第八話 地獄の特訓
「師匠……なんか思ってたのと違います……」
リーズの中で俺は『師匠』にランクアップしたらしい。そんなリーズは安価なスチールソードを手に、恨めしそうな視線を送ってくる。シルも安価なショートダガーを握り、不安そうに俺を見上げていた。
「まぁ、言いたいことはわかる。強い武器でズバーッと敵を倒したいんだろ?」
「い、いえ! そんな……。でも……ホントはズバーッとかしたいです……」
リーズは実に正直だった。
「でも、実際強い武器の方が早くレベルを上げられるんじゃないですか?」
「それは間違いない」
シルの問いかけに俺はうなずく。
「ただな。基礎ができる前に強い武器へ頼ると、必ずどこかで壁にぶつかる。」
「壁、ですか?」
「武器が強いだけなのに、自分が強くなったと勘違いするんだ。すると戦い方がどんどん雑になる。そういう戦いに慣れてしまうと……その武器がないと何もできなくなる」
リーズは慌ててメモを取り始めた。
「だから最初は安物でいい。自分の手足のように武器を扱えるようになれ」
俺は二人に視線を送る。
「強い武器を使うのは、そのあとだ」
「「はい!」」
よし。それじゃあ、地獄の特訓開幕だ。
――三時間後――
「よっ」
ギルドの方から向かってくるグランとサリアの姿を見つけた俺は、二人に軽く手を振った。
「すまん、少し遅くなった。二人は?」
「リーズが3周目、シルは5周目だな」
「「な!!」」
「う、うそでしょう…」
サリアが青ざめた顔でつぶやく。
「残念ながらホントなんだなぁ。お、丁度リーズが帰ってきた」
魔法陣からリーズが現れ、即座に膝から崩れ落ちる。俺はリーズの元へ駆け寄り、へたり込むリーズへ尋ねる。
「何階まで行けた?」
「ま、まだ42階です…し、師匠、ちょっと休憩…っえ?」
何かを言いかけるリーズを抱き上げ、問答無用で魔法陣へ放り投げる。
「師匠の鬼ぃぃぃー!」
リーズは恨めし気な叫び声と共に魔法陣へ吸い込まれた。
「ふぅ」
あれだけ叫べるならまだまだ余裕。俺が振り返ると、グランとサリアは直立不動で固まっていた。
俺は事前に準備しておいた安価な武器を二人に手渡し、少し離れた場所へ移動すると、小声で告げた。
「今から二人のスキルを封印する」
「「は?」」
おお、見事なアホ面だ。イケメン二人がそろって口を開け固まった。
「スキルを使わず、自分の力だけでレベルを上げてこい」
「いやいやいやいや! 無理だろ! 速攻で死ぬ自信しかない!」
「声がでかい」
「ぐぁ!」
軽く拳骨を落とすと、グランは頭を抱えてしゃがみ込んだ。俺はグランの前にしゃがみ、静かに言う。
「死ぬ気で強くなるんだろ?」
二人は黙る。
「相手をよく見ろ。動きを読め。今の自分に何ができるか考えろ」
俺は立ち上がり二人を見る。
「そうやって、俺は塔を制覇した」
その一言で、二人の表情が変わる。
「……分かったわ」
「おう。すぐに追いついてやるからな」
その目からは、さっきまでの不安は消えている。
いい顔だ。
〘施錠〙
俺は二人のスキルを封印する。
「よし、死んでこい」
それから俺は四人を何度も塔へ送り出した。戻るたびに助言を与え、また送り返す。それを繰り返しているうちに、少しずつ人が集まってきた。
まぁ、目立つよな……。日が暮れるまでは続けたかったが、頃合いかな。
「よし、今日はここまでだ」
その一言を聞いた瞬間、全員がその場に崩れ落ちた。グランは大の字になり、リーズは「た、助かったぁ……」と地面に頬をつける。シルに至ってはぽろぽろと涙をこぼしていた。
……少しやりすぎたかもしれない。
「撤収だ! この後うちで反省会だぞ!」
「「「「ええっ!?」」」」
俺はそう言い残し、逃げるようにその場を立ち去った。
家に着くなり全員が椅子や床にへたり込む。肉体的なダメージは無くとも、精神的なダメージはかなりのものだったろう。
「よく頑張ったな」
俺は皆に労いの言葉をかけ、パンッと手を叩く。
「それじゃ、今日一日でレベルがどこまで上がったか発表してもらいまーす」
ビクゥッ
……一人だけ全身で反応したヤツがいるな。
「まずはシルから」
「は、はい……えっと、24まで上がりました」
「まじで!? 一日で12も上がったのか!?」
グランが真っ先に反応した。
「昨日の倍だな! 少しコツがつかめたか?」
「えっと……言われた通り、相手の動きをよく見て……そうしたら力が無くてもダメージを与えられたような……? すみません、まだよくわかってなくて……」
「十分だ。その感覚をより明確に、自分のものにすればいい」
皆の視線がシルにくぎ付けだ。
「じゃぁ次は、リーズ」
「はい! 私は……43まで……です」
ゴッ!
あ、グランが頭から床に突っ伏した。
「え、グランさん?」
「ほっとけ。リーズはなにかつかめたか?」
「は、はい! 私はもともと盾役なので普段から相手の動きは観察しているのですが、師匠のアドバイスをもらってから、相手の攻撃後の隙を狙えるようになってきました」
うんうん。いいね。
「シルの感覚の発展形だな。後で共有するように」
「はい!」
リーズはとても喜んでいる。
……ん? リーズの後ろに、尻尾が見えた気が……。
「んじゃサリア」
「……私は…37よ」
床に突っ伏したグランが、ぷるぷると震えだした。
「言われたことをしっかり実践したって感じだな。結局一回しか死ななかっただろ?」
「「「えっ!?」」」
「……ええ、できるだけ相手の攻撃を避ける様にしたの……その分時間はかかってしまったけれど……」
「実践では一番大事な事だ。無傷で立ち回ることを覚えれば、あとから火力はいくらでも伸ばせる。更にレベルも上がっているなら文句なしだ」
俺の言葉にサリアはほっと息を吐いた。
「さ、じゃぁグラン君? どうだった?」
「……」
「グランくーん?」
「……37(ボソッ」
「なんだって~? 聞こえないよ~」
「くそったれ! 37だよ!!」
俺の煽りに涙目で逆切れするグラン。ふっ。かわいい奴め。
「普段からスキルに頼りっきりだからそうなるんだ」
「ぐぅぅぅ」
「明日からはもう少し皆を見習って慎重に立ち回れよ?」
「……」
あ。いじけた。
「レベルが四下がったっていうことは、四回死んだということかしら……」
「でも、そのあと倒してるかもしれないから、『最低でも』四回ですよね?」
「私も今日だけで七回死んだので……だいぶ慣れてきましたけど……」
「「なれちゃだめ(よ)」」
女子三人は少し離れてヒソヒソとお話し中だ。
「さて、明日からは自主的に塔へチャレンジしてもらう」
「え? そうなんですか?」
「ああ。今日一日でだいぶ目立っちゃったからな。それに、今日一日で心構えはできたと思うし」
その言葉に、安堵の空気が流れる。
「あーでも、手は抜くなよ?」
「「「は、はい!」」」
よろしい。
俺からのアドバイスを伝えた後、四人は今日の戦いを振り返り始めた。
「できるだけ動作を最小限に……」
「ダメージが通りやすい部位が……」
そんな言葉が自然と飛び交う。結局のところ、人は教えられるだけでは強くならない。自分で考え、自分で掴み取ろうとする者だけが、本当に強くなる。
ま、この様子なら、大丈夫そうだな。
「さて……明日は俺も仕事をするか」
いるはずのない階層に現れたドラゴン。あれがただの偶然とは思えない。ダンジョンで何が起きているのか――。
この目で確かめないとな。
読んで下さってありがとうございます。
グランのキャラが、良い感じに固まってきました( *´艸`)




