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幕間十【這い出ずる、混沌】

締め切られた部屋。天窓の隙間から差す明かりだけがその暗闇をぼんやりと浮かび上がらせる。

その暗闇に置かれた、精巧な人形。

その内には、「きい」と呼ばれたその存在が、静かに、しかし確かに、そこに在った。

動かせない目で見つめる。

このスペースにあるモノは、すべてハアクした。

たまに入口が開けられるが、すぐにまた暗闇にモドされる。

つまらない。

しかし、一つだけ、オモシロいモノがある。

後方の台。

その上に横たわる、ヒト。

これは、オモシロい。

他の雑多なモノにはない、ツナガりを感じる。

ツナガりを、伝う。

ツナガる。

試してみる。

寝台に横たえられた人──人形師、(まがつ)いさりの右の人差し指が、ぴくり、と動いた。

ウゴく。

続いて、腕が、ゆっくりと上げられる。

オモシロい。

動けないカラダにウツされて、つまらないばかりかと思えば、こんなオモシロいモノがあるとは。

右腕、左腕、足、頭。

順にウゴかしてみる。

カカカカカカ。

すぐに暗闇にモドされる、あの入り口も、このニンギョウがあれば開けられるかもしれない。

首がぐにゃりと垂れたまま、上半身が起きる。

バランスを崩し倒れこんだ。

オモシロい。

腕を支えとして、再び起き上がる。

指の一つ一つ、手足の一つ一つを、確かめるようにあちこちに動かしながら、身体を起こす。

寝台から落ちた。

シッパイした。

両腕を地に付き、身体を持ち上げる。

そんなに、チカラは、ナい、な。

脚をうまく動かし、体を起こす。

立ち上がる。

また、転んだ。

カカカカカカ。

アタマがオモい、ナ。

首を動かす。

もう一度、立ち上がる。

いびつながらも、両足で立ち上がる人影。

一歩ずつ、歩いてみる。

何歩か進み、少しコツが分かってきた。

静かな蔵の中に、鳥のように頭を前後して歩く人影。

ウデ、か。

上手く振ると、バランスがトれる。

少しずつ、確実に不自然さが取れていく。

ウゴく、イキオいをツカう。

腰を、ヒネる。

カカカカカカ。

手の指を一本ずつ、閉じては、また開く。

一歩ずつ、確実に歩かせながら、自分である人形の前に立たせる。

動かせぬ人形の目を通して、その姿を見る。

ムスメ、か。

しゃがむ。

腕を伸ばす。

掴む。

引き寄せる。

立ち上がる。

手を、慎重にウゴかし、人形の向きを変える。

これで、ウゴける。

人形を抱えたまま、部屋の中を歩き回る。

これまで見えなかった角度で部屋の中が見えるようになった。

しかし、この部屋の中のものはもうすでにハアクしている。

自然、その部屋の入口へと目が向いた。

ヒトに見つかると、またウゴけなくなるかもシれない。

ヒトに見つかっては、いけない。

ゆっくりと、入口に近づく。

人形を左手に抱えたまま、右腕を動かし、戸に手をかける。

ギギ、ギギギギ

戸は、音を立てながら、ゆっくりと、外に向かって開いた。

月夜の光が、部屋の中に差し込む。

ヒトは、いない。

戸に身体をもたれ、支えながら、静かに隙間から外に出る。

もたれた身体を離し、再び、両足で立つ。

右足を出す。

左足を出す。

歩く。

歩く。

歩く。


~二殿の報告書~

蔵に保管された「きい」を封じた人形の紛失。

同様に蔵に保管されていた人形師曲いさりの肉体も行方不明。

蔵の入口が内側から開けられていたとのこと。

曲いさりが昏睡から回復した、との見方もあるが、詳細不明。

近隣での身柄の捜索が命じられる。

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