第九話 異変の正体
朝一で対の刃の四人を塔へ送り出し、俺はその足でトーラス遺跡へ向かう。
グラン達が遭遇したドラゴン。本来なら居るはずがないモンスターだ。流石に偶然で片づけるわけにはいかなかった。
トーラス遺跡は、普段ならC~Dランクの冒険者で賑わっているのだが……。
「まぁ、誰もいないか」
少し離れた場所から様子をうかがってみるが、人の気配はない。グランの話では、昨日のドラゴン出現を受けてギルドが調査を終えるまで立ち入り禁止になったらしい。
「ギルドの関係者と鉢合わせしないといいけどな……」
今後のためにも目立つわけにはいかない。俺は気配を殺し、静かに遺跡へ足を踏み入れた。
ダンジョンの中は静まり返っており、石畳を進む俺の足音は大きく反響している。
「……意外とモンスターが少ない?」
モンスターであふれかえっているかと思っていたのだが……俺の予想は裏切られた。
『ダンジョンが成長する時、モンスターが減り上位種へ置き換わるんだ』
不意にルシフェルの言葉を思い出し、思わず舌打ちする。
「この状況は……そういうことなのか?」
通路の奥から現れたのはCランクモンスター『ブラックタイガー』。
本来なら十階層以降で遭遇する魔物だ。
「はぁ……。こんな低階層に出てきていいモンスターじゃないだろ」
ガァァァ!!
ブラックタイガーは咆哮すると、石畳をえぐるほど力強く地を蹴り俺に迫る。
「……遅い」
俺は半歩だけ体をずらし、すれ違いざまに剣を一閃。
ドシャッ!
背後でブラックタイガーの躯が転がる。
頭と胴は、きれいに切り離されていた。
「良い剣だな」
『世界を救う重荷を背負わせてしまったからね。これは僕からの罪滅ぼしだよ』
俺が塔を踏破した時、ルシフェルは三つの『神器』を俺へ託した。
『斬魔神刀』
『不滅の衣』
『天空の巾着』
今の俺にとって、心強い相棒だ。俺は剣を一振りして鞘に納め、更にダンジョンの奥へと足を進めた。
徐々に格の上がっていくモンスターを一刀のもとに斬り捨てながら、俺は奥へと進む。そして十五階層。ドラゴンが現れた問題の階層へ到達した、その瞬間――肌を刺すような異様な気配に、俺は足を止めた。気配を殺し、物陰から慎重に様子をうかがう。
「あれ~? おっかしいな~? 俺が育てたドラゴンどこ行っちゃったんだよ~」
「ふむ……妙であるな。ここで戦闘があったようではあるが」
「あいつ、俺のお気に入りだったんだけどな~」
「人間どもにやられたのであろうか」
「そんな強いやつが、こんなとこに来るかなぁ~」
「謎である」
……なんだ、あいつら……?
そこにいたのは頭から角を生やした人型の存在だった。
「ま、いっかぁ。種は撒いたし、そのうちまた生まれてくるでしょ~」
小柄で角を二本生やした奴が、そう言って愉快そうに笑う。
「そうであるな。些事である」
三本のねじれた角を生やした奴がそう言った瞬間――。
「な……!?」
――消えた。
奴らが消えた瞬間、先ほどまでの異様な気配も霧のように消え去った。あいつらの正体も気になる。だが、それ以上に引っかかったのは、小柄な奴が口にした一言だ。
『種は撒いた』
「……まずは、その種を見つけて処理する」
今優先すべきはそこだ。俺は迷わず最上階を目指した。
階を上がるたびに空気が重くなる。あの二体がいた時ほどではないが、ピリピリと肌を刺激する嫌な気配が、奥へ進むほど濃くなっていく。そして――最上階。本来ならダンジョンボスが待ち構えているはずの広間。そこにはボスの姿はなかった。代わりに根を張っていたのは、天井へ届くほど巨大な一本の木。幹は黒くねじれ、血管のような赤い筋が脈打ち、太い根は地面から何かを吸い上げるようにドクン、ドクンと蠢いている。そして……枝先から垂れ下がる赤黒い実の中で、黒い影がゆっくりと胎動している。
「これが……『種』なのか?」
この木が異変の元凶だろうか……。奴らの話からしても、その可能性が高いな。
はぁ……。様子を見に来て正解だった。
「じゃ、掃除するか」
俺は大木へ向かってスキルを発動する。
〘施錠〙
スキルを発動した瞬間、生き物のように蠢く根がぴたりと止まる。実の中の影の胎動も止まり、大木はまるで時間そのものが止まったように沈黙した。
「よし。活動は止まったな」
拳で幹を軽く叩いてみる。コン、と乾いた音。立派な家が建ちそうな、良い素材である。
「あとは……」
俺は軽く跳躍し、近くにあった赤黒い実を切りおとす。グシャリと落ちた実の中からこぼれ出たのは、
できそこないのモンスターだった。
「この形は……やっぱドラゴンだよな……」
見上げると5つの実が残っている。
「念のため全部切り落とすか」
うんざりしつつ、すべての実を切りおとす。実からこぼれ出たモンスターに生命反応はなかった。
「残ったこいつ、どうしよう」
フロアに根を張る巨大な木。
俺のスキルに破壊力はないからなー。切り刻んで回収するか? いやいや、でかすぎるだろ。
…………。
「考えても分からん。とりあえずルシフェルに報告だ」
色々聞きたいこともあるし。大木と『種』の残骸は一旦放置でも問題ないだろう。
俺は考えることをやめた。
帰り道でも何体かモンスターと遭遇したが、普段のダンジョンに見合ったランクのモンスターだった。
「ひとまず、ここは落ち着いたみたいだな」
安堵してダンジョンを出ようとした時、話し声が聞こえ足を止める。
「いいかみんな! ダンジョンの異常の原因を突き止めるのが今回の依頼だ! いつもと違ってモンスターを倒すことが目的じゃないからな! 無理せず先に進むぞ!」
「「「はい!」」」
あれは……ギルドから調査を依頼された冒険者かな? 調査を依頼されたってことは、それなりの実力者だろう。大木や『種』の残骸の処分も、ギルドが何とかしてくれそうだ。
俺は入口の物陰でPTをやり過ごし、今度こそダンジョンを脱出した。
ルシフェルなら、この『種』の正体を知っているかもしれない。逸る心を落ち着かせつつ、俺は街へ向かって走り出した。
読んでいただいてありがとうございます。
やばい奴登場!( ゜Д゜)




