第五話 初めてのお仕事
夜通しグランと語り明かした次の昼、ルシフェルとの会話を思い出しながら、今後の活動のために冒険者ギルドへ向かった。
「君にとって、残酷なことかもしれないけれど、くれぐれも目立たないように気を付けるんだよ」
「……ナンデメダッチャダメナノ?」
塔にいる間、ルシフェルに「目立つな」と耳にタコができるほど言い聞かされた。
「力だけでは解決できない問題もある」
「人間の怖いところは数だ」
「国にも貴族にも教会にも関わるな」
「妬み、恨み、利用しようとすり寄る者、その力がバレたら面倒なことしか起きない」
その説明に全く反論できなかったことは言うまでもない。そんなわけで、グランと一緒に冒険をするという夢は、現段階では叶わないモノになってしまった。それを伝えた時の、悔しさと寂しさが滲んだグランの表情が、深く胸につき刺さっている。
それでも、グランならいつか……。
俺たちはまだ夢をあきらめたわけじゃない。
そんなことを考えているうちにギルドに到着。初めて入ったギルドの中は、血と汗と酒の匂いがした。
ギフトを授かったあの日。もうここに来ることは無いとあきらめていた場所だ……。
自然と気分が高まる。少し深く息を吸って、ギルドの受付へと向かった。
ギルドカウンターには何人かの冒険者がたむろしていた。カウンターの一番端、片肘をついて暇そうにしている受付嬢に声をかける。
「冒険者登録をしたいんだけど」
「いらっしゃい。冒険者登録? じゃあ、この用紙に記入してね」
受付嬢はカウンターの中から一枚の用紙とペンを取り出し、カウンターの上に置く。名前、年齢、ギフト……必要事項を書き込んで受付嬢に返す。
「剣士、ね。紋様を確認するけど、ここでする? 個室にする?」
「ここで大丈夫です」
俺の場合は移動する必要が無いので、その場で右手の甲を見せた。偽装された『剣』を模る紋様を確認した受付嬢は軽くうなずく。
『鍵職人の紋様だと、いろいろと動きづらいかだろうからね』
流石ルシフェル。いい仕事するね。
「オーケー、それじゃギルドについて説明するね――」
それからギルドの注意事項を30分程度聞かされた。ランク制度やクエストの受け方、失敗時のペナルティなど。説明を聞き終え、冒険者証を受け取った瞬間、にへらと口元が緩んだのはご愛敬だ。礼を言ってクエストが貼ってあるボードに向かう。
クエストボードには無数の依頼書が張り出されていたが、きれいにランク別に分けられていたため、迷うことはなかった。
「Fランクでも結構あるんだなぁ」
俺がどれを受けようか眺めていると、後ろから声をかけられた。
「あのぉ、あなたもFランク冒険者ですか?」
振り向くと眉をハの字にして上目遣いでこちらをうかがう少女がいた。
「……俺? ああ。そうだけど?」
俺がそう答えると、もじもじしながら、
「あ、あの、もしよければこのクエスト、一緒に受けませんか?」
そう言って少女は依頼書を差し出した。
「……なんで俺に声をかけたの?」
そう尋ねるとますます縮こまって、
「す、すみません、みんな断られてしまって……」
なるほどな。俺は少女から差し出された依頼書に目を落とした。
『カスピス草の採取』
カスピス草はこの街から歩いて半日ほどの距離にある、カスピス草原に群生する薬草だ。そう珍しいものではないが移動に時間もかかるし、途中でモンスターと遭遇する可能性もある。しかし……。
「これ……報酬、安くない?」
俺は感じた疑問を問いかけた。
「は、はい。この依頼人、私の親友なんです。お金がなくて市販のものも買えなくて、でも何とかしてあげたいんです。」
その言葉にグランの顔がよぎる。
「……いいよ。一緒に受けようか」
「ほ、ほんとですか!? ありがとうございます!」
俺の言葉に少女は涙ぐんで喜ぶ。俺は苦笑しながら依頼書を手に取った。
「じゃあ、受付へ行こうか」
「はい!」
こうして俺は、初めてのクエストへ向かうことになった。
※※※※※
「……はぁぁ」
目に映る光景に、深い溜息をついた。
ギルドを出た後、最低限の物資を買い込んで街を出発。天気も良く、フラナという少女と親友の話を聞きながら順調に進んできたのだが……。カスピス草原まであと半分の距離にある林道で、事件は起きた――
「ルゥさん。少し休憩しませんか?」
俺は別に疲れてないけど……。言われてみれば彼女は少し疲れた表情だ。
「そうだね。そろそろ休もうか」
俺たちは木陰へと移動し、腰を落ち着かせた。すると、フラナはポーチから水筒を取り出し、俺に差し出す。
「どうぞ!」
「……もらっていいの?」
「もちろんです! 無理を言って付き合っていただいてるので……これぐらいしかできないですけど」
そう言って彼女ははにかんだ。……ここで断るのもなぁ。俺は素直に受け取って、口に含む。それを確認したフラナは、もじもじと恥ずかしそうに聞いてきた。
「ルゥさんすみません、そのぉ……ちょっと、お花を摘みに行ってきてもいいですか?」
俺は周りを見回し、薄く息をはく。
「ああ、行ってらっしゃい、あまり遠くまでは行かないようにね」
俺の返事にうなずき、フラナは林へ消えた。
待つこと数分、林から出てきたのはフラナではなくガラの悪い三人の男だった。
「坊主、痛い目にあいたくなきゃ、金と装備を置いて消えろ」
真ん中に立つ眼帯の男がそう言い放つ。両脇の二人はこちらを見下すようにニヤニヤと笑みを浮かべている。
……フラナはまだ林の中か。
俺はフラナに聞こえるように声を上げた。
「フラナ! 追剥だ! 戻ってくるんじゃないぞ! 逃げろ!」
その言葉に反応したのは右手にいたスキンヘッドの男だった。
「ブッ! はははっ! こいつ!騙 されたことに気づいてねーぜ!」
俺を指さし笑い転げている。イラッとして思わず手が出そうになった。
落ち着け……まだ駄目だ。
「かわいそうな奴だぜ、おいフラナ! こいつに本当の事を教えてやれよ!」
左の男がそう言うと、三人の後ろからフラナがひょこっと顔を出し、先ほどまでとは別人のような顔つきだ。
「騙しちゃってごめんなさいねぇ。私たちのために、有り金ぜーんぶ置いて行ってくれる? あっ! 私の事も知られちゃったから、命も置いて行ってもらわなきゃね! そうそう、さっきあなたが飲んだ水筒の中身、あれマヒ毒だから、そんなに痛みは感じないわ。私ってなんて優しいのかしら」
……なんかもう、ここまでくると逆に清々しいな。眼帯ですら「消えろ」だったのに、この女……。そもそも左手の紋様のおかげでマヒ毒なんか効かないけどね!
四人は獲物を前にした獣のように、下卑た笑みを浮かべ武器を構える。
とにかくこれで全員揃ったな。
『最近はFランク狙いの追い剥ぎが出るらしい。気を付けろよ』
昨夜、グランに注意を受けたんだがなぁ……。まさか初仕事で引き当てるとは、運が良いのか悪いのか。まぁどちらにしろ、これは俺の仕事だ。
か弱い獲物を前に、汚い笑い声をあげ続ける四人に対し、静かにスキルを発動する。
〘施錠〙
その瞬間、辺りは静寂に包まれた。
ドサドサッ!
四人は糸の切れた人形のように、その場へ崩れ落ちる。俺はその光景を眺めながら、ルシフェルとの会話を思い出していた。
「ルゥにやって欲しいことは三つだ。
一つ目は『モンスターの間引き』。これは主にダンジョンのモンスターだけど、外で人々に害をなすモンスターも、積極的に狩って欲しい。
二つ目は『七つダンジョンの封印』。この世界にある、特に危険度の高いダンジョンの核を封印して欲しい。
そして三つ目は――『人々に害を与える人間の排除』だ」
「ちょっと待ってくれ。一つ目と二つ目は分かる。でも三つ目は、どういうこと?」
「単純な理由さ。ダンジョンやモンスターは、人間の負の感情から生まれるんだ」
「おい、さらっと凄いこと言ったな」
「そうかな? ん-……そっか。これは僕が管理者だからわかる事なのかもしれないね。ここ数年で負の感情の増加する速度が上がっててね。原因はよく分からないんだけど……」
「え? 管理者でも分からないことがあるのか?」
「もちろん、分らないことの方が多いよ。僕に分かるのは、この世界の大きな流れと塔の内部で起きたことだけなんだ」
ルシフェルは悲しそうに微笑んだ。
「さてと」
同行者が追剥だったとて、依頼は正式にギルドを通じて発注されたものだ。誰かが困っているのは間違いない。道に転がった四人を林の中へ転がし、俺は気持ちを切り替えてカスピス草原へ向かった。
予定よりも早くカスピス草原に到着した俺は、ギルドでもらったイラストを見ながらカスピス草を探し始めた。小高い丘を登った瞬間、目に飛び込んできたのは純白の花を咲かせたカスピス草の群生地だった。この一年、塔の中で過ごした俺は、可憐に咲き誇るその花に目を奪われた。
「……すごい」
ちょうど花を咲かせる時期だったのか……。俺はその美しい景色に心を洗われ、腰を下ろして遅めの昼食を取るのだった。
読んでくださってありがとうございます。
テンプレ展開!書いてみたかったんです!自己満です!( ゜Д゜)




