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幕間二【魂の人形と空っぽの人形師】

これは、神織(かみおり)の宮で起こる大きな波乱の、少し前に起きた、とある人形師の物語――


神織の宮のほど近くの職人街。

五匠(ごしょう)に数えられる曲家(まがつけ)において、今奇跡が結ばれようとしている。

曲家当主──(まがつ)いさりは、工房に一人籠り、丹念に珠を磨いている。

「まだ、まだ、輝きが、足りない…」

傍らには、組みかけの人形の部品たち。様々な石や糸などが精密に配置されている内部が、むき出しの状態だ。

屋敷は、しんと静まり返っている。


親族も、手伝いも、とうに出て行ってしまっている。

小さい頃は「伝説の九代目を超えるかもしれない」なんてもてはやしていたくせに、勝手なものだ。


珠を磨く。

「いさりちゃんは、人形作りが上手ねえ!この分じゃ、うちも安泰だあ」

「いやぁ、ことによるとあの九代目を越えるかもしれねえぞ!!」

「へへへへ」


思い出す。

「なぁ、いさりよお、そいつにこだわるのもいいがぁ、芝居小屋の頼まれもん、あれを先にやっちゃあどうかね」

「そんな珠、外から見えるもんでもないのに、いつまで磨いてんのさ」


珠を磨く。

「いさりよ、曲家はもう、おまえのもんじゃ。わしらはじいさんたちの田舎にいくからよ」

「じゃあね、くれぐれも、たのんだよ」


珠を磨く。

私は、私の思うニンギョウを、カタチにしたいだけだ。

これまでの八体も上手くできたと思う。

しかし、私の思いの極みにはたどり着けていない。

そのたびに一から材料を吟味し、構造を練り、仕掛けを仕込み、カタチにしている。

この子も、この石をはめたら、あとは組み上げるだけ。

「…よし」

手の中の珠は、狂いなく円を描き、底知れぬ輝きを放っている。

むき出しの人形の、くぼみにその石を、そっ、とはめる。アるべき場所にオサまる。

ばらばらの部品を、一つずつ組み上げていく。

アるべきモノがアるべき箇所に。

「ようこそ…■■■……」

囁いた、そう思った。同時に世界は暗闇に包まれていた。


朝。

氷屋はいつもの通り曲家を訪ねる。

「あんだぁ、昨日の氷、すっかり溶けちまってるじゃねえか」

工房の陰、いつもの氷の置き場のわらが水浸しであった。

「おおい!曲の嬢ちゃん!今日の氷ももってきたぞぉ!って……」

氷屋は、作業台の前に倒れるいさりを見つけ、慌てて駆け寄る。

「おおい!嬢ちゃん!しっかりしろ!嬢ちゃん!!」

息はあるようだが、ゆすってもたたいても目を覚まさない。

「えええらいこっちゃ、お医者様ぁ!」

わらに包まれた氷だけが、朝日に取り残されていた。


「あのあと医者が来るけどお手上げでさあ、神織のお役人さんも呼び出して、どうしたもんじゃとお話したら、五匠の当主じゃほっとけねぇって神織の宮まで運んでいかれちまった。

聞いた話にゃあ、あまりに目ぇ覚まさねえからって館の人形みんな持ってきちまった、ってなことらしいぜぇ」

「人形師の曲家たあ聞こえはいいが、あんまり人形人形やってるから魂も人形に食われちまったのかねえ、くわばらくわばら」


いさりの身体は、神織の暗い蔵の中にしずかに横たわっていた。

そのわきにそっと置かれた、いさりが魂を込め作った人形■■■。

その目は生気のない輝きをたたえている。

~二殿の報告書~

曲家当主の昏睡事件。

神織にて保護、とのことだが対処の術がないようだ。

現在は宮の蔵にて、その人形と共に安置されている。

曲家屋敷ごと神織管理となっているよう。

屋敷内の多数の人形を回収との噂。

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