26:とある最高位冒険者たちの集結
獣王国、王都の王城の一室。
王族であるホワイトタイガーの獣人たち幾人かと共にレレリアが晩餐を受けていた。
獣人の王族に囲まれた中で、一人の少女のドワーフはどう見ても異端だが、周りも本人も気にした様子はない。
遠慮もなく飲み食いしているレレリアが告げる。
「というわけで、ベン爺、一緒にダンジョン行かない?」
「おう、いいぞい」
デートのように軽く交わす言葉に周囲の人たちが反発する。
「お、お待ち下さい、父上!前王という立場で王国の……しかも王都の中心に向かわれるなど!」
「わしゃあくまで前王じゃろ。お前が王なんだから、わし別に行ってもよくね?」
「し、しかし、かのダンジョンは王国も管理に加わり、ビーツ・ボーエンは王国貴族ですぞ!そこに攻め込むなど示威行為とも取られかねません!」
「いや、わし元アダマンタイト級冒険者として行くし」
「そういう話ではありません!」
現王の言葉に周囲の王族や使用人が頷く。
しかしこうした言い合いで現王が前王に勝った試しなどないと皆が知っていた。
結局は前王の言うとおりに事は運ぶのだ。
「じゃあ、ベン爺、よろしくね!」
「いや~久しぶりに体動かすのう!衰えておらんといいが」
衰えたところで強すぎるだろう、と周囲の人は思った。
現役を退いて尚、獣王国の最強戦力なのだ。
王位を継承する前にとったアダマンタイト級の称号は伊達ではなく、強さを誇る獣王国の王族にあって、他の誰もが敵わない力を未だ持ち続けている。
「しかし斥候はどうするかの。わしの鼻だけじゃダンジョンは無理じゃろ。嬢ちゃんのアイテムか?」
「いや~さすがにアイテムだけでトラップ探知は無理だから、ちゃんと斥候役を入れようかと」
「ほほう、わしらに並ぶ斥候役がおるかのう」
「王国に伝手があるんだよね~」
♦
「いやだ、ことわる、ねむい」
三十代半ばと思える優男が宿屋の部屋の扉を少し開けたままで言う。
レレリアの笑顔をちらりと見た途端にこの言い草である。
部屋に入れたくないらしい。
「まだ何も言ってないじゃない。とりあえず入るわよー」
「お邪魔するぞい」
「あーあー、勝手に入るし……俺のお昼寝タイムが……」
立ちふさがる優男をベン爺の力で押しのけ、レレリアは図々しくも部屋に入った。
常用している宿屋は高級店で、部屋の間取りは優男一人で泊まるにはだいぶ広い。
いや、正確には一人ではなく、一人と一体。
広い応接スペースのソファーのとなりには蝙蝠のような羽を生やした獅子、マンティコアが寝ていた。
「おー、デイドも久しぶりね」
レレリアはそう挨拶するが、当のデイドはフンスと鼻で息をはき、そのまま目を瞑る。
お構いなしにソファーに座るレレリアとベン爺。
優男も嫌々ながらも向かいのソファーに腰を下ろした。
「で、何だよいきなり。ベンルーファス陛下まで連れてきて」
「がはは、わしはもう王ではないぞ?ただの冒険者じゃからベンで良い」
「えっ冒険者に復帰したんスか?」
「今回からな」
どういう事?とレレリアの顔を見る。
「フェリクス、一緒にダンジョン行こう」
「いやだ、めんどう」
「んじゃデイドだけでもいい。斥候が欲しい」
「だめだ、一緒に昼寝する」
「がはは、噂に違わぬ【怠惰】っぷりじゃのう」
王国所属アダマンタイト級冒険者【怠惰】のフェリクス。
人一倍やる気がないのに、その実績は本物であり、斥候・諜報・隠密・飛行それに魔法攻撃まで備えたマンティコアのデイドを従える召喚士でもある半面、フェリクス本人も大剣使いとして名を馳せる、稀代の冒険者である。
「大体、俺は国王陛下の専属だぞ?ダンジョンなんか行けるもんかよ」
「その点ならば安心しろ。すでにエジル国王には話しを付けてきたぞい」
「うそぉ!」
「がはは!わしがお付きもなしにレレリア嬢ちゃんと行ったら驚いておったわ」
「アポなしだったしねー」
うわぁとフェリクスはその時の王城の人々に同情する。
獣王国の前王がアダマンタイト級冒険者を一人連れていきなり現れたのだ。
対応にも困るというもの。
「で、俺を貸しても良いって?」
「今、宮廷魔道士長が同じアダマンタイト級なんでしょ?だからそっちに守らせるってさ」
「英雄パーティーのリーダーだった奴じゃろ?」
「ああ、アレクな……」
あいつに任せて大丈夫か、とも思うが、力を知っている分、近衛騎士以上に信頼できるのは確かだった。
となれば国王の事は気にせずに動くべきか。
むしろ動く事で敵対する人間のあぶり出しも出来るか、ともフェリクスは思った。
眠いけど、休みたいけど、動きたくないけど。
「あーまあ分かったけど、ダンジョン潜るってのは?【百鬼夜行】だろ?」
「そうそう。従魔倒してメダル手に入れたいんだよね」
「あれかー。ベン……さんは?」
「わしは従魔と戦いたいだけじゃのう。いや、他にも面白そうな魔物もいるらしいが」
「戦闘欲かぁ……俺のメリットは?」
「特にないけど?」
「おいっ!」
なぜ目的も報酬もなしにダンジョン探索しなければいけないのか、と。
眠いのに!休みたいのに!動きたくないのに!と。
結局、道中で見つけた宝やドロップアイテムの優先所有権をもらったが、アダマンタイト級であるフェリクスからすれば金もアイテムも別に必要というわけでもなく、一応、優先所有権を受け入れながらも「俺の主目的はデイドの散歩になりそうだな」とため息をついた。
♦
ゲイツ商会の一室。
「ゲイツ様、どうやらレレリア様を雇うのはダメだったらしく」
「やはりか」
アイテムに固執するレレリアに従魔メダルの件を伝えれば興味を引くであろう事は考えられた。
しかしダンジョンで採取できる素材や宝に惹かれ、メダルに興味を持たない可能性もあったのだ。
まあ、実際は前者だったわけだが。
さて、どうしたものか、と悩むゲイツに使用人が声を掛ける。
「それで、レレリア様ですがパーティーを組んで【百鬼夜行】に挑戦するらしく……」
「は!?まさか自分でメダルを取りに来たのか!いや、しかし奴はソロだろう!」
「え、ええ。獣王国の【白爪】ベンルーファス前王陛下を連れ、王国に来たらしく……」
「はぁ!?前王陛下って七〇歳近いぞ!?いくら強いからってそんな大物引っ張って来たのか!」
「え、ええ。さらに【怠惰】のフェリクスも加わったらしいです」
「はぁっ!?【怠惰】だと!?国王陛下の専属だろうが!何がどうなってる!」
答えを知る者は誰もいない。
むしろフェリクスとかが言いたいセリフだ。何がどうなっている、と。
こうしてダンジョン【百鬼夜行】にアダマンタイト級三人という規格外パーティーが挑むことになったのだ。




