第三話 〘施錠〙
デカネズミを撃破した後、俺はその勢いで順調に階層を上がっていった。階層主を倒すとレベルが上がる仕組みらしい。レベルが上がるたびに身体能力が上がり、スキルが使えない俺でも剣一本で戦えることに自信が湧いてきた。
しかし……十三階層でその自信は粉々に砕かれた。
「ワニゲーター……」
鋭い牙と大きな口、長い尾を持つ四つ足歩行のモンスターだ。硬い鱗に覆われたその体は、高い防御力を備えている。俺は剣を抜きワニゲーターの背中を切りつけるが……。
ガンッ!
鈍い音とともに刃ははじかれてしまった。
……斬れない。
「くそっ……時間がかかりそうだ、な!」
切れなくてもダメージは蓄積するはず!俺はワニゲーターの牙、爪、尾の攻撃をかわしながら、もはや鈍器と化した剣で殴り続ける。俺の予想通り、ワニゲーターは徐々に動きが鈍くなっていった。
「よし、いけそうだ」
俺が勝利への道筋を確信したその時――
バキッ!
叩きつけた俺の剣は、耐久力の限界に達して根元から折れた。
「は?」
嘘だろ?
あっけにとられ隙だらけの俺に、ワニゲーターは勢い良く尾を叩きつけた。
「っぐっがぁぁ!」
俺は軽々と吹き飛ばされ、床を転がる。早く立ち上がらなければ……しかし体が痛みで硬直し、思うように動けない。
「があ゛ぁぁぁぁぁ!!」
仰向けに倒れている俺にワニゲーターが圧しかかる。
やばいやばいやばいやばい!!
俺の目の前で、ワニゲーターが口を開ける。
そして、時間が引き飲まされたように、ぬらりと光る鋭い牙が、ゆっくりと俺に迫る。
「や、やめ!」
バグンッ!
そこで俺の意識は途絶えた。
――目を開けると真っ白な空間が広がっていた。
あれ? 俺は……?
震える手で頭や体の状態を確かめる。
「……生きてる?」
意識が混濁していた。
「おかえり」
耳に届いたルシフェルの声に、俺の意識は急速に覚醒した。
「おかえりじゃねーよ!!死ぬかと思ったじゃねーか!!」
俺は上半身を跳ね上げて、腹の底から込み上た怒りをルシフェルにぶつけた。
「ごめん。僕のミスだ。」
「なっ……」
神妙な面持ちで素直に謝るルシフェルに、俺は勢いをそがれてしまう。
「……ミスってなんだよ」
「階層主のレベルが、挑戦者より『1』高いっていうこと、説明してなかった」
そうだよ。それで苦労してるんだこっちは……。
「でも塔で死ぬことはないから、安心して」
「そういう問題じゃねーよ!!」
他人事だと思って!! 確かに死んではいないけど!? 死ぬほど痛いし苦しいじゃねーか!! 今でも思い出しただけで震えてくる……くそっ! 怒りで頭がおかしくなりそうだ……。
「……他に言い忘れてること、ないよな?」
「ん?えーっと……あ!」
あるのかよ……。
「塔で死ぬと、レベルが『1』下がります」
「下がります。じゃねーよ!!」
折角上げたレベルが下がるとか悪夢じゃねーか!
「あと、再挑戦する時は、踏破した階層の一つ下の階からスタートです。説明は以上!」
なにその満足げな顔……ぶん殴りたいんだけど……。
「最後に、十階層を超えたルゥにプレゼントだよ」
ルシフェルの言葉に合わせて、俺の前に新しい装備が現れた。
「あのさ……これって、攻略途中に貰えないのか?」
俺の質問にルシフェルは顎に手を当てて考える。
「んー、それじゃあ十階層毎に、ここに戻れるようにしよう!」
ひらめいた! って顔やめろよ。
俺のルシフェルに対する評価はダダ下がりである。
「あと、飯は?」
「食べたい?」
「当たり前だろ!!」
「ここにいる間は別に食べなくても平気なんだけどなぁ」
いや、飯ぐらい食わせてくれよ……。
「じゃあこれ」
俺の前に袋が現れる。その中入っていたのは……。
「……豆?」
「うん」
「……肉は?」
「ないよ」
「……米は?」
「ないよ」
「終わってる!!」
だめだ、ここにいるとおかしくなる……。一刻も早くここから脱出しなければ……。
「もういい。わかった。行ってくる」
俺の言葉にルシフェルは満足げに微笑んだ。
「行ってらっしゃい」
戻ってきたぜ十一階層。俺は階層主の部屋まで急ぎ足で進む。ルシフェルの説明通りなら、俺のレベルは今、12のはず。つまり、ここの階層主と同じレベルだ!
「出たなアンガーホース」
一度倒した相手だ。油断しなければ、なんてことない相手だが……。
「これでようやく試せるな」
俺は不敵に笑い、スキルを発動する。
〘施錠〙
ドサッ
目の前にいたアンガーホースは、その場で崩れる様に倒れ、光の粒となってちりじりに消え去った。
す、凄い……。これが、鍵司の……俺の力……。
目の前で起きた現実と、大きすぎる力に身震いする。世界を救えると言われた理由が、ようやく分かった。
「この力があれば……。救ってやるさ。この世界を」
俺はようやく自分の使命を受け入れることができた。
読んでくださってありがとうございます!
少しでも楽しんでいただけたなら、とても嬉しいです。
三話めでようやく施錠をお見せすることができました(;^_^A




