第十話 悪魔
塔に着いた俺は、周囲をぐるっと見回した。
「……誰も居ないか」
対の刃はそれぞれレベル上げに励んでいるようだ。安心したところで、俺も塔の魔法陣へ――。
見慣れた白い光に包まれ、次の瞬間にはルシフェルの部屋に立っていた。
「ルシフェル! ダンジョンにヤバい奴らがいた!」
「いらっしゃい。……ルゥもなかなかだよ。それで……ヤバい奴らって?」
「今更だろ? それより、頭に角が生えた人型のナニカなんだけど、何者か分かるか?」
俺の言葉にルシフェルの表情が強張る。
「頭に、角? 他に特徴は?」
特徴か……。
「あと、肌が黒かったな。なんか目も黒かったような」
「羽は? 羽は生えていたかい?」
羽? 生えてたか?
「すまん、そこまでは確認できなかった」
「そうか…」
そう呟いたきり、ルシフェルは黙り込んでしまった。俺は巾着からダンジョンで回収した大木の切れ端を取り出し、ルシフェルに見せる。
「ダンジョンのボス部屋に、気色の悪い木が生えててさ、そいつらが『種』って呼んでたんだけど」
ルシフェルは切れ端を見つめたまま、しばらく言葉を失っていた。
「……間違いない。これは『世界樹』だ」
「世界樹?」
「『世界樹』――『生命の樹』とも呼ばれる、この世界すべての生命の起源だ。人も魔物も、最初はあの樹から生まれたんだよ」
う、嘘だろ……俺たちあんな化け物みたいな木から生まれたのか……?
「おそらく、ダンジョンに生えていたのは、意図的に作り変えられた世界樹、だと思う。そして、ルゥが見た相手が僕の想像通りなら……彼らは堕ちた管理者――『悪魔』と呼ばれる存在だ」
……堕ちた管理者? 悪魔?
「ちょっと待ってくれ。情報量が多すぎる。一つずつ説明してくれ。まず、堕ちた管理者って言うのは、要はルシフェルと同じ存在ってことか?」
俺の問いかけにルシフェルは複雑な顔をした。
「元々は、だね。彼らは管理者としての使命を放棄して、神に『堕落の印』を刻まれた。そして、その際に大半の能力を失った――はずなんだけど……」
「……けど?」
ルシフェルの顔が歪む。
「世界樹を変質させられるくらいには、力を取り戻しているみたいだね」
おいおい……ルシフェルと同じ存在だって……?
「……それって……人間に何とかできるのか?」
「あぁ、ごめんごめん。誤解させるような言い方をしてしまったけど、悪魔たちも人間と同じようにレベルがある。だから、今のルゥなら倒せるよ。世界樹を変質させたのは、彼らが持つ能力――『権能』だ。人間で言う、スキルみたいなものだね」
「そんなとんでもなくヤバいスキルがあるのかよ……」
「とはいってもそんなに簡単に使えるわけでもないんだけどね。『権能』は一度使うと、再使用まで一カ月はかかるかな」
そっか。それなら安心……ん?
「ちょっと待てよ? ってことは、一カ月たったらまた奴らは種を作り出して、どこかのダンジョンに植えるのか?」
俺の言葉にルシフェルは難しい顔で静かに頷く。
「その可能性は高いね」
「はぁぁぁ!? 冗談じゃねーぞ! そんなもん、いちいち見つけて処理できるわけねーだろ!」
「ルゥ!?」
突然声を荒げた俺に、ルシフェルはたじろいだ。
「ルシフェル! 居場所の心当たりないのか!?」
「あ、あぁ。さっきも言った通り、彼らも力をつけるためにレベルを上げているはずだ。『試練の塔』がある街に潜んでいる可能性が高いと思う」
「うそだろ!? この街にあいつらがいるのか!?」
「え?」
「……え?」
「いや、この街とは限らないけど……」
「え?だって今、試練の塔がある街にって……」
…………。
ルシフェルは心の底から残念な目で俺を見て、深い溜息をついた。
「はぁぁ……。いいかいルゥ。この世界には、全部で七つの試練の塔があるんだよ?」
「……マジで?」
「それくらい知っておいて欲しかったよ……」
ルシフェルが眉間をほぐしている。
いや、だって俺、今まで街から出ることなんてなかったし! そんな常識みたいな言い方されても! グランだって知らない……ハズ!!
「まぁ、ルゥが残念なのは分かったよ。とりあえず左手を出して」
心の中で必死に言い訳をしていた俺にルシフェルは言った。俺が左手を差し出すと、ルシフェルは右手を重ねる。
「うっ!!」
ほんの一瞬、目がくらむほど激しい光が世界を包む。
「ふぅ……。ルゥが彼らの気配を感じられるようにしたよ」
おお! 流石ルシフェル!!
「よっしゃ! これであいつらが近くにいればわかるんだな!」
「言っとくけど、無限に察知できるわけじゃないから。せいぜい街一つ分くらいだからね?あと、ダンジョンはもっと特殊で……同じ階層にいる時くらいしか分かんないよ?」
「十分だろ! 見つけ次第ぶちのめす!」
俺の言葉にルシフェルは柔らかな笑みを浮かべた。
「ああ。君ならきっと大丈夫だ。任せたよ」
「おう! 行ってくる!」
そして俺は塔を後にした。
読んでくださってありがとうございます。
ヤバい奴は悪魔だった!この世界では悪魔はマイナーな存在なのです(/・ω・)/




