スパイ令嬢 ~妹に婚約者を奪われた伯爵令嬢、実は敵国のスパイだったことに誰も気づかない~の感想
【あらすじ】
ある日突然、妹に全てを奪われてしまった。
地位も、家も、婚約者も、これまでも功績さえも失った。
宮廷と屋敷すら追い出された私は途方にくれる……。
なんて、計画通りはこっちも同じ。
ずっと待っていた。私を見限り、全てを奪い追い出される日を。お父様が王子や妹を使い、私を利用していることも理解していた。だから私は、私のことを信じてくれる友人の国に味方する。
ここから始めましょう。
奪ってきた者たちが、奪われる側になってしまう爽快な物語を。
【感想】
物語冒頭で主人公は王子から婚約破棄……ではなく、婚約者候補から除名されます。
まるで大事のような描写をしていますが、除名されたら死ぬのでしょうか?
主人公は父親から邪険に扱われているそうですが、その理由は妻がスパイだったと判明したからとのこと。
妻は元平民の踊り子であり、一目ぼれした父が求婚したそうですが、正体を知って激怒し妻を追放。その娘である主人公も目の敵にして強く当たっているそうです。
しかし問題は王子視点。
王子から見たら、伯爵がスパイを母に持つ娘を婚約者候補として勧めてきた状況です。常識的に考えて結婚などもってのほかでしょう。
やってることは当然の範疇ですが、それだと追放側にヘイトが向かないため、「ニヤニヤ」させます。
今までの追放物でも見られますが、追放側は大体「ニヤニヤする」「追放してご満悦の中ワインを薫らせる」というワンパターンな行動しかしません。
なろうで義務教育を終えた証拠ですね。
主人公は父から捨てられまいと魔術の勉強に励み、史上最年少で宮廷魔法使いに就任するという偉業を達成します。
スパイの娘という先入観を捨て、国益のために国は主人公を信じたのだと思われますね。
そんな信用を踏みにじって、まさか主人公がスパイになるなどとは夢にも思えませんね。
王子は主人公に対し婚約者を紹介しますが、その正体は主人公の妹です。
「そいつもスパイの娘じゃないの?」と思われるでしょうが、妹は貴族である正妻の娘です。
ここまでの展開は多少突っ込みどころはあるものの、まだ理解はできる内容です。
しかし、このままでは主人公が逆転する展開を書けないと悟った作者は、追放物特有のとんでも展開を描きます。
「天才魔法使いの主人公が国で働いていた」という設定を生かすため、主人公は宮廷魔法使いの地位を妹に移譲されクビになりました。ついでに父親からも勘当され、国外追放になりました。
作中でも「スパイの娘」と散々蔑んだという描写があるのに、情報を持ち帰ってくださいと言わんばかりの扱いをし始めました。
「ああ、ここで作者に洗脳されたんだな」とまるわかりな豹変ぶりです。
まだ主人公は国から出て行っていませんが、どうせ「主人公が居なくなったせいで政治が回らなくなった」とか始まるのが目に見えてます。
追放され行く当てもなくさまよう主人公。しかし、実はとっくに主人公は他国のスパイとして活動しており、追放されたのを機に戻る予定だったことが明かされます。
追放されるのは予想通りだったそうですが、普通は良くて幽閉、最悪処刑されている状況でしょう。この時点で馬鹿による頭脳戦の幕が切って落とされました。
追放された主人公の仕事は妹に引き継がれましたが、ここで主人公の罠が炸裂しました。
実は主人公は通常の5倍程の仕事をこなしており、それを引き継がせることで妹の自由を奪うことを計算していたそうです。
普通なら部下に割り振って終わりですが、一度作者の洗脳にかかったキャラは、二度と人並みの思考をすることなどできないため、予想通り苦しみます。
一方主人公が逃げ込んだ国ですが、かつて資源大国として名をはせていましたが、周辺国に同時に攻撃され、国土も人口も10分の1まで衰退したそうです。
労働力や資源といった、大国が大国足り得るアドバンテージを失った主人公は、一体どのように逆転するのでしょうか。
この世界は電気の代わりに魔力でインフラを稼働させており、発電所ならぬ発魔所は魔晶石という鉱石で稼働します。
主人公は国境に中継地点を挟むことで、追放された国から魔力をいくらか奪うように細工し、それにより魔晶石なしでインフラを維持しました。
電気だと電線をつなげる必要がありますが、これは魔法なので、主人公に都合のいい原理を作ることで簡単に問題が解決します。
追放国は魔力の生産効率が悪いことに気づくだけの知能は残されますが、原因に気づけません。
主人公が残したマニュアルに沿って不具合を直そうとするも、それは主人公が残した罠であり、それに従った結果、生成した魔力をまとめて亡命先の国へ送る仕掛けが発動しました。
魔力だから物理法則に従わせる必要はないということでしょう。
素人意見ですが、電気でそんなことをやったら電圧によって電線が焼き切れるか、蓄電池が爆発するんじゃないですかね。
このように世界の法則が主人公だけに味方するのは、ただのクッソ雑なご都合主義であり、物語をつまらなくする要素ですが、なろう小説ではよくある事です。
ちなみに、これからも定期的に魔力を奪うことを考えているため、発魔所を破壊することは考えてないそうです。
一から作り直されたら破綻する計画ですが、今後発魔所は出てきませんし、そもそも魔力を奪われた事実を最後まで察知されません。
続いて魔晶石の獲得のために暗躍する主人公。
と言っても、追放国にいた時にちょろまかしていた魔晶石を魔法陣で転送するだけです。
スパイの娘と揶揄されていたにもかかわらず、特に誰も気にしていなかったからつまみ食い出来たそうです。
ちなみに、仕事をしくじった妹は四六時中監視の目がつくようになったそうです。
より監視が必要であろう主人公には監視がつかなかったのか、そもそも何を目的に監視しているのか、作者は説明してくれません。
仕事に忙殺された妹は王子に助けを求めます。王子も辛そうな妹に対し、宮廷魔法使いを増員して負担を減らそうとします。
これだけだと追放側が只のいいやつで終わってしまうため、
>ルガルド王子の内心は、色欲と独占欲に満ちている。
と一文を追加することによって「こいつはクズ野郎だあああああああああああああああああああ」とアピールします。
そんな急ごしらえのレッテルに騙されるのはバカだけなんですけどね。
で、今後の展開なんですが、大きく分けて以下の3点にまとめられます。
・ドラゴン(主人公以外誰も対処できない)をテイムし、周辺国を威圧して王国を攻めさせる
・王子に「逆らうと死ぬ呪い」をかける
・国王や近衛兵に幻術をかけて洗脳し、王子を罪人として処断
など、今までスパイとして活動して得た情報など1㎜も生かされることなく、ただただ「優秀な主人公様」という設定を振り回して問題を解決します。
主人公のできることが余りにも多すぎで、冒頭で追放される必要性などなかったことを鑑みるに、作者は碌な展開を思いつかなかったから、後付け設定によるパワープレイで解決に走った以外の理由が思いつきません。
あらすじや冒頭で色々な人から奪われたから奪い返すとか何とか言ってますが、最終的には王子1人に責任を負わす形で断罪し、妹はなんやかんやで特に罰はなく、父に至っては主人公の追放以降出てきません(どっか読み飛ばした可能性ありますが)。結局のところ、わざわざ追放される理由が見出せませんでした。
強いて言うならば、主人公が幼いころに出会った、追放後に味方した国の王子に協力するためでしょうが、主人公が1人で暗躍するのに対しそのキャラは作中で碌な成果を上げず、活躍した主人公をねぎらう言葉をかけるだけの存在です。
傍から見たら祖国復興のために最強主人公をいいように使う男ですが、なろう主人公が「最強の力を持っていても人にいいように使われる存在」であるという事実は隠したいため、まともな関係じゃない妹と追放王子という比較対象を持ち出すことで、主人公たちは正義の存在であり関係であると読者に印象付けようと必死になっております。
総評ですが、作者はキャラクターのESみたいな設定集を作る必要があると思います(この作品に限らねーけど)。
それぞれのキャラは何が出来て何ができないのか。何を目指しどういった手段を取りうるのか。そういったキャラクターの芯を作ってから物語を動かすべきだと思います。
いい加減、主人公は作者読者の分身、追放側はサンドバッグという固定観念から脱却すべきだと思います。
まあ、面白い作品を書きたいなら、これよりスパイファミリーとか見た方がいいと思います。




