第十一話 〘開錠〙
塔から出た瞬間、左手の紋様が反応するかと期待していたのだが……。
しかし何も起こらなかった。
がっかりしている俺の前に、リーズが現れた。
「師匠!師匠も塔にいたんですね!でも上げるレベルがないのに……ふがっ」
「ばか!声がでかい!」
俺は慌ててリーズの口を塞いだ。
「す、すみません……でも、なんで塔に?」
「皆が揃ったら話すよ」
そういって俺たちは全員が揃うのを待ち、当たり前のように家へ集まった。
「……お前たちに大事な話がある」
普段とは違う俺の雰囲気に、皆の顔も強張った。
「今日、トーラス遺跡の調査でやばい奴と遭遇した。それで俺は塔に行き、ルシフェルに確認したんだが……。そいつらは『悪魔』というらしい」
「悪魔……ですか?」
シルの問いかけに、俺はゆっくりと頷く。
「元々、この世界の管理者だったそうだ。だが、使命を放棄して堕とされた。ルシフェルはそう言っていた」
話の大きさに、皆が困惑の表情を浮かべている。
「それと、この世界には試練の塔が七つある」
…………。
沈黙を破ったのは、サリアだった。
「……それが、どうかした?」
俺は目線をグランに合わせる。
「グランは知っていたか?」
「……まぁ、常識だしな」
くそがっ!!……グランに裏切られた。
俺は心に深い傷を負った。
しかし、皆に悟られないよう、感情を抑えて話を続ける。
「これから先、お前たちも無関係じゃいられない。これはこの世界で生きる全ての人々の危機だ」
「そんな奴らが存在するなんて……」
「悪魔だなんて……聞いたこともないですよ……」
「あのドラゴンも悪魔の仕業だったんですね……」
「そんなの、人の力でどうにかできるの……?」
暗い表情を浮かべる皆に、力強く言った。
「大丈夫だ。そのために俺がいる。ただ、この広い世界を守るのに、俺一人じゃ限界があるからな。お前たちにも、力を貸してほしい」
俺の言葉に皆が顔を上げた。
「当たり前だろ!お前に任せっきりになんかするかよ!」
「私たち全員の問題です!師匠が一人で頑張る必要なんてないですから!」
「私だって、今日レベル35まで上がったんですよ!頑張れば何とかなります!」
「「「「えっ?」」」」
シルの言葉に皆が固まった。
「マ、マジで?」
「流石に早すぎじゃないかしら……」
「私もうかうかしてられませんね……」
「シル……恐ろしい子……」
シルは自分の発言の異常さを理解していないようだ。「え? え?」とあたふたしている。
ドラゴンの攻撃を最後まで耐えていた時も感じたが……。シルは、このPTの要になるんじゃないか? 俺はうっすらと確信し始めていた――
「なぁ、こんなところまで来て、何するんだ?」
次の日、俺たちは街から少し離れた森へとやってきた。
「修行に決まってんだろ? 今日はちょっと特別だけどな」
「『特別』……ですか?」
シルが辺りを見回して警戒している。
「ここに来たのは、単に人に見られたくないからだ。と、いうわけで、今日はお前たちに、俺のスキルを使う」
「げ……また施錠されんのかよ……」
途端にグランが嫌な顔をした。
「いや、違う。今日使うのは、俺のもう一つのスキル――『開錠』だ」
「……開錠? ですか?」
リーズが首をかしげる。
「俺の開錠を使って、お前たちのスキルを開放する」
「……そんなことも、できるのね」
「てかよぉ!できるならもっと早く開錠してくれればレベル上げだってらくに――ぐふぉっ」
俺の愛のデコピン一発で、グランは地面に転がった。
「お前なぁ。スキルに頼った戦い方はすんなって散々言ってるだろ?」
「でも、それならどうしてスキルを開放するの?」
「状況が変わったからな……。万が一、悪魔に遭遇した場合の事も考えて、俺にできることはやっておきたい」
「それと……グラン以外の三人が、予想以上に優秀だったからな。お前たちなら大丈夫だと思った」
「俺以外ってなんだよ!」
三人は急に褒められて少し恥ずかし気だ。
「グラン。お前から、受けてみるか?」
「え? 俺から?」
俺に選ばれたグランは目を丸くし、にやにやと笑った。
「……知ってるか? そういうのツンデレっていうらしいぜ?」
「黙ってろ!!……いくぞ」
〘開錠〙
スキルの発動と共に、グランの体が光に包まれる。
「なっなんだこれ!すげぇ!」
グランは自分の体を見回して興奮している。
「今ならなんだってできる気がするぜ!」
そして光はグランの体に吸い込まれるように小さくなり、収束した。
「どうだ?」
「ああ、今まで使えなかった……というか自分でも知らなかったスキルを使えるようになってる」
よし。とりあえず成功か。
「ふぅ。実験は成功だ」
「実験!?」
「俺も『開錠』を使うのは初めてだからな」
「嘘だろ!?」
「んじゃ、試しに覚えたスキルの中で、弱めのやつ使ってみ?」
「……なんで弱めなんだよ? 一番強いスキルじゃないのか?」
「使ってみれば分かる。いいからやってみろ」
「んだよ……」
グランは近くに生えていた木に向かって構えた。
「行くぜ」
〘グランドクロス〙!!
ドゴォォォォォッ!
グランが放ったスキルは十字の衝撃波を生み、目の前の木だけでなく周辺の木々も巻き込んで粉々に吹き飛ばした。
「「「す、凄い……」」」
女子3人は、その威力に息を呑む。
そして、当の本人は――
ぱたり。
地面に倒れ伏していた。
あー……やっぱりこうなったか。
「シル、悪い。グランを回復してやってくれるか?」
「え?はっはい!」
シルは慌ててグランに駆け寄る。
「師匠!グランさんは何で倒れちゃったんですか?」
リーズの疑問はもっともだ。
「サリア、説明できるか?」
「えっ? 私?」
急に話が回ってきたサリアは戸惑いつつも説明を始めた。
「多分だけど……スキルは使えるようになっても、それを扱う体は今までのままなのよ。だから、身体の限界を超えちゃったんじゃないかしら」
その答えに俺はうなずく。
「正解だ。本来ならばレベルを上げることで使えるようになる能力だからな」
リーズが手をポンと叩いた。
「なるほど! レベルが上がれば身体能力も上がりますもんね!」
「そういうこと。魔法であれば、膨大なSPの消費で意識を失ったりするかもな」
「……ありうるわね」
「だから、本当にやばい時の切り札だと思っておいてくれ」
俺の言葉に3人は神妙にうなずいた。
「……また実験台にされたの、か」
「尊い犠牲だったぜ」
「うれしくねーよ!」
真っ赤になったグランをシルとリーズがなだめている。サリアも呆れたように肩をすくめ、その様子を見守っていた。
いつも通りの、騒がしい時間。その光景に思わず口元が緩む。
『俺にできることはやっておきたい』
本心から出た言葉だ……。
だが、こいつらには夢を追う冒険者として、真っすぐに上を目指して欲しかった。
そんな、もう一つの本心が胸の奥で小さく疼いた。
読んでくださってありがとうございます。
東野圭吾先生。
謹んでお悔やみ申し上げます。




