第八十七話 神の僕
「お前、アザゼルの眷属だな?」
俺は『アース・バインド』で拘束された短剣の奴に確認する。
「……そうだ」
短剣の奴は、絶望と諦めが混ざった表情でぽつりと答えた。
「さっきの黒い靄は何なんだ?」
「あれは……アザゼル様から譲り受けた力の源だ……。あの靄がアザゼル様の元へ還った時、俺たちは……死ぬ」
「それじゃ、とりあえずお前は助かったってことだ。まだアザゼルに従うのか?」
「……この世界に破滅をもたらすことが、我々の目的だ……俺の悲願だ!」
男の視線はせわしなく動き、瞳の奥は狂気に染まっていた。
……だめだこいつ。
「そうか。お前とは分かり合えないな」
パァン!
俺は短剣の奴にビンタをかまし、気絶させた。
振り向くと『影縫い』で動きを封じられた三人が恐怖に顔を引きつらせていた。
……まだ三人もいるからな。色々確かめないと。
※※※※※
「アザゼルがここにいるんだな……」
通路を走っている時に、グランが緊張した声でそう言った。
あの後、残りの三人に優しく質問をしてみたところ、アザゼルと四人の眷属がこのダンジョンを攻略していることが判明した。
目的までは分からなかったが、俺の本能が警鐘を鳴らし、急いで追いかけているところだ。
「できるだけ戦闘を回避して、急いで追いつくぞ」
俺は皆に呼びかけた。
※※※※※
「なぁ、モンスターの数、多くないか?」
グランがうんざりした声でそう言った。
「……多いなぁ」
階層を進むごとに、出現するモンスターの数が増えている。
体感で今までのダンジョンの二倍は多い。
「……嫌がらせか?」
「普通に私たちを排除しようとしているだけじゃない?」
サリア先生は冷静だ。
「今まで俺たちの動きを見ていたなら、排除できるとは思ってないだろ? 多分」
「それはルゥさんに限ったことでしょ? 私たちは……分からないわ」
「大丈夫だよ。俺が守るからさ」
「ししょー! カッコ良すぎます!」
「ルゥくん! 今のはずるいよ!」
……何がだよ。
※※※※※
30階層でモンスターと戦っている……いや、襲われているPTに遭遇した。
「ぐぁぁぁぁぁ!」
三体のオーガに囲まれた剣士が石のこん棒でタコ殴りにされている。
少し離れた場所で、五体のオーガの攻撃を盾役と支援役がスキルを駆使して防いでいる。
その後ろに倒れて動かない人影が一つ。
「今助ける!」
グランが真っ先に駆け出した。
「カナエ」
「はい!」
〘影縫い〙
俺の呼びかけにカナエは即座に反応した。
影縫いで動きを止められた八体のオーガは、グランの斬撃で次々と沈んでいく。
シルは倒れている人影に駆け寄り、回復を始めた。
そして、俺はタコ殴りにされていた剣士の口に回復薬を突っ込んだ。
「ごふっ」
「流しこめ」
むせかえる剣士の鼻をふさぎ、強引に回復薬を飲ませると、みるみる傷がふさがっていった。
「げほっ! けほっ……すまない、助かった」
「無事で何よりだ。確認したいんだが、このダンジョンはいつもこんなにモンスターが多いのか?」
「……いや、いつもより……倍は多い気がする。俺たちは異常を感じて引き返していたところなんだが……消耗してこのざまだ」
そう言うと剣士はうなだれた。
「そうか……。ほかのPTには会わなかったか?」
「ゼルアさんのPTとすれ違ったぞ。ダンジョンの異変を調査すると言っていた」
「ゼルア?」
俺が聞き返すと剣士は目を見開いた。
「お前……ゼルアさんを知らないのか? SランクPT『神の僕』のゼルアさんだぞ?」
「……もちろん知っている。聞き取れなかっただけだ」
…………。
「とりあえず、もう大丈夫そうだな。気をつけて帰れよ」
俺はシルの治療を受け、上半身を起こした女性に目を向けた。
「リューズ……あの状態から回復するなんて……本当にありがとう」
剣士は目に涙を浮かべ感謝を述べた。
※※※※※
「ゼルアって知ってるか?」
冒険者たちを見送ったあと、グランたちに聞いてみた。
「そりゃあさ……お前、マジか」
「ルゥさんだものね」
……またこのパターンか。辛いぜ。
「あー……なんか、ゼルアたちが先行してるらしいんだよ」
「えっ!? マジかよ!! ゼルアさんに会えるのか!?」
グランのテンションが爆上がりした。
……そんなに有名なんだ。
「じゃあ、早いとこ追いつこうぜ」
「おう!」
俺たちは先を急いだ。
「しかし、ほんと多いなー」
キマイラの群れを吹き飛ばしながら、思わず愚痴がこぼれる。
「アザゼルがいるからでしょうね」
ルチアがいつもの落ち着いた口調でそう言った。
「だよなー」
「こんなペースでゼルアさんに追いつけるのかー?」
「知らねーよ」
通路から飛び出してきたオルトロスを吹き飛ばしながら返事する。
……まぁ、間違いなく追いつくんだろうけどな。
読んでくださってありがとうございます!
この世界で初めてSランクPT登場です!(名前だけ)
相変わらずルゥは世間を知らないようで……笑
グランがここまで興奮する存在とは、いったいどんなキャラクターなのか……( ̄▽ ̄)
次話もお楽しみに!(*‘∀‘)ノシ




