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神は巫女の頭に宿る  作者: 榊 雅樂
第四章 ?
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八十七話 あくまで冷静に

「へえ」


 日向の言葉を聞いた火夜は、薄ら笑いを浮かべて、身を仰け反って風を避けた。


「よくわかったね」


 日向はずっと疑問だった。なぜ、風宮に生まれる男児は、霊力量が少なく、女児の手助けがないと戦えないほどなのか。自分だけというのなら、まだたまたまそう生まれただけだと片付けることが出来るかもしれない。


 しかし、これは日向だけの問題ではない。父や祖父だけでなく、それよりも前の先祖たちもみな、同じような生まれ方をしている。霊力量は遺伝する訳ではない。



 これではまるで、“呪い”ではないか。



「実際にそうだったんでしょう。あなたの過去を聞いて、どこか腑に落ちた」


 火夜の攻撃を避けながら、日向は質問を続けた。


「あなたが本当に呪いをかけたかはわかりませんが、それに近しいものにはなっている」


「ふふ……あははは」


 すると、火夜は攻撃をやめ、吹き出し笑いだした。笑って涙腺から溢れてきた涙を指で拭い、おかしいとでも言いたげに周りに視線を移す。


「そうか、そうなってるのか」


 天を仰ぎながら呟く彼に対し、望緒たちは怪訝そうな表情を浮かべる。


「たしかに、僕は四家に……特に、石火矢と風宮に強い恨みを持っている。それが積もりに積もって、呪いと化したんだろうね。もしかすると、キミのその()()も、その影響を受けていたりして」


 そう言いながら、火夜は左目を狐の面で隠した飛希の方を見た。

 それに彼はピクッと反応する。もしそうなら、なんて理不尽なことだろうか。先人たちの誤ちによって、後世まで苦しむことになるなんて。


 だが、それが嘘でも真でも、飛希の瞳が今治るわけではない。彼はザワつく胸を抑え、冷静に深く息を吐いた。


 遠目で見ていた望緒も、それに安堵する。


「さて、話は終わりでいいかな? 僕は早いとこ、四家の殲滅をしたいんだ」


 何気ない笑み。しかし、瞳の奥には黒く淀んだものがうずめいている。


 火夜は手のひらから炎を出し、やがてそれは大きな太刀となった。彼はそれを振り回し、飛希らに攻撃すると共に、近づけさせないようにする。

 それを阻むため、爽玖と千夏は、虚空から滝のように流れる水を流すが、それに気づいた火夜は風を繰り出し相殺した。


「……!」


 その瞬間、朝陽はたしかに見ていた。


 すぐさま距離を詰め、薙刀を横に振る。火夜は避けようとしたが、光の速さには敵わず、右腕に大きな切り傷がついた。顔を顰めたあと、朝陽のことを蹴飛ばし、慌てて距離を取る。

 彼女は身体を回転させ、体制を持ち直した。立ち上がれはするが、痛みが無いわけではない。薙刀を地面に突き立て、腹を抑えながら立ち上がった。


 火夜の傷口からは、血は流れない。それが、彼が本当に“念”だということを明確に示している。


「ねえ、あたし気づいちゃった……」


 荒い息のまま、彼女は口角を上げ、煽るような視線を火夜に向けた。


「君、火と風を使う時、どっちか片方は必ず使えなくなる瞬間があるよね。少し使えなくなるとかじゃない、完全に使えなくなる瞬間が」


「……」


 何も答えないが、目を見れば一発でわかる。彼は、動揺している。


「時間的には少しだね。でも、大きな欠点なんじゃないの?」


「……はあ。それがわかったからなに? 勝てる算段でもついたわけ?」


 火夜はイラついた表情で言う。それが単純に疑問だったからか、少しでも話題から遠ざけたかったからなのかはわからない。

 しかし、否定をしないということは、そういうことだろう。


 朝陽は薙刀を強く握り、火夜との距離を詰める。薙刀を縦に振るい落とすが、再び創られた炎の太刀で防がれる。力の差は、朝陽の方が若干上だ。

 彼は押し切られ、腹にかすり傷が入った。痛みが身体に走り、顔を歪める。


 更に追い討ちをかけるように、飛希は火の玉で火夜を覆った。手をグッと握ると、浮いていた火の玉は、火夜に向かって解き放たれた。


 周囲に煙がたつ。


 人影がゆらりと動き、一秒と経たないうちに、飛希の眼前まで来る。炎の太刀で攻撃を仕掛けるが、横から風が迫っていることに気がついた。

 それを風で相殺すべく、同じく風を繰り出すのだが、その際に、炎の太刀が不安定に揺らめく。飛希はその一瞬を見逃さなかった。


「『彼岸』」


 彼が唱えると、火夜の周りに炎が現れる。しかし、火夜にとってそれは自分も使えるもの。そこまでの脅威にはなり得ない。


 だから、飛希は爽玖に視線で合図を送る。何かを察知した彼は、空洞をつくる形で両手を握った。すると、虚空から水が現れ、次第に檻の形を作り出す。


「あークソッ!」


 閉じ込められ、苛立ったように言い放つが、すぐに風で水の檻を壊した。辺りに水が飛び散り、子どもらの視界の妨げとなる。それは、火夜にも言えたこと。


 水が目に入らないように目を細めた隙に、朝陽が彼の眼前へと迫る。


「!」


 朝陽は力いっぱい薙刀を振り、攻撃をするが、風によって軌道をずらされた。火夜は間髪入れず、炎を纏わせた拳を彼女へ振り下ろす。

 殴られるかに思われたが、千夏がすぐさま反応し、水の矢を火夜の拳目掛けて放った。


 横目でそれを確認した彼は、振り下ろしていた拳を引っ込め、朝陽から距離を取る。日向が横から迫り、火夜の横腹に手を当て、そこから風を繰り出す。

 その衝撃で火夜は数メートル吹っ飛んだ。地面から土埃を立てながら体制を立て直す。そこから火を出し、彼らに襲いかかろうとする。が、


「は……?」


 身体が動かない。まるで、何か冷たいものに掴まれているような––––


「なんだよ、これ」


 自分の腕に、水でできた縄のようなものが絡みついている。何度か腕うごかすが、ピクリともしない。


 ただヒヤリとした感覚が伝わってくるだけ。


「どこから……!」


 水の縄の出処を確かめるべく、後ろを振り向く。それは地面だった。染み込んだ雨から創ったのだろうか? だが、それにしては範囲が狭い。それぞれが一点に集中しているからか、強度が高い。


 ––––絞った水か!


 滝のような水で半身が濡れた際、衣の水を絞って水を出した。爽玖たちはこれを利用したのだろう。


「飛希!」


 爽玖が叫ぶ。火夜がそちらに視線を向けると、飛希がこちらに向かっているのが視界に入った。気づいた時には為す術がない。彼はそのまま、炎の刀で心臓部を刺された。


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