第二話 希望と絶望
「僕は『ルシフェル』だよ。よろしくね」
ルシフェルはそう言って微笑んだ。その顔からは、先ほどまで感じていた威厳がすっかり消えている。
なんか、さっきまでと雰囲気が変わった?
「……ふぅ。疲れたぁ」
いきなり人間味を帯びたルシフェルは、いつの間にか現れた純白のソファーに体を預けながら、満足そうに息をつく。
「いやー、引き受けてくれてほんと助かったよ。それっぽく振る舞うのも疲れるし、でも、いい仕事したよね」
……もはや別人。あれ? コイツ、結局何者なんだ?
「あの……ルシフェル様は、神様ですか?」
俺の問いかけにルシフェルはきょとんと眼を丸くし、そして苦笑いする。
「あはは。違うよ。僕は神からこの世界を任された者。そうだな……『管理者』って言えば分かりやすいかな?」
……管理者?
「えっと、管理者って……ルシフェル様が、世界を救うことはできないんですか?」
続く質問に彼は首を横に振る。
「ルシフェルで良いよ。残念ながら、僕はあくまでも人を導くことしか許されていないんだ。塔の外に出ることもできないし……だから、ルゥが現れてくれて本当に助かった」
その言葉に俺の体がぶるっと震える。胸が熱くなり、口元がむずむずと動くのを抑えられない。さっきまで、あれだけ絶望していたのが噓のようだ。感動に浸る俺に、ルシフェルは思い出したように告げる。
「そうだ! 左手の甲に現れた紋様は『使徒』の証。僕と契約した証であらゆる状態異常を防いでくれるよ」
「え!?」
そんな凄い効果が!?
思わず左手の紋様とルシフェルの顔を交互に見比べる。
「それくらいの特典がないとね。あと、君に死なれたら困るしさ」
はしゃぐ俺に、ルシフェルは申し訳なさそうに本音をこぼした。
「さてと、それじゃあさっそくレベルを上げに行ってもらおうかな」
ルシフェルはスッと腕を横に振る。すると俺の前に長剣と軽鎧が現れた。
これは……ひよっこの俺の目から見ても、あまりいい物ではなさそうな……。いや、実は凄い能力を秘めている……とか?
「初心者セットー!」
俺の期待は裏切られた。
「いきなり高レベルの装備を渡しても扱いきれないからね。ルゥのレベルが上がったら、装備の質も上げていくから安心して!」
そう言って俺にウインクを飛ばす。
やめろよその顔でそういうことするの……。しかしなるほど。ごもっともである。
気持ちを切り替えて剣と鎧を装備すると、再び俺の感情は高ぶってきた。……諦めていた夢に挑戦することができる。その事実が何よりも嬉しかった。
準備が整った俺を見て、ルシフェルはとんでもないことを言い放った。
「行ってらっしゃい。あ、そうそう、この塔を踏破するまで、外には出られないから、頑張ってね」
視界が歪み暗転する。
「……は?」
移動させられた場所で、俺はしばらく呆然と立ち尽くした。ルシフェルが言い放った衝撃の一言を反芻する。
「……外に……出れない?」
沸々と腹から怒りが込み上げる。
「嘘だろぉぉぉぉ!」
俺の絶叫は誰もいない空間にむなしく響き渡ったのだった……。
「とにかく、レベルを上げればいいんだろ。やってやるさ」
いつまでも嘆いていたって仕方ない。数分かけてようやく開き直った俺は、一刻も早く塔から脱出するため、階層主のもとへ向かった。『鍵司のスキルがあればレベルなんてすぐに上がる』と、この時の俺は完全に慢心していた。
通路が開け、広い空間に出ると、部屋の真ん中に猫サイズの『デカネズミ』がくつろいでいた。
「あれがここの階層主か」
ギュイィィ!
俺に気付いたデカネズミが臨戦態勢をとる。
よし、やってやるぜ!
〘施錠〙
俺はデカネズミに向かってスキルを発動した。
その瞬間――
デカネズミはこちらに向かって飛びかかってきた。
「えっ!?」
慌てて横に大きく飛び、デカネズミの攻撃を回避する。
なんで!? スキルが効かない!? やっぱり鍵司ってポンコツなのか!?
パニックになりかけた俺の脳裏にルシフェルの言葉が蘇る。
『スキルは自分より高レベルの存在には効果が無い』
……ちょっと待てよ。もしかして……階層主って全部俺より高レベルなのか……?
確認するため、もう一度スキルを発動する。
〘施錠〙
しかし効果が無いようだ。デカネズミは張り切って俺に牙を立てようと向かってくる。
……くそっ! 色々説明が足りてない!!!
俺はルシフェルに対する怒りを剣に乗せ、向かってくるデカネズミにたたきつけた。
ギュィィ……
あっけなく倒れたデカネズミは、少しして光の粒子となって消えた。
……そりゃな。一階層の相手だからな。
慌てなきゃギフトを授かる前の俺だって倒せる相手だ。
でもなぁ……この先の階層主にスキル無しで勝たなきゃいけないって事だろ?
「ハハハ……」
俺の口から乾いた笑いがこぼれる。
いつになったら外へ出られるんだろうか……。
先の見えない未来に絶望するのだった。
読んでいただいてありがとうございます!
最強と言われたスキルが使えないなんて(´Д⊂ヽサギダッ!
ルゥが塔を出るまでどれくらい時間がかかるのか、予想しながら続きをお楽しみください( *´艸`)




