第八十三話 バビロム
「そういえば……『神々の塔』が『バビロム』という街にあるのは知っていましたか?」
トレインカーで移動中、ルチアが思い出したように俺に尋ねた。
「え? ……街の中にダンジョンがあるの?」
「はい。ダンジョンを囲むように街が作られています」
「それじゃあ、街に入る手続きとか必要……だよな?」
「おそらく。アザゼルの眷属による妨害があるかもしれませんね」
「うーん……めんどくさいな」
「使えるかどうか分かりませんが……カイムの屋敷を調査している時に、この『通行手形』を見つけました」
ルチアは俺に通行手形を差し出した。
……どうやって手に入れたかは聞かないでおこう。
手のひらサイズの札には、『イーリス教国 教皇アインシュテルグ13世』と書かれている。
「教皇って、教会で一番偉い奴のこと?」
「はい、その通りです。そして、この国では教皇が国王にあたります」
「へー、そうなんだ。んじゃ、これ使えるんじゃない?」
「そう、だといいのですが……」
ルチアはそうつぶやくと眉をひそめた。
※※※※※
バビロムの街が見下ろせる丘でトレインカーを止め、俺たちは外へ出る。
半ば崩れた巨大な塔を中心にして、その周りを囲うように街が広がっていた。
「ここからは徒歩だな」
「いよいよですね! なんかワクワクしてきました!」
「ダンジョンの周りに街があるって不思議だね!」
リーズとカナエが盛り上がっている。
「遊びに来たわけじゃないんだぞ?」
「「分かってまーす!」」
……ならいいけど。
俺たちは街を目指して歩き出した。
※※※※※
「なんか、並んでるなー」
街の入口には、長蛇の列ができていた。
「街に入る審査が厳しいんでしょうか……」
シルが不安な声を上げる。
「かもなぁ。ま、これがあるし大丈夫じゃね?」
俺が通行手形を掲げると、皆にジト目で睨まれた。
「いや、心配したって仕方ないだろ? なるようになるって」
「そうだけど……お気楽すぎじゃない? 視線も感じるし……」
サリアの言う通り、列に並ぶ少し前から、俺たちを窺う視線を感じていた。
「来たことはバレたかもなー。あとは向こうがどう出るか」
「いきなり襲ってきたりしないよな?」
「するかもだぞ? 気は抜くなよ」
「お前には言われたくねーよ」
失礼だな。こう見えていつも気は張ってるんだぞ。
俺は心の中でグランに反論した。
――一時間後――
「この書類に記入して提出するように」
ようやく順番が回ってきた俺たちは、純白の鎧に身を包んだ衛兵に書類を差し出された。
「これで通れないか?」
俺が通行手形を見せると、衛兵はそれをじっと見たあと、何事もなかったかのように繰り返した。
「通行手形があっても書類は書類で必要なのだ。記入して提出するように」
……お硬いなー。まぁ、仕方ないか。
通路の脇に備えられた机の上で書類を書いていく。
名前、年齢、人数、出身国、身分証……めんどくせぇ。
うんざりしている俺に、ルチアが小声で話しかける。
「ルゥ。ここには正直に書かない方がいいですよ」
「え?」
「情報を把握されると、後々都合が悪いですから」
「でも、身分証はどうするんだ?」
「ちゃんと用意しています。これを」
ルチアは偽造した冒険者証を俺に渡した。見ればキリエが他の仲間にも同じように渡している。
……凄すぎるだろ。
書き上げた書類と冒険者証を渡すと、衛兵は門に備え付けられた小屋に行き、少しして戻ってきた。
……大丈夫かな?
「審査は完了した。街にいる間はこれを身に着けるように」
衛兵は薄紫色に光るブローチを渡してきた。
何事もなく通れることに安堵していると、衛兵は続けて言った。
「それと、君たちには最初に行ってもらう場所がある。案内を付けるのでついていくように」
「え? いりませんけど」
反射的に断るが……。
「先程の通行手形を持つ者は必ず連れてくるように言われている。そちらの事情は知らないが従うように」
有無を言わさぬ物言いにイラっとしていると――
「わかりました。お願いします」
ルチアがすかさず割って入った。
※※※※※
「あの、どちらに向かわれているのですか?」
「この街の最も大きな教会『グラト教会』です。あなた方は賓客ですので、まずはこの街におられる枢機卿のもとへご案内するよう申し付けられております」
ルチアは完ぺきな営業スマイルを装備して、案内役から情報を引き出している。
キリエが殺気を飛ばしまくっているが、ルチアの魅力に取り込まれたのか、案内役は全く気付いていない。
……凄すぎるだろ。
しかし……わざわざ偉い人に会わなくちゃいかんのか……抜け出せないかなー。また面倒なことにならないといいけど……。
俺は前を歩く二人の背中を見ながら、早くも気疲れしていた。
読んでくださってありがとうございます!
神々の塔は街のど真ん中にある!これまでのダンジョンとは様子が違うようです!
ダンジョンに行きたいだけのルゥにとっては大誤算でしたね(。-∀-)
そして、ルゥに代わってルチアが大活躍!(∩´∀`)∩デキル!
それでは次話もお楽しみください(*‘∀‘)ノシ




