第七話 一難去ってまた一難
「みんな! ドラゴンは!?」
目を覚ましたリーズが叫ぶ。
「何とかなったぞ」
「ルゥさん……? どうして、ここに……」
こういう時は、みんな大体同じ反応になるようだ。
「とりあえず、詳しい話は帰ってからにしよう。……問題は、あれだ」
「あれって……お前が倒したドラゴンじゃないか……」
グランは少しふてくされている。
「……はぁ。お前なぁ。こないだ俺の事情話したよな? 目立つと今後動きにくくなるって。それでも駆けつけた俺に、まずいうことがあるだろ?」
この言葉にグランは喉を詰まらせた。
「うぐっ……あ、ありがとう」
「よろしい。でだ、結論からいうとだな。ドラゴンを倒したのは対の刃ってことにしてもらいたい」
「「「な!? それは!?」」」
俺の言葉に三人が同時に声を上げた。
「言っとくが、この件に関してお前たちに拒否権は無いからな。とりあえず、ほかの冒険者が来る前に撤収だ。撤収」
俺はそう言ってグランにドラゴンを回収させ、街へ戻ろうとしたのだが……。
「す、すみません……私、まだ歩けないです……」
シルが座り込んで涙目だ。グランとリーズに目を向けると、お互いに肩を貸し合って、ようやく歩ける状態のようだ……。
……仕方ないか。
「ほら」
俺はシルの前にしゃがみ、背中を向けた。
「え!? でも……そんな……」
「お姫様抱っこの方がいいか?」
「そ、それはもっと……恥ずかしいです……」
真っ赤になったシルは、おずおずと俺の背中に身を預けた。
「忘れ物はないな?」
グランの持っていたレンタルマジックバッグにドラゴンを収納させ、辺りを見回しながら確認していると、リーズが不安そうに声を上げた。
「帰り道にもモンスターがいると思うのですが……」
「ああ、大丈夫だ。俺に任せろ」
「え?」
自信満々に答える俺にリーズは戸惑っている。
「ムカつくけど、ルゥは俺たちよりも強いぜ」
グランがフォローを入れる。
帰り道、遭遇するモンスターを問答無用でして蹴り倒していく。その光景に三人は最初こそ驚いていたが、しばらくすると考えることを放棄したようだ。
「ルゥさんって凄いんですね!」
どんなモンスターも蹴り一発で倒す俺を見て、リーズはなんだか楽しそうだ。それはそうと、他の冒険者の姿が見当たらない……。
「……そういえば、ドラゴンって討伐指定ランクはいくつなんだ?」
「Aランクだな。BランクのPTだと、勝てるかどうかってとこだ」
「なるほど、誰もいないわけだ」
元々ここはC~Dランク冒険者の推奨ダンジョンだ。Aランクのドラゴンが現れたなら、戦うのではなく、逃げるのが正しい冒険者だろう。……逃げ出せる状況であれば。だけどな。
「高ランク冒険者は忙しいからな……」
グランのつぶやきに俺もうなずく。高ランクの冒険者は高ランクダンジョンへ行くものだ。なかなかつかまるもんじゃない。そもそも高ランクになればなるほど、その数も少なくなる。
「ルゥさんが来てくれて、本当に良かったです」
背中から声がする。
「俺もそう思うよ。本当に間に合ってよかった」
「私たちも……ルゥさんみたいに強くなりたいです!」
悔しさがにじむリーズの言葉は、俺の心に火をつけた。
「よく言った。対の刃にはとことん上を目指してもらうぜ」
その言葉に、ほんの一瞬グランの口元がひくっと引きつる。
流石グラン。付き合いが長いだけあって、俺が何を考えているか、なんとなく分かるらしい。
「じゃあ、また後でな」
街に入る前に俺は対の刃と別れた。
そしてその日の晩。
対の刃全員がうちに集まった。グランの不機嫌さが顔に出ていて面白い。サリアも堅い表情だ。リーズとシルは困った顔をしている。
……とても分かりやすいPTである。
「五人もいるとこの家も手狭だな」
「おい! ルゥのお・か・げで、大変だったんだぞ!」
我慢できないとグランがこぼした。どうやらギルドで相当質問攻めにあったようだ。
「まぁ、それも命あっての、だろ?」
そう言って笑うと、グランは口をとがらせて横を向いてしまった。
「ルゥさん。この度は、本当にありがとうございました」
サリアが改まった様子で頭を下げる。
「気にしないでくれ。全部自分のためにやったことだ」
なおも続けようとするサリアに俺は手のひらを向ける。
「俺には、対の刃を助けるだけの力があった。そして俺は対の刃を助けたいと思った。それだけの事だ」
サリアが必死で助けを呼びに戻った。グランやリーズ、シルが生きようと必死だった。誰か一人でも欠けていたら、今ここに皆はいない。
「ただ……次にまた俺が助けに行ける保証も無い。だから――」
グランの肩がびくっと揺れる。俺の口がニヤリと吊り上がる。
「皆には、死ぬ気で強くなってもらおうと思います」
俺の言葉に部屋はシンと静まり返った。
「あ、あの……死ぬ気で強くなるって……どうやってですか?」
沈黙を破ったのは、意外にもシルだった。
「塔の攻略を進めるんだ」
俺の言葉にグラン、リーズ、サリアが青ざめる。
……この三人は塔での『死』を体験してるようだな。あの体験は……心に深く刻まれる楔だ。
「塔を攻略するって……そんな簡単に言われても……」
目線を下に落としてサリアが抵抗する。
「大丈夫。塔なら死んでも入口に戻されるだけだ。怖いのは……『ダンジョンで死ぬこと』だろ?」
再び訪れる沈黙……。グランが頭を掻きながら言った。
「はぁ……みんな、やるしかないぜ。悔しいけどルゥのいう通りだ。俺たちはドラゴンを前に、何もできなかったんだ」
グランの言葉が、対の刃の心に火をつけた。
「やりましょう! 二度とあんな悔しい思いしたくありません!」
気合と共にリーズが立ち上がる。
「わたしも……みんなの足を引っ張るのは嫌です」
シルも震えながら声を上げた。
「……そうね。今日みたいなことは、もう二度と御免だわ。でも、実際どうやって塔のモンスターに勝てばいいのか分からないのよ……」
サリアの言葉に皆がうなずいた。不安なのは分かってる。だから俺は、力強く言った。
「塔の攻略なら俺に任せろ」
自信満々に言い切った俺を、四人は呆然と見つめていた。
「あ、あの……」
「ん?どうした?」
「その……ルゥさんって、いったい何者なんですか?」
……あ。そういえば、俺の事グランにしか話してないや。
「すまん。大事なことを伝え忘れてた」
俺は苦笑いで頭をかいた。
「――というわけで、俺のレベルは100なんだ」
「……冗談、よね?」
「残念ながら本当だ。」
「じゃあドラゴンも……」
「ああ。俺が倒した。」
サリアは信じられないというように首を振る。
「難しいことを考えたって無駄だぜ!」
グランが立ち上がった。
「とりあえず、ルゥについていけば間違いなく俺たちは強くなれる! みんな! やってやろうぜ!」
流石リーダー。カッコつけるじゃん。
「そうそう。気合が大事だよ気合。一つ言っとくけど、俺は優しくないからな」
俺が満面の笑みを浮かべると、四人はそろって顔を引きつらせた。
「さて、真面目な話に戻すが。まず、皆のレベルを教えてくれ」
俺の一言で気まずい空気が漂う。
「その……それは言わないとだめですか?」
リーズが抵抗を試みるが。
「だめだ」
俺は即刻切り捨てる。皆が抵抗する気持ちも分かるが……。
「レベルが分からないと、アドバイスのしようがないのは分かるだろ? 言いたく気持ちは分かるが、俺から見たら全員大差ないからな?」
グランがゆでたタコのように顔を真っ赤にした。
「悔しかったら強くなれ。んで、レベルは?」
「41」
「…36よ」
「40です!」
……。
「ん? シルは?」
「……12です」
…………。
じゅうに!?
俺は思わずシルを二度見した。
「それで……『一応』ハイプリーストって言ってたのか」
「はい……そうです」
シルは今にも消え入りそうだ。
「大丈夫だ。気にするな。レベルなんてこれから上げればいいだけだ。むしろ、お前が一番伸びしろあるぞ。すぐみんなに追いつける」
俺は親指を立てる。
シルは目じりに涙を浮かべ、こくりと小さくうなずいた。
「それ、レベル100の人に言われると、複雑なんですが……」
リーズのツッコミを俺は無視する。切磋琢磨してくれ。
「じゃあ、明日から塔にこもるぞ。まずは武器選びからだな」
「ああ、俺とサリアはギルドにドラゴン討伐の報告を済ませてから合流する」
「わかった。逃げんなよ?」
「ここまで来て逃げるかよ!」
グランが笑う。その笑顔を見て、俺も口元が緩んだ。
……まあ。笑っていられるのも今日までだけどな……。
明日から皆には、この世界で生き残るために――地獄を味わってもらうとしよう。
読んでくださってありがとうございます。
タイトルは「対の刃」に対してのものでした(笑)




