第六話 凶報
「さて、帰るか」
カスピス草を依頼分採取した俺は、残念な出来事で一人ぼっちになってしまったので、自分の力を確認するために、全力で街まで戻ってみた。
「おー! 日が沈む前に帰ってこれた!……ふへへ」
自分の能力の高さと、依頼達成目前の高揚感で、変な声がでた。
ギルドの受付に納品し、依頼完了の報酬を受け取る。俺が早く戻りすぎたことに受付嬢は怪訝な顔をしたものの、ちゃんとお決まりの言葉をかけてくれた。
「クエスト達成、おめでとうございます」
その一言で胸が熱くなった。ギフトを授かったあの日、一生聞くことはないと思っていた言葉だ。
「……ありがとう」
ぎこちなく返事をして、カウンターを離れる。
受付嬢は暖かい目で見送ってくれた。
「あら? ルゥさん?」
ギルドを出ようとしていた俺は、聞き覚えのある声に顔を向けた。
「サリアさん。昨日ぶりですね。今日はひとりですか?」
「ええ、明日受注するクエストを探しに、ね」
しっかりした人なんだな……。
「あなたは?」
「ちょうど、初めての依頼を終えたところです」
俺が笑いながらそう答えると、
「そう。おめでとう」
そう言って優しく微笑んだ。
グラン……爆発しろ。グランに嫉妬してしまう自分が悲しい。……いや、男なら仕方ないと思う。
なんとなく、流れでクエストボードに2人で向かう。Cランクの依頼書を吟味し始めたサリアさんに、俺はふと疑問に思ったことを尋ねた。
「そういえば、グランとはいつからPTを組んでるんだ?」
「ちょうど……半年前かしら。もともと私が組んでいたPTが解散しちゃって……」
PTの解散……冒険者にはよくある話だ。クエスト中に命を落とすこともあれば、目指す目標や価値観の違い一つであっさり終わることもある。
「そんな時にちょうどDランクに上がった『対の刃』に声をかけてもらったの」
「対の刃……」
「あなたがいつか戻ってくるって、願いを込めてつけたみたいよ?」
サリアはいたずらを含んだ笑みを浮かべる。
昨日、グランはどれだけ聞いてもごまかして教えてくれなかったが……。自然と顔が熱くなる。
「……嬉しいですよ」
その言葉を聞いたサリアは、どこか安心したように目を細めた。
「それで、ルゥさんはいつ私たちのPTに入るの?」
その質問に俺の心臓は飛び跳ねた。
「あ、いやぁあの……俺は今日冒険者登録を済ませたばかりで……ランクも全然違うしなぁ……」
「ふぅん? 詳しくは聞かないけど……あまりあの人を悲しませないでね?」
あたふたと受け答えをする俺を、怪訝そうな顔でみつめつつも、大人の対応をしてくれた。
「いやー、焦った。でもほんとどうしよっかなー」
家への帰り道、俺は今後の方針を整理した。
『ダンジョン関連のクエスト受注はDランクからです』
受付嬢の説明がよみがえる。
「Dランクかぁ……グランのPTでも半年近くかかったんだよなぁ……」
半年は長い……PTに入るつもりもないから一人だし、もっとかかるか……。いきなり高ランクの野良モンスター狩ったりして、目立つわけにもいかないしなぁ……。
「ん~……難しい」
煮詰まってきた頭を冷やすため、その日は早めに寝ることにした。
その後、いい方法も思いつかないまま、数日間、コツコツとFランクの依頼をこなしていた。Dランクへの道は、思っていた以上に遠い。
……そう思っていた矢先。その知らせは、突然舞い込んだ。
いつも通りクエストを受けようとギルドの扉をくぐった時だった。
「なんだ?」
ギルド内の空気が張り詰めていた。受付の一角に人だかりの山ができている。不吉な予感を覚え、人だかりへ駆け寄ると――
傷だらけのサリアが横になり治療を受けていた。
「お願い……誰か……助けて」
俺は人だかりをすり抜け彼女に駆け寄る。
「サリアさん!」
俺の呼びかけにサリアは薄く目を開き、俺を見る。
「ルゥ……さん……?」
「場所は!?」
「トーラス遺跡……十五階層……皆がまだ……お願い」
今にも消え入りそうな声だった。
「任せろ」
それだけ聞ければ十分だ。俺は出来るだけ気配を薄くし、ギルドを飛びだした。
トーラス遺跡は街から一番近いダンジョンだ。今の俺なら十分もかからない。絶対に間に合わせる!!
『冒険者はいつ死んでもおかしくない仕事だ』
うるさい!
『くれぐれも目立たないように気を付けるんだよ』
黙れ!!
頭の中を父やルシフェルの言葉がこだまする。俺は頭を振り、雑念を吹き飛ばした。
正体がばれてもいい! 目立ってもいい! あいつだけは死なせない!!
一刻も早く、グランのもとへ! 俺は人目につかない路地を選び、全力で駆けた。
トーラス遺跡の十五階層にたどり着いたちょうどその時、階層を震わせる咆哮が轟いた。
まだ戦闘は続いている!
咆哮の主の元へ、余すことなく全力で駆けた。
少し開けた空間に出た瞬間、目に飛び込んできたのは、巨大なドラゴンに必死で杖を向けるシルの姿だった。
ドラゴンはシルの展開した〘ブロテクション〙の障壁を叩き壊そうと、右足を振りかぶり――
〘施錠〙
そしてドラゴンの動きが止まる。
巨体がぐらりと揺れ――
ズシンッ
大きな音を立てて崩れ落ちた。
ドラゴンにスキルを放つと同時に、俺はシルの元へ駆け寄っていた。音もなく現れた俺を見て、シルは大きく目を見開く。
「ルゥ……さん……?」
張り詰めていた表情が緩み、そのまま意識を失う。シルの後ろにはグランとリーズが倒れているが、二人ともまだ息はあるようだ。
「よかった……」
安堵から少し冷静になった俺は、ルシフェルからもらった巾着から回復薬を取り出しシルに飲ませた。
「すまん、もう少し頑張ってくれ……」
シルは徐々に顔色が良くなっていき、目を開けた。混乱しているのか、周りを見回し目を見開く。
「っ! ドラゴンは!?」
慌てて立ち上がろうとするシルの肩に手ををあて、ゆっくりと言い聞かせる。
「大丈夫だ。ドラゴンはもう倒した」
その言葉にシルの意識が覚醒する。
「え!? ルゥさん!?」
「説明は後だ。まずは二人を治療してやってくれ」
「は、はい!」
彼女は後ろを振り返り、二人の治療を始めた。
はぁぁ……間に合って、よかった……。
急に肩の力が抜けた俺は、シルの手からあふれる癒しの光を見るともなく見ていた。
「うっ……」
うめき声と共にグランが体を起こす。
「よう。散々だったな」
「……ルゥ? どうしてここに!? ドラゴンは!?ぐぅぅっ」
俺の軽口をスルーして慌てて立ち上がろうとしたグランは、傷の痛みに悶絶している。
「すみません。私もSPが切れて、これ以上の回復は……」
よく見れば回復薬の空き瓶がそこら中に転がっている。
「十分だ。シルがいなければ全滅してた。ありがとな」
リーズはまだ目を覚ましていないが、出血は止まり顔色も少し良くなっている。ほんと、シルはよくやってくれた。俺は巾着から最後の回復薬をグランに投げる。
もう少し買っておけばよかったな……。
「あとはそれで何とかしてくれ」
回復薬を受け止めたグランは、ドラゴンに顔を向ける。
「ドラゴンは……お前が倒したのか?」
「まぁな」
「……マジかよ。俺たち全員でかかって、手も足もでなかったのに……」
「あー、それなんだが……お前に……いや『対の刃』に頼みたいことがある」
グランは、俺の言葉に嫌なものを感じ取ったのか、露骨に顔をしかめた。
読んでくださってありがとうございます。
ファンタジー王道のドラゴン!私の中のイメージはド〇クエのあのドラゴンです(笑)




