【一宮の午後と、ひみつのお団子】
今日も元気なまるやのむすめ
あたまの上にはおだんごふたつ
ぴかぴかひかる串さした
かんばんむすめのまちちゃんさ
むかしむかし、でも、ひょっとしたら。
お日様がぽかぽかして、なんだか、ねむたくなっちゃう、そんな午後のおはなし。
神織の宮、一宮のくれんは、自分にあたえられた、それはそれは立派な部屋で、今日も、だらりと、ねそべっていました。
机のうえでは、これから読まなければいけない、むずかしいお手紙の山が、「はやく読め」と、くれんをにらみつけています。
くれんも、ぷうっと、ほっぺたをふくらませて、にらみかえします。
窓のそとでは、ちいさな鳥が、ぴいちくぱあちく、楽しそうに歌っていました。
(…いいなあ、自由で…)
そのときです。くれんのおなかが、ぐぅ、とかわいい音をたてました。
(…おなか、すいたなあ…)
くれんの頭のなかは、甘味処「まるや」の、あまくて、もちもちした、あのお団子のことで、いっぱいです。
(…よし。これは、からだの、たっての願いだもの。しかたない)
くれんは、むくり、と起き上がると、誰にも見つからないように、そろり、そろり、と部屋をぬけだしました。
神様への大切なおつとめも、一宮としてのむずかしいお勉強も、あまいお団子のさそいには、かなわないようです。
「まるや」の、のれんをくぐると、いつもの、あまいかおりが、くれんをむかえてくれました。
「いらっしゃいま…って、あら、くれん様!」
看板娘のまちが、にこにこ顔で、手をふります。
くれんは、いつものように、お店のいちばん、すみっこの席に、すわろうとしました。
しかし、その日は、先客がいました。
そして、その先客と、ばっちり、目が合ってしまったのです。
「……あ」
「……くれん」
そこにいたのは、もうひとりの一宮、あさめでした。
その手には、食べかけのお団子の串が、一本、にぎられています。
お店のにぎやかな声だけが、やけに大きく聞こえました。
あさめは、はっ、とした顔で、まるで見てはいけないものを見られたかのように、さっと、その串を着物の袖にかくしました。
「…あさめも、きてたんだ」
「…え、ええ。その、少し、休みに、と…」
あさめの声は、蚊の鳴くようです。いつもは凛とした彼女が、こんなにあわてている姿は、とてもめずらしい。
くれんは、そんなあさめの様子を、じーっ、と見つめました。そして、わざとゆっくりと、その隣の席に、どかり、とすわると、あさめが串をかくした袖を、また、じーっと、見つめました。
「まち、お団子、ひとつ」
「はーい、ただいま!」
まちは、なにも気づかない様子で、元気いっぱい、お団子をはこんできます。
ふたりの一宮は、なにも言わず、となり同士で、もぐもぐ、とお団子を食べはじめました。
ぽかぽかと、あたたかい日差し。なんだか、とっても、へいわな時間です。
先に、口をひらいたのは、あさめでした。
「…その、くれん。おつとめは、よろしかったのですか?」
まるで、悪いことをした子供にするみたいに、おそるおそる、たずねます。
くれんは、お団子を、ごくり、とのみこんでから、こたえました。
「…あさめこそ」
「わ、わたしは、ちゃんと、終わらせてきました!」
あさめは、むきになって、そう言いました。
それを見て、くれんが、ふふ、と、すこしだけ、わらいました。
その笑顔は、お宮で見せるどの顔ともちがって、まるで、猫がひだまりを見つけたときのような、やわらかな笑顔でした。
「…このこと、みんなには、ないしょ」
くれんが、ぽつり、と言います。
あさめは、一瞬、きょとん、としたあと、こくり、と、うなずきました。
「…ええ。ひみつ、ですね」
そして、あさめも、いつもは完璧な微笑みをつくる彼女が、そのときだけは、思わずといったふうに、くすり、と口元をほころばせました。
お宮では、いつも、完璧な「一宮」でいなければいけない、ふたり。
でも、ここ、「まるや」では、ただの、あまいものが好きな、ふたりの女の子。
ふたりの間に、ちいさな、ちいさな、「ひみつ」が、うまれた瞬間でした。
くれんは、最後の一口になったお団子を名残惜しそうに見つめます。
お宮のなかは、あの、風変わりな巫女コトワに会ってから、すこしだけ、ざわざわしてる。
くれんは、そんなことを考えながら、さいごのお団子を、大事そうに、口にいれたのでした。
とっぴんぱらりの、ぷう。
ふたりの一宮の、ちいさな、ひみつのおはなし。
おしまい。
~二殿の報告書~
本日、あさめ様不在のため報告できず。
門前町にて目撃情報あり。
視察予定は事前の共有を求める。




