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神は巫女の頭に宿る  作者: 榊 雅樂
第四章 ?
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八十五話 質問

「でも、どうして来てくれたの?」


 望緒は控えめな声でそう聞く。八下は少し黙った末、ゆっくりと瞼を開けて口を開いた。


「ずっと、あの結界の中で迷ってたんだ。このままお前らが帰って来れるか来れないかの瀬戸際の中で、ずっと待っているか」


 八下は、火夜に会うのをずっと拒んでいた。自分を酷く憎んでいる相手、自分に殺意を向け、殺そうとしてきた相手に会いたいなんて言う者は、そうそういないだろう。


「そもそも、俺が結界の外に出られるかも、わからなかったからな」


「では、どうして……?」


 藤花の問いかけに、八下は困ったように優しく微笑んで、


「また、人間だけに苦労させるのは、流石に駄目だって思ったんだ」


 八下の発言に、二人は何も言わない。


「そう思ったあとの行動は早かった。彼らの静止も聞かず、結界の外に出られるか、手で触れて確かめた。そしたら思った通りだったよ。出られたんだ」


 笑って言っているが、どれだけ勇気のいることだっただろうか。彼の行為は、もう一度殺されに行くようなものだった。

 火夜が八下を結界で拒まなかったのは、彼が復活したとわかったからだ。自分の手で、今度は完全に八下という存在を抹消するために、拒むことをしなかった。


 先程、八下は『人間だけに苦労させるのは』と言っていた。


 しかし、望緒は知っている。彼が前にそうさせてしまったのは、何も知らなかったからだということを。


「でも、八下は前の時は何も知らされてなかったからで……!」


「それでも、もっと知ろうとすることぐらいは、出来たんじゃないかって思うんだ」


「……」


 規則を決めたのだ。何かしら行動や言動等に変化はあったのかもしれない。それに気づかなかった、言い方を変えれば、気づこうともしていなかったのではないか。八下はそんなことを考えて、今ここに来たのだ。


 あの日と同じ過ちを、繰り返さないために。



 火夜は、放たれた水の矢を宙返りで避ける。そして、自身は風の刃で迎撃した。

 先程とは違い、全員が戦えている。一方的にやられるだけという時間は、どうやら終わったらしい。


 ––––身体が軽い。


 爽玖は戦いながら、自身の身体の変化に気がつく。火夜に一方的にじゅうりんされていた時は、ここまでの軽さは無く、むしろどこか重かった。

 しかし、八下に回復してもらってからというものの、動きやすさが格段に上がっている。


八下アイツの治癒のせいで、身体能力が強化されてるのか……」


 火夜は戦いながら、小さく呟いた。


 身体を捻らせ、その反動のまま炎を辺りに振りまく。が、風で相殺し水で消す。それの繰り返し。


 そんな攻防の中、ふと別のことを考える者が一人。日向だ。

 火夜が巻き起こした風を、自らの風で相殺し、火夜と一気に距離を詰める。そして、彼の眼前まで来たところで、風を繰り出すが、止められる。


 そんなこと、想定内だ。


 飛び退いた火夜の後ろに、朝陽が迫っていた。彼女は薙刀を斜めに大きく振り、火夜の背中を攻撃する。彼はまるでわかっていたかのように、身を翻して避けるが、薙刀から発せられた雷により、背中が多少焼ける。


「……ッ」


 熱さと痛みが背中を襲う。彼は顔を顰めるが、すぐに平静に戻り、綺麗に地面へ着地した。


「いくつか、あなたに聞きたいことがあります」


 息を整えながら、日向が冷静に訊く。


「––––なに?」


「まず一つ。望緒さんが風宮の図書の間で、あなたについて書かれたという文献を見つけたと聞きました。ですが、それを改めて探したところ無かったんです。あれは、あなたの仕業ですか?」


 あの赤い表紙の和綴じの本。確かに望緒は、彼女の目で見たはずなのだが、風宮にはもう無かった。


 彼女の見間違いなのでは? と言ってしまえば、それで終わりな話だが、日向にはその考えは無いようであった。恐らく、ここにいる皆全員。


「そうだよ。よくわかったね」


「なぜそんなことを?」


「さあ……なんでだろうね」


 その返答に、日向は眉をひそめる。火夜は目を伏せ、彼と目を合わせないようにしているように見えた。


「そもそも、お前があれを置いて、そこからさらに持ってったんか?」


「……」


 それに対し、火夜は何も答えなかった。


「一体どうやって……」


 飛希が呟くと、火夜は短く息を吐いて、ゆっくりと瞼をひらけた。


「“念”には集約するという習性がある。より自分たちを誇示するためにね。それが、僕がここに残した怨み(想い)に集まって、それで僕っていう“念”が生まれた」


 それを聞いた子どもらは、怪訝な表情を浮かべる。何が言いたいのかが、まるで掴めない。


「まあ、つまり、僕が置いた。あの本は、僕の事が書かれてるからね。昔の風宮がその存在を隠すために、書庫の奥底に隠されてた。それを引っ張り出して置いたんだ。そして、そこの女がそれを読んだ。あとはお役御免だからね、燃やして捨てたさ」


 彼は手のひらから炎を一瞬出し、自分が燃やしたのだということを示した。

 しかし、以前として謎は残っている。なぜ、そんなことをしたのかという事だ。もし、四家の崩壊を目論んでいたのなら、それは明らかな失敗だ。


 むしろ今の状況は真逆で、子どもらだけとはいえ、四家は結託の状態であり、尚且つ八下が復活している。

 もしそうなのだとしたら、いい結果とは到底言い難い。


「なんでわざわざそんな面倒なことを?」


 朝陽が問いかけるが、火夜は何も言おうとはしなかった。彼女を一瞥したあと、すぐに日向に向き直り、ヘラヘラと笑って、「それで」と話し出す。


「次の質問は何?」

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