攻撃力ゼロのやわらか剣士 ~幼馴染の皇女に捨てられ魔法学園に留学したら、魔王を世話することになった~の感想
【あらすじ】
帝国軍士官学校の首席であるユージン・サンタフィールド。
彼には夢があった。
それは皇帝を目指す幼馴染アイリ・グレンフレアの相棒『帝の剣』となって、帝国のさらなる繁栄に貢献すること。
しかし、その夢は潰える。
彼の才能の欠陥によって。
才無しのユージンを、幼馴染はあっさりと見捨てた。
絶望したユージンは、親父のはからいで大陸の最高学府『リュケイオン魔法学園』へ入園する。
学園での多様な出会いによってユージンの人生は大きく動く。
やがてそれは大陸全土を巻き込むほどの、うねりとなっていく……。
【感想】
タイトル詐欺です(直球)。
「攻撃力ゼロ」はまだしも、「やわらか」という防御力がなさそうな表現とは裏腹に、主人公は最高レベルの防御力を持っています。
本編は主人公が帝国軍士官学校の選別試験を受けるところから始まります。要するにいつもの成人ガチャです。
主人公は士官学校の首席であり、SSRを引くことを期待されていました。
しかし案の定はずれ(ということにしたい作者の思惑が強く浮き出た当たり)でした。
選別試験の内容ですが、カードを女神像にかざすと変色し、それによって才能が決まるそうです。
黒は攻撃で、白は防御、灰色だとどっこいどっこいみたいな感じです。
他にも赤だの黄色だの青だの、特殊な才能を持っている場合カラフルに変色するようです。
そんな選別試験ですが、主人公の結果は真っ白で、これは才能に欠陥があるものとみなされるようです。
そのため、結果が出た瞬間周りから蔑まれ、幼馴染から絶交を言い渡られましたとさ。
先ほども述べましたが主人公は学校の首席であり、剣術や戦術といった分野でトップクラスの成績でした。
「授業を進める前に選別試験した方がいいのではないか」とか「選別試験と学校の授業と関係が見えない」とった突っ込みどころがありますが、ナーロッパの学校はこんなもんです。
そのうち「トンでもナーロッパ魔法学校目録」みたいなのが書けそうですね(これは魔法学園じゃないですが)。
カードが真っ白、つまり防御一辺倒な才能が何故欠陥と呼ばれるのか説明します。
防御の才能しかないというのは「攻撃に関する魔力」が一切ないということであり、魔力を剣にまとわせて切り付ける「魔法剣」を使用しても、敵に一切傷をつけることができないそうです。
勘のいい読者の方々は「じゃあ魔力をまとわずに斬ったらどうなんの?」と思われるでしょうが、私個人の見解からすると問題なく斬れると思います。
なんでかって?この後チンピラの生徒の腕を掴んで行動を封じれる場面があるからです。
要するにこれをゲームで例えると、威力が魔力に依存する技を使うとダメージゼロだけど、普通に攻撃すれば問題なくダメージが入るってことなんですよね。
使う必要のない技が使えるから無能という論点ずらしですが、なろう小説で理論的な考えなんかするだけ無駄なのです。
幼馴染に振られた主人公は引きこもり、その様子を見て激怒した父に魔法学園に強制的に入学させられました。
普遍的なナーロッパ魔法学園は攻撃魔法でしか入学できないのですが、主人公は特別試験という名目で防御力を見る試験に変わりました。
その柔軟さを一般生徒にも広げれば納得がいくのですが、相変わらず主人公を接待しなければ気が済まないようです。
入学した主人公は学園長から「生物部」に強制入部させられます。
生物といってもウサギや鶏みたいなかわいいものではなく、解き放つと簡単に町がいくつも滅ぶほどの危険生物だそうです。
なんでそんなものが学園内にあるのかって?学園長の趣味だそうです。
で、そんなやばい奴が封印されているもののうち、最奥にあるのがタイトルにある通りの魔王です。
しかし、その魔王は本編のヒロインではないようです。この後ヒロインっぽい奴が出てくるので。
そのヒロインですが、正体は記憶を失った元日本人で、転生したことで現在は存在しない「炎の神人族」だそうです。
一通り学園を案内した後、元の世界に戻る手掛かりがあるかもしれないとのことで、戦闘経験の全くないヒロインを連れて迷宮に行くことになります。
この作品には学園長という最強キャラがいるのですから、その人に聞くことが最優先だと思うのですが、それだとヒロインとイチャイチャ出来ないからね、仕方ないね。
10階層まで到達したところ、階層ボスと戦っている一団を発見します。
主人公はその一団を救援することになりましたが、戦いが始まった瞬間、何故か視点はヒロイン目線に移って描写されます。
が、当然なろう小説なので、単にはたから見て「主人公の技すごすぎるだろ!」と持ち上げる以上の意味を持ちません。
一団を救援した後、さらにボスの討伐を依頼されます。
しかし主人公は攻撃ができないから無理とのこと。普通ならば主人公が裏方としてサポートして一団が倒すか、ヒロインと協力して倒すところですが、本作品はどちらでもない、実になろう小説らしい展開でした。
主人公は攻撃に使用できる魔力を持たず、魔力連結という相手から魔力を受け取る技術を身に着けました。
しかし、誰から魔力を受け取っても自身の魔力に打ち勝つことができず、長らく攻撃することができませんでした。
しかし、ヒロインのイフリートの膨大な魔力なら取り入れられるとのことで、一人でボスを撃破します。
ここまでヒロインを明確に道具扱いするなろう小説も珍しいですね。他の作品では主人公を称賛し続ける機械だというのに。
ちなみにこの場面で分かったのですが、魔法剣で切れない状態のことを「魔法剣がやわらかい」と表現しています。タイトルのやわらかってそういう意味かよ!!
初めて10階層を突破し、11階層へと歩を進める主人公。
そこで、何故魔法剣にこだわるかを説明します。
剣は使用し続けるとすぐに切れ味が落ち、長丁場になりやすい迷宮では通常の剣は役に立たず、魔法で強化されている剣が重要視されているからだそうです。
だったら鈍器を担いで行けばいいのではないでしょうか。作中でアンデッドを斬ると刀身は腐食するとか、武器を打ち合えば刃が潰れるとか、普通の剣を使用することのデメリットをつらつら挙げています。が、盾を用意するとか、そもそも魔法が存在する世界なのだから他のメンバーに魔法を使ってもらうとか、色々対処法が考えられるのですが、なろう主人公は基本唯我独尊なので役割分担という発想はないのでしょう。
今後は100年間も破られなかった踏破記録を塗り替えるために迷宮を攻略するという流れになるでしょうが、どうやって話を面白くするのでしょうか。
王道を征く少年漫画だったら、修行や逆境によって身に着けた新技で敵を倒したり、命を預ける仲間を新登場させたりして話を作っていくのですが……。
この主人公はとにかく他の人に力を借りないとどうしようもないという設定が足を引っ張っているように思われます。
才能ガチャのせいで「修行で新技を身に着ける」という展開は使えず、他人の魔力を使わないと敵を倒せず、新しく仲間を加えようにも今まで他の人と共闘したという描写が欠片もないため仲間を増やすのも不自然でしょう。どうせ増えるのは美少女だけでしょうし。
せめて「通常の剣は役に立たない」という常識がなければ話の広げようもあるのですが……。
なろう小説によくある「努力しても無駄。才能がすべて」という考え方は、面白い小説を書く上で非常に邪魔なことこの上ないというのがよくわかる本作でした。




