第四話 ただいま
人々のにぎわう声、屋台から漂う焼けた肉の香り、温かな太陽の日差し。
俺は帰ってきた……。
外の世界に!!
気が狂うほど時間はかかったが、ようやく外へ出ることができた。長かった……。いろいろあったよ。ほんとに。何回死んだことか……途中から数えるの止めたもん。思い出すだけで涙が出るよ……。まぁ塔の中では死なないんだけどさ……。
塔の前であれこれと感慨にふけっていると――
「ルゥ!!」
ビクゥッ
空気が震え、周りの人が振り向くほど大きな呼び声が。
な、なんだ!?
振り向くとアイツが――グランが俺に向かって走ってきた。
「おまえ! どこに行ってたんだよ!!」
そう言って俺に拳を突き出してくるあたり、いかにもグランらしい。しかも、手加減してくれているのが、ありありと分かる。
俺は顔をめがけて飛んでくる拳の勢いを殺し、正面から受け止めて笑った。
「すまん、心配かけた」
「なっ……」
グランは面食らった表情で俺に受け止められた拳を目で追い、我に返る。
「おっ! おまえ! 俺がどれだけ心配したと思ってるんだ! 塔に入る前も無視して行きやがって! あれから一年だぞ!? 何があったんだよ!」
はぁ……。一年経っちゃってたかぁ。
グランは遠い目をする俺の胸倉をつかみ、ぐわんぐわんと揺さぶる。
「おい! 聞いてんのかよ!?」
おっと、無意識に現実逃避していたようだ。
「まぁいろいろとな。それより、あの子たちお前のPTメンバー?」
俺はグランを追いかけて走ってくる三人の女性に視線を合わせ、問いかけた。
「おう、お前がいない間、何もしないわけにもいかなかったからな……」
グランは少し後ろめたい表情になり、言い訳のように答えた。悪いのは俺なのに……変わってないな。俺は笑いながら話題を変える。
「とりあえず、俺の話はまた後で。まずはお前の仲間を紹介してくれよ」
俺の軽口にグランは顔を赤く染めた。
「ばっ! おまえそんなことより――」
グランが言葉を終える前に彼女たちが追いつく。
「グランさん! いきなりどうしたんですか!?」
身の丈ほどもある大盾を軽々と背負い、青い光沢のある全身鎧を身にまとった女性がグランに声をかける。
「あ、あぁ、すまない。行方不明だった幼馴染を見つけてつい……」
「それにしても、あんな大きな声で……。もう少し周りに気を配ったらどう?」
こちらはルビーのような赤い髪をした、いかにも魔術師! 風のローブを着たおねいさん。
「わ、私体力ないんですぅ……」
苦しそうに肩で息をしている、金髪白ローブの幼顔。
……はいはい、イケメンは大変だな。
俺はグランが彼女たちをなだめている光景を見ながら、心の中で悪態をついた。
「初めまして! リーズ=カナリオです! よろしくお願いします!」
黒髪ショートの女性が勢いよく頭を下げた。
「こいつはヘビーシールダーだ」
グランが補足する。
へぇ。家名持ちか。どっかの貴族か?
「サリアよ。アークウィザード。よろしくね」
クールなおねいさんはやっぱりクールなようです。
「わ、わたしはシルといいます。一応、ハイプリーストです」
ようやく息が整ってきたようだ。……一応ってなに?
「全員上級職じゃないか。すごいな」
俺の言葉に少し空気が明るくなる。
「はじめまして。ルゥです。ギフトは……剣士です」
初対面の相手に、おれはギフトをごまかした。これから冒険者を目指す俺にとって『鍵職人』では都合が悪いし、かといって、俺の事情を説明するタイミングでもない。グランが何かを言いかけるが、それより早くリーズが口を開いた。
「あなたがルゥさんですか! グランさんから耳にタコができるくらいお話しを聞いて――」
「おっおい! やめろって!」
グランが慌てて言葉を遮る。……そんなに俺の事話してるの?それにしても三人の視線が痛い。やめてくれ。そんな目で見るのは。俺は男に興味ないからな……。
俺はたまらず話題を変えた。
「これからダンジョンか?」
「あぁ、ギルドでクエストを受けて、向かうところだったんだが……」
「そうか。戻りはいつになる?」
「今回のクエストは近場だから、夜には戻る予定だ」
「じゃあ戻ってきたらうちに来てくれ」
俺の言葉にグランは息をのんだ。
「……わかった」
「じゃあな。成功を祈ってるよ」
※※※※※
「ただいま」
一年ぶりに帰ってきた我が家はうっすらと埃に覆われていた。とりあえず家の中が荒らされていないことに安堵する。といっても盗るものなんて何も置いていないわけだが……。
俺の父も冒険者だった。父の口癖は、
『冒険者はいつ死んでもおかしくない仕事だ。だが、金も入るし人にも感謝される。生きてるって実感があるからやめられねぇ。それに今から別の仕事をしろって言われても無理だからな!』
いつもそう言って笑っていた。そんな父に育てられたからか、俺も自然と冒険者を目指すようになった。
『貴重品は肌身離さず持て』
これも父の教えだ。家に置かれた唯一の貴重品といえば、ボロボロのロングソードだけ。まぁ、他人にとってはゴミ同然だけどな。俺が誕生日を迎える半年ほど前に、父は帰らぬ人となった。
「さて、掃除するか」
ドンドン!
家の掃除を終えたころ、ドアをノックする音が響いた。
「よう」
我が家のように入ってきたグランは、部屋を見回し、つぶやく。
「変わってねぇな」
「懐かしいだろ?」
俺が笑いながらそう答えると、グランは持ち込んだ酒とつまみをテーブルに置き、待ちきれない様子で問いかける。
「それで?」
「……まぁ、座れよ」
俺も席に着き、グランと酒を酌み交わす。俺は一口酒を含み、話を切り出した。
「まずはこれを見てくれ」
そういって俺は右手の手袋をとって見せた。
「これは……鍵か?」
「そうだ。俺のギフトは『鍵司』だった」
「……鍵司? この紋様……鍵職人じゃないのか?」
「やっぱそう思うよな。でも、俺は鍵司だった。そして、ここから説明が難しいんだが……色々あってレベルが100になった」
俺の言葉にグランは飲みかけの酒を豪快に噴出した。苦しそうにむせるグランの顔に俺はタオルを投げつける。
「お、おまえ何言ってんだ!? レベル100!?」
グランは整った顔をゆがめながらそう言った。そりゃそうだ。俺だって逆の立場なら同じことを言うだろう。
「昼間の、覚えてるか? お前が手加減して突き出した拳、俺がどうしたか」
その言葉でグランは目を見開く。
「そうだよ。あれがあったから俺は……そのあとお前が剣士って言った時、そんなわけねーだろっ! てツッコもうとして……」
「俺がお前の拳を受け止められたのは、レベルと経験の差だよ。お前、今レベルは?」
「……41だ。」
「ふむ……聞いておいてなんだが、41って高いのか?」
「知らねぇよ! 他人のレベルなんて聞けるわけないだろ!」
「だな。すまん」
他人にレベルを知られるのは、自分の弱点を晒すのに等しいからな。聞くことも、聞かれることも常識のある人間はしない。
41ってことは……。
「41階層のリビングアーマーで塔を出たのか? それとも42階層のシャドウが倒せなかったのか?」
「なっ! なんでそれを……」
その言葉にグランは絶句する。しばらくうつむいて沈黙したあと、酒をあおり
「……なんで一年も帰ってこなかった。俺がどれだけ心配したと思ってんだ」
グランの震える声に、胸が締め付けられた。
「……すまん。信じてもらえるか分らんが――」
俺は、塔に入ってからルシフェルに出会い、そのあと何があったのかをかいつまんで説明した。
「世界を救えだって……? いや、それも驚いたけど……それより、お前が一年も塔に閉じ込められてたなんて……なんてこった……そんなことが……」
グランはうつむいて何かをつぶやいている。俺の話を受け入れようと、必死なのだろう。
そして、俺が三杯目の酒に口をつけた時。
「……分かった。いや、分らんけどいい! とにかく、お帰り!」
吹っ切れた顔でそう宣言し、杯をこちらに突き出した。
あぁ、よかった……。
グランが昔と変わっていないことに、心の底から安堵した。
俺は突き出された杯に、杯を合わせる。
「ただいま!」
読んでくださってありがとうございます!
出てくるのに一年かかりましたが、過程はすっ飛ばしました!( ゜Д゜)




