第十二話 一石二鳥
「いやー、たすかったよ兄ちゃん」
「と言っても、ウィキッドモンキーくらいしか出ませんでしたけどね」
依頼主の老人は、馬車の手綱を引きながら豪快に笑った。
「ワシにとっては十分脅威じゃからなぁ。カッカッカッ」
俺は隣町までの護衛依頼を受けていた。途中の林道でウィキッドモンキーの群れに襲われたが、軽々撃退。依頼主も上機嫌である。
人に感謝されるのは、やっぱり悪くない。
「また帰りも手が空いてたら、受けてくれな」
「どうも」
依頼書の達成欄にサインをもらい、街の入口で別れた。
あれから対の刃にはレベル上げとダンジョン探索をバランスよく行うように指示を出し、俺は街から街への移動を兼ねて護衛依頼を受けつつ、悪魔の潜伏場所を探っているのだが……。
左手の紋様は、今だ何の反応も示さない。
「ここにもいないな……」
この広い世界で二体の悪魔を探し出すとか無理じゃないか? 俺は早くもくじけそうになっていた。
「念のため街中も確認するか」
ハズレだとしても何か手がかりが見つかるかもしれないしな。俺は街を散策することにした。
「治安の差が激しい街だな……」
表通りは綺麗に整備され、新しい店や露店で活気にあふれているものの、ひとたび路地に入ると、飲み屋や娼館、カジノが建ち並び、酔い潰れた奴がちらほら転がっている。
……そういえば積み荷も酒だったな。
「……帰るか」
路地裏に漂う陰鬱な空気に嫌気を覚え、帰ろうとしたその時。
「よぉ兄ちゃん」
後ろから声をかけられた。俺が振り向いた先には、赤い顔でだらしなく笑う長身の男が立っている。
「……何だ?」
「いやぁ、不幸な俺を助けてくれねぇか?」
「どうして俺が?」
「俺はよぉ、さっきそこで有り金全部すっちまったんだよ。不幸だろ?悲しいよなぁ。こんな不幸な俺に、その金になりそうな腰のもんを――」
バキャッ!
目の前の男から視線を外さないまま、背後へ裏拳を叩き込む。後ろから襲い掛かってきた、もう一人の男に向けて。裏拳が直撃した男は盛大に倒れ、鼻血を垂らしてピクピクと痙攣している。
「腰のもんを、何だって?」
「ヒッ、ヒィィ」
俺の威圧にビビった男は、真っ青な顔になって一目散に駆け出した。やれやれ。あまり負の感情をまき散らさないで欲しいんだが……。
「……それで、いつまでそこで見てるつもりだ?」
俺は気配を感じた物陰に向かって声をかけた。呼びかけに姿を現したのは、身なりの整った初老の男だ。
「失礼いたしました。私、この街を取り仕切っております『オレントファミリー』の若頭補佐を務めております。サンタナと申します」
男はそう言って優雅にお辞儀をする。
「あなたのような強い方を見つけては、お声をかけさせていただいておりまして」
こいつ……顔では笑ってるくせに、目だけは俺を値踏みしてやがる。
サンタナは、敵対するマフィアがどうだとか、うちは昔から薬には手を出していないだとか、一方的に話している。そんな話を聞き流しながら、「この街のマフィア、全部潰してキレイにしたら、いい街になるんじゃね?」と考え始めていた時、
「――私共はこの街で最も多くの構成員を抱え、他の街にも顔が利くのです」
サンタナの言葉が俺の脳を刺激した。ん? ……これは使えるかも?
「……分かった。話を聞こう」
俺の返事にサンタナは大げさに喜んで見せる。
「そうでございますか! ありがとうございます。それでは詳しいお話は、場所を変えてご説明いたします」
スッと身を引き手で「こちらへ」と誘導する。
いちいち優雅だなこのおっさん。
呆れつつも俺は案内に従った。……せいぜい俺の役に立ってもらおうか。
案内されたのは、落ち着いた空気が流れ、上品な調度品が置かれた高級感高級感漂うバーだった。
「このような場所で恐縮です。お飲み物はいかがでしょうか?」
「いや、結構だ。話を聞こう」
「承知いたしました。あなたにお願いしたいのは、ボスの護衛でございます」
「護衛……俺みたいなガキにか?」
「相手を見た目で判断するような輩は、三流でございましょう」
俺の返答にサンタナはニヤリと笑う。
「私はこれでも、それなりに実力があると自負しておりますが」
サンタナは俺に鋭い視線を向ける。
「……あなたはまるで底が測れない。それ故、お声をかけさせていただいた次第でございます」
へぇ……見る人が見れば分かるのか。少し不用心だったかな。次からは気を付けないと……。
「それで? 具体的な内容は?」
「はい。三日後にこの街で世界規模のオークションが開催されます――」
その日の夜。
「それで、依頼を受けてきたのか」
「まぁな。報酬も旨いし、情報網も使えそうだし、一石二鳥だろ?」
「そうだけどよー、相手はマフィアなんだろ? 潰した方が世のためなんじゃないか?」
「それは俺も考えた」
過激な話をする俺とグランに、サリアが呆れ顔でツッコミを入れた。
「待ちなさいよ。世の中には必要悪という考え方もあるのよ? 実際にそのマフィアが、その街の秩序を保っているんじゃないかしら」
俺とグランは揃ってサリアを見つめた。
「な、なによ」
「いや、大人だなぁと。そこまで考えてなかった」
グランがうんうんと頷いている。
「と、とにかく! ルゥの作戦は悪くないと、私は思うわ」
頬を赤らめながらサリアが賛同してくれた。
「よし! おねーさんからオッケーも出たし、いっちょ頑張ってくるかな!」
まずはきっちり仕事を終わらせて、信頼を勝ち取らないとな!
軽い気持ちで引き受けた仕事がまさかの大事件に発展するとは、この時の俺には知る由もなかった……。
いつも読んでくださって、ありがとうございます。
オークション編に突入しました!しかし……オークションの事を書くとは言ってません!( ゜Д゜)カケナイシ
続きもお楽しみください!




