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神は巫女の頭に宿る  作者: 榊 雅樂
第四章 ?
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八十四話 思わぬ来客

「どうしよう……」


 目の前で、皆が倒れているというのに、望緒は助けに行くことすら叶わずにいる。隣にいる藤花にだって、どうすることも出来ない。


「ねえ」


 狼狽えていると、結界の中にいる火夜が、望緒に話しかけてきた。

 彼は飛希の髪を鷲掴みにして、


「キミがこの結界を解いてくれたら、こいつら殺さないでおいてやるんだけど」


 首をコテンと傾けて、不気味な笑みを浮かれて言った。はっきり言って、望緒は揺らいでいる。皆を殺されたくもない。しかし、結界を解いてしまえば、火夜は真っ先に真澄たちの元へ行くだろう。


 殺される対象が変わるだけで、何も解決しちゃいない。きっと、そうなったところで、飛希たちは望緒のことを、悪者にする訳ではないだろう。


 それがなんだと言うのだろうか。


「絶対嫌……!」


「ああそう。じゃあ」


 火夜は笑みを消し、冷めた目で返事をする。鷲掴みにしていた手を離し、左拳を握って、高く掲げる。いざ殴りかかろうとしたその時––––


「……」


 火夜の拳が振るわれることはなかった。まるで、誰かに止められているような、そんな風に、彼の腕は動かずにいる。

 彼はその原因がまるでわかっているかのように、望緒を……いや、望緒の後ろを睨んだ。


「やっぱりお前か、八下」


 彼女の後ろにいたのは、この空間の創造神たる神。そして、火夜が今この世で最も憎んでいる者である八下。


 彼は冷や汗をかいたまま、左手を前に掲げている。望緒はいつの間にか背後に立たれていた事実に、衝撃を隠せないでいた。


「いやあ、このまま来ないかと思った。情けないまま死んでいけば良かったのに」


「なにそれ……!」


「なんでお前が怒んのさ。……ところで、なんでお前は生きてんの? あの時、僕はちゃぁんとお前の首を切ったはずだ」


「首を斬られる直前、誰にも悟られないほど微弱な霊力で、首と胴体を繋いだんだ」


 八下の説明を聞くと、火夜は振り上げていた拳をストンと下ろす。

 振り上げていた方の腕とは反対の手で、後頭部をガシガシとかき、小さな声で、


「死ぬ気はなかったってことね。愚かしい」


 言い終わると、望緒たちの方に向き直り、また笑みを浮かべる。


「でも、お前が今来たところで、今から起こることの結末は変わらないよ。だって、こいつらはもう戦力にはならない。あとは、さっさとそこの女どもを殺して、お前もちゃんと殺す。四家を殺すのはその後かな」


「そんなこと、させるわけないじゃんか……!」


 望緒が言うと、火夜はぷっと吹き出した。


「させるわけないって、じゃあこの状況をどう打開するってのさ」


 言われ、彼女は歯を噛み締める。打開策など、何も思い浮かばない。そもそも、“念”と戦うという経験が少なすぎるのだ。

 加えて、相手はなかなかの手練ときた。結界術すら最近やっとできた望緒だけで、どうにかできる相手ではない。


「なあ」


 望緒がどうしようか悩んでいると、八下がふいに声をかけてきた。


「あいつらに、まだ戦う意思は残ってるか?」


「え……」


 言葉に詰まる。彼女には、わからなかった。もしも自分だったら、こんなにも敵わない相手に対する闘志は、もう無くなってしまいそうだ。


 だが、彼らはどうなのだろうか。


「あります」


 望緒が答えを見出だせないでいると、ふと、隣にいる藤花が芯のある声で言った。その目は真っ直ぐ、八下を見据えている。


「ここで諦める人たちじゃない。これだけで戦えなくなるほど、彼らは弱くはないです」


「それは確かだな?」


「はい」


 決して大きな声ではない。しかし、どこか力強さのある声だ。確信していなければ、出せる声音ではないだろう。


 八下は「わかった」と返事をして、ゆっくりと目を閉じ、手を前に掲げる。彼が小さく何かを唱えると、地面がパアッと水色の光を放った。


 闇戸以外は何が起こっているのか、理解できないでいた。ふわりと優しい風が彼らを包むと、先程まであった傷が、次第に塞がっていく。綺麗さっぱりとまではいかない。が、浅い傷は何一つ残らず、深い傷でさえ、重い後遺症を残さず消えていった。


「え、なに? 何が起こったの?」


 望緒は信じられない光景に、目を何度も瞬きさせる。

 八下が人間の傷を治したのは、これが初めてでは無い。雷久保での時も、彼女は隣で八下が傷を治癒している姿を見ていた。


 しかし、今回はその範囲が圧倒的に広い。あの時は、人数を一度に治すことはしていなかった。


「ねえ、八下––––」


 望緒が問いかけようとすると、その言葉は止まる。彼が、汗を滝のようにかき、乱れている息を整えていたから。


「大丈夫!?」


「ごめんごめん。これやると、霊力結構使うから、疲れるんだ。一度にできる人数は限られてるから、あんまり多いと使えないしな」


 そう言って八下は、もう一度深呼吸をした。

 中で倒れていた飛希たちは、何が起きたんだと言わんばかりの顔をしながら、立ち上がる。


「あー……」


 火夜は何かを思い出したかのような声を出し、両手で顔を覆った。


「忘れてた……。そういえば、お前の能力はそんなんだったな……」


 そして、覆っていた手を下ろし、この場にいる

者全員に睨みをきかせ、


「で? まだ戦うってわけ?」


「戦うよ」


 短い、しかし強い一言で、飛希はそう言った。

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