弾」を周囲に展開する。

せんせいが眼前で繰り広げた、あの戦いを思い出す。

地に足を付けた平面的な動きではない。前後上下左右を使った、全面的な戦い方。

あれが魔術師の頂の戦い。

少しでも近づけるように。

足元に集中。身体を軸に自身の周囲の魔力が回転するイメージ。

すうっと身体が浮かび、足が地面を離れる感覚。

せんせい達のような浮遊魔術はまだ使えない。

代わりに身に着けた、自分なりの身体の浮かべ方。

神器の力に頼っているから純粋な魔術師とは言えないかもしれないな。

そんなことを思いながら、せなは遠くで木剣を構えるりふぁを見つめた。

距離は十分。

りふぁの身体能力を相手に、間合いに入られると圧倒的に不利。

距離があるうちに体勢を崩して、一気に叩く。


一陣の風が吹く。

りふぁが姿勢を沈め、踏み込んでくる構えを見せた。

同時に、魔具を手にする手に力を込めて、振りかざす。

周囲に展開した魔弾を一斉に叩き込む。

初弾はすべて避けられる。息をつかせず絶え間なく弾幕を張る。

りふぁは正面から一直線に攻め込むことは諦め、左右に振りながら接近を試みている。

得意の魔力操作で、魔弾の軌道を変えながら次々とりふぁめがけて撃ち込み続ける。

魔弾1発の威力はそこまで高くはないことはもうバレている。

しかし、魔弾による攻撃でイメージするのは嵐。

雨粒の全てを捌くことはできず、徐々に滴り身体を重くする。

そして隙を生み出し決め技に持っていく。

りふぁは、その魔弾の1発1発を巧みに避け、弾き、まれに受け止めながら、華麗な足さばきで周囲を舞っている。

一息に接近できるタイミングを窺っているようだ。

魔弾の弾幕を維持したまま、意識を手元に集中し、新たな魔術を行使する。

光の剣。

剣状に集積された光の塊が3本、せなの周囲に浮かぶ。

木剣ごとりふぁを切り落としかねない危険な術だが、牽制をかけるにはこれしかない。

魔弾を絶え間なく撃ちながら、同時に剣の生成と操作を行う。

この多層的な攻撃こそが魔術師の戦い方なんだと学んだ。

目まぐるしく動き回るりふぁに、光の剣で隙を作り、魔弾をまとめて叩き込む。

合わせて距離を詰め、有効打となる一本を取る。

動きをイメージしながら、再び魔具を振りかざし、魔弾の雨に合わせて3本の剣をりふぁに向かわせる。

りふぁに直撃しないように剣を振る。態勢を崩せればよい、が。

りふぁは驚異的な身体力で魔弾を処理しながらも、光の剣を華麗にかわす。

魔弾の軌道をいじり、背後に回り込ませるも、木剣で叩き落される。

その木剣の振りがさらにりふぁの移動を助け、的確に光の剣から逃れながらも更に距離を詰められる。

あれが、「螺旋歩」……!

距離を詰められるに従い魔弾の展開サイクルも上がる。

意識が圧迫されるのを感じる。

光の剣を、更に2本、増やす……!!

「ええええええい!!」

思わず気合を口に出しながら、意識を集中させる。

新たに浮かぶ2本の剣をさらにりふぁに飛ばし、りふぁの進む先を阻む。

りふぁの姿勢が不自然に低くなった、と共に後方に飛びずさった。

いま!!

飛びずさる先の後方に向けて魔弾をまとめて一気に叩き込んだ。

りふぁの周囲に大きな土埃を上げる。

と、思ったときには、りふぁの姿が目の前に迫っていた。

誘われた……!!

りふぁの振りかぶった木剣が左の肩に叩き込まれた。

衝撃と共に地に叩き落とされ、起き上がる間もなく剣先を面前に突き付けられる。

見上げると、白い歯を出しニッコリと笑うりふぁの顔があった。

「今日はウチが一本先取、だね!」

りふぁの差し出した手を取り、助け起こされた。

「参りました……。魔術相手の処理も慣れてきてますね」

「へへへへ、せなといつも手合わせしてるからね!」

りふぁは頭をかきながら、照れくさそうに答えた。


神織(かみおり)の武官の訓練場、そこに面した縁側に腰かけ、息を整える。

そう広くはないこの敷地全体を自由に使わせてもらっていていいのだろうか。

このところは文官武官を問わず、祭事の準備に忙しいとは聞いているが。

改めてせなは誰もいない訓練場を見渡した。

りふぁとの手合わせは、はじめは九宮(くぐう)の屋敷の庭先で木剣で打ち合う程度のものだった。

魔術を見たいとせがむりふぁに応えるうちに、九宮様に追い出され、郊外の空き地を経て、いつの間にやらこんな場所に落ち着いた。

「そういえば……」

せなは片隅に立つ打ち込み稽古用の丸太を見つめながら、かねてからの疑問を口にした。

「神織の武官様たちは、あんまり連携した訓練はされてないのですね」

りふぁは不思議そうに答える。

「れんけい?何人かで一緒に、ってことかな?確かにあんまり見たことないかも」

「私のいた所の騎士団では、複数で対処するのが基本だったので……」


「へえー。やってみる?二人でなら、すい様から一本取れるかも!!」


最強の武官、雨月すい。

自分ですら聞いたことのある、その武勇。

その「最強」から、一本取る。

「せなのマジュツの嵐の中を、ウチがぴゅーって合間を駆け抜けてくの!すい様がせなのマジュツを捌いてる隙をついて、ウチが一本取る!どうかな??」

この身体力お化けな、りふぁとなら、確かにやれるかもしれない。

魔具を抱え持った両腕がわずかに震える。

「すい様、はともかくとして……連携、やってみましょうか」

せなは縁側から立ち上がり、隣に座っていたりふぁを振り返った。

「ただし、そう簡単ではありませんよ?」

りふぁは、満面の笑顔でそれに応えた。


ひとしきりの稽古を終え、屋敷へ帰るべく、りふぁと並び神織の宮の回廊を進む。

日暮れ近くでも慌ただしい宮中を、役人たちの邪魔にならぬよう、そっと隅を通った。

「おや、お二人とも、今日も稽古ですか。精が出ますね」

とある角で、めがねを掛けた巫女様に声を掛けられる。

「すずさ様!そうなんです!今日は二人で組んで戦う稽古をしたんですよ!」

りふぁは、すずさと呼ばれた巫女に駆け寄りながらにこやかにそう言った。

しかし、すずさの顔には笑顔は浮かんでいない。

「それは結構、ですが」

すずさは少し考えこみ口元に手を当てた後、その手を降ろしながらゆっくりと話す。

「あなた達が力をつけていることを良く思わない方々がいることも、知っておいた方がいいでしょう」

「えっ!?」

りふぁが驚きの声を上げる。

せなにもこれは心外だった。

純粋に武芸に励む自分たちを、良く思わない?

「ウチは、いつか何かの力になれればって思って……」

りふぁは少し寂しそうに言いよどむ。

「……まずそもそも、あなた達が求めている『力』とは何だと思っていますか?」

そんなりふぁに構いもせず、すずさは切り込んでくる。

「すい様も、コトワ様もお強いですから……それに負けないように、強くなりたいんです!」

りふぁは内に秘める決意を見せるかのように顔をキッと上げ、そう答えた。

「なるほど……」

すずさは、左手で眼鏡の縁を持ち、その位置を直した。

「しかし、そうした『力』だけが全てではありませんよ。特にこの神織では、ね。近頃、あなた達の『強さ』が話題になることが増えてきています。身の回りには気を付けた方がよい、とだけ忠告しておきますね」

りふぁから視線を外しながらそう言うと、宮の奥へと去っていった。


「せな……」

りふぁはこちらに向き直る。眉の下がるその表情はどこか不安そうだ。

「りふぁ、あまり気にしても仕方ないですよ。今日のところは帰りましょう」

励ましにもならないが、そう声をかける。

神織の赤い柱の脇に、赤々とした日が沈んでいく。

──「力」だけが全てではない。

その言葉がせなの心に深く、トゲのように刺さっていた。

~二殿の報告書~

五家の命により、祭事に合わせて販売する祝い札の製作を進めることとなった。

ただでさえ逼迫する執務の状況に追い打ちをかける始末。

付きの見習い達を札の製作に充てる。


近頃話題であるせな・りふぁの二人に会う。

説教めいたことを言ってしまった。

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